ゆるふわギャング「Mars Ice House」

Mars Ice House

Mars Ice House

2016年結成の3人組による初フルレンス。


ある意味とっても宇宙的。トラップの緩やかなグルーヴをさらに緩く仕立てたドリーミーなトラック、そこに乗る Ryugo Ishida と Sophiee のラップもだらりと緩い。自らの目に見える情景、心象、あるいは単純に好きなものについて歌い、その目は眠たそうだけど何処か挑発的でしたたかな、悪い薬でハイになってるままなのではという塩梅。例えば KOHH とはまた別種のテキトーさ加減で、半径数メートルのセカイをサイケデリックな意匠によって夢見心地の小宇宙へと変える、その手つきは高いスキルやアウトローライフを誇示するような従来的ヒップホップマナーとは随分と離れたもの。名は体を表すとばかりにゆるふわのキラキラ、だけれどその奥に潜む奇妙な毒が聴き手の感覚を迷路に誘う、新世代と呼ぶに相応しいポップ感です。特にユニット結成のきっかけにもなったという「Fuckin' Car」などは聴いていてだんだん眩暈が起こりそうになるし、彼らなりの青く真摯なエモーションが発露した「Stranger」「大丈夫」、不穏なノイズがバッドトリップを思わせる「Escape To The Paradise」など、リアルと夢の境目を融解させた15曲58分。

Rating: 7.4/10



ゆるふわギャング "Dippin' Shake"

女王蜂「Q」

Q

Q

約2年ぶりとなる5作目。


前作「奇麗」においても良い意味での音の軽さ、風通しの良さが印象的でしたが、今作ではその方向性を突き詰め、より大胆にポップに向かっています。オープナー「アウトロダクション」からピアノ、ストリングスに合唱隊まで盛り込んだ壮大なアレンジに驚かされ、続く DAOKO 参加の「金星」ではほぼリミックスとも言える大幅なエレクトロニクスの導入、その他にも以前よりはっきりとファンク/ディスコ的なダンスグルーヴを追求した楽曲が揃い、さらにオープンに開かれたムードが眩しく映る。それは昨今のメインストリームへの目配せでもあるだろうし、元々彼女らの内にあったフィジカルな快楽への意識を高めた結果でもあるのでしょう。ただこのポップサイドについては、メロディやコードをいささか捻り過ぎて情感が伝わりにくくなっているように感じるのと、後半に据えられた表題曲「Q」や「雛市」といった情念山盛りバラード曲との乖離が気にかかってくる。確かにどちらも女王蜂の魅力として必須な要素ではあるし、毒を抜き過ぎても個性が失われるしで難しいバランスではあると思いますけどもね。個人的には過渡期的な習作という印象でした。

Rating: 6.3/10



女王蜂 『DANCE DANCE DANCE』(Full Ver.)