ドレスコーズ「平凡」

1年5ヶ月ぶりとなる5作目。


もともと志磨遼平には毛皮のマリーズ時代からロジカルな策士という印象を抱いていましたが、ここまで来るとさすがに拗らせすぎではなかろうか。今作は楽曲だけ聴けば Talking Heads あるいは JAGATARA を想起させるファンク/ジャズ/ラテン/エスノ、すなわちブラックミュージックの範疇にある種々の音楽要素を取り入れた意欲作。鋭いギターカッティングやパーカッション大盛りのアフロビートなど、これまでの彼のキャリアになかった濃密なグルーヴ感溢れる楽曲は非常に刺激的。そんな個性的な音楽性に反して歌詞のテーマはズバリ「平凡」。長髪を切ってスーツを纏い、過去のパンクスタイルをかなぐり捨てて演じた「凡人」。破天荒なカリスマ/ロックスターが求められない現代の音楽シーンにおいてこれが真に異端なアートだという、もうメタ批評のループ地獄。ただ今作、BPM が速い曲が多いせいか素朴にこれまでの発展形、延長線上とも受け取れるし、David Bowie を筆頭とするスターへの憧憬自体は死んでるように見えないのですね。音楽面ではルックスほどに自分を殺し切れておらず、ロックシーンに対する問題提起としてはいささか中途半端な気が。

Rating: 5.7/10



ドレスコーズ「エゴサーチ・アンド・デストロイ」PARALLEL VIDEO from『平凡』【イヤホン視聴推奨】

電気グルーヴ「TROPICAL LOVE」

TROPICAL LOVE(初回生産限定盤)(DVD付)

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4年ぶりとなる13作目。


昨年の卓球ソロ作「LUNATIQUE」でのムーディで淫靡、なおかつストイックな音の印象がまだ残っていただけに、オープナー「人間大統領」でのピエール瀧の素っ頓狂なヴォーカルにずっこけながら嬉しくなってしまった。このB級でコミカルで毒っぽいポップ感こそが電気の味だったなと今更ながら。楽曲のほとんどを MacBook の作曲アプリのみ、しかも1ヶ月ほどの短期間で作り上げたという本作。そのせいか練り込み過ぎないラフな感触が全体に共通してるように感じます。ただその中にも耳に残るフック、4つ打ちのミニマルな快楽性、そして先にも述べた悪ふざけの毒素、これら電気としての一番の武器は決して外さず、結果的に電気のコアを成す部分が過不足ない形で表れた、ある意味これまでで最も自然体な内容なのかも。表題曲「トロピカル・ラヴ」や「ヴィーナスの丘」でのラテンフレイヴァーにしても、よく考えれば過去に何度か見られたものだけど、無理なくアップリフトしていく展開の巧みさ、歌モノとしての上質さはやはり今の彼らならでは。ただ最後の「いつもそばにいるよ」という曲名から「虹」みたいな締めを予想していた自分は甘かった。

Rating: 7.3/10



電気グルーヴ 『トロピカル・ラヴ(Video Edit)』