For Tracy Hyde「Film Bleu」

Film Bleu

Film Bleu

2012年結成の5人組による初フルレンス。


カタカナでブルーフィルムと書くと随分と違ったイメージになってしまいますが、楽曲から発せられるノスタルジーという点では案外共通するものがあったりして。曲はもう完全にシューゲイザー/ドリームポップ。疾走感の中で瑞々しく弾けるクリーントーンマイブラ譲りの眩暈を誘発する不協和音ディストーション、その目の眩むほどの煌めきをさらに際立たせるシンセサイザー、そして絶妙にヘタウマな女性ヴォーカルの愛らしさ。以前はラブリーサマーちゃんが在籍していたとのことで、バンマスの頭の内には理想とする音楽像がかなり具体的な形で存在してるのでしょう。昨今の渋谷系新世代やアイドルポップにも目配せしつつ、The Pains of Being Pure at Heart も凌ぐレベルのエヴァーグリーンな青春ど真ん中。個人的にはやはり「Her Sarah Records Collection」や「Last Regrets」のような、ジャングリーに弦を掻き鳴らすギターロックらしいギターロック、この辺の90年代初頭に対する憧憬が特に際立った楽曲群には、悔しいけれど参ってしまう。輪郭がはっきりしたヴォーカル処理は聴いていて気恥ずかしくなることもあるけれど、言わばそれも青春の姿か。

Rating: 7.1/10



For Tracy Hyde - Favourite Blue (Official MV)

陰陽座「迦陵頻伽」

迦陵頻伽

迦陵頻伽

2年2ヶ月ぶりとなる13作目。


彼らのアルバムを飛び飛びにばかり聴いていて申し訳ないのですが、思っていた以上にピアノ/シンセによるシンフォニックな装飾が多く、それによって彼らの持つ世界観がより深く重厚なスケール感を獲得しており、これほどに大きな存在感のあるバンドになっていたのだなという妙な感慨が沸き起こっています。「迦陵頻伽」というアルバムタイトルに沿ってか黒猫の流麗かつパワフルなヴォーカルが高い比重を占め、どっしりとした勇壮な演奏に純和風の味付けを多く施した、正しく日本人ならではのヘヴィメタルポップ。先行で配信されていた「刃」や「愛する者よ、死に候え」などは完全に彼らの王道を踏襲したものだし、スラッシーな攻撃性が強く出た「廿弐匹目は毒蝮」、人力ディスコビートを取り入れた結果90年代ビーイング感の弥増した「轆轤首」など、程良く幅を広げつつデビュー以来の陰陽座のイメージをさらに強固なものにした楽曲群。最近の人間椅子もそうですが、彼らもまたマンネリズムの域を脱し、自らの持ち味をひたすら磨き続けたが故の強靭さを誇らしく発揮しています。いくら色物視されようが、結局は信念のあるバンドが勝つのですね。

Rating: 8.2/10



「愛する者よ、死に候え」(MV)