漢 a.k.a. GAMI 「ヒップホップ・ドリーム」

ヒップホップ・ドリーム

ヒップホップ・ドリーム

新宿を拠点に活動するラッパーの13年ぶり2作目。


数年前からの MC バトルブームをきっかけにようやくヒップホップに対する抵抗感が解けて色々なラッパーを漁り出しているのですが、それでも所謂ギャングスタラップには相容れない壁のようなものを感じてしまいます。いかに自分がアウトローな存在であるかを誇示し、セルフボーストに終始しているラップというのはどうにも単調に感じるし、あまりにも自分の価値観とかけ離れ過ぎているから。しかしこの MC バトルの牽引役と言える漢、また BAD HOP などにも同じことが言えるかと思いますが、彼らはギャングスタとしての美学を貫きながら、決してそれが単なるこけおどしには陥らない、まるで自分自身がひとつのアンダーグラウンドのドキュメンタリーであるような、ズシリと重い説得力を感じます。一貫してダークでシリアスな楽曲群の中で、漢のラップはむしろストーリーテリングのように早口で言葉を詰め込み、現場のひりつくような空気感を生々しく伝えようとする。当事者でありながら何処か客観的、なおかつ贅肉を削いだタイトさが強い緊張感を生み、そこにはドリームどころか目の前のハードコアな現実しかない。これが新宿スタイルの凄味か。

Rating: 7.0/10

清春 「夜、カルメンの詩集」

夜、カルメンの詩集(初回盤)

夜、カルメンの詩集(初回盤)

約2年ぶりとなるソロ9作目。


今回のテーマは「スパニッシュ」ということで、フラメンコギター奏者を迎えてアルバム全編にラテン要素を導入。ただそれは決して突発的、実験的な試みというわけではなく、昨年に年間通して行われたライブシリーズ「エレジー」しかり同名のアルバムしかり、近年の彼がアコースティックの編成に特に力を入れていることを考えれば自然な流れと言えるかと思います。そしてその化学反応は見事に成果を上げており、ハスキーかつ甘いハイトーンで深く情感を込めて歌い上げる清春の魅力を大きく膨れ上がらせています。ストレートにラテン要素が現れた「悲歌」から、力強くボトムを支えるリズム隊が情熱を一層引き立てる「赤の永遠」、かつての「EMILY」を彷彿とさせるファンクロックの躍動感も加味された「眠れる天使」、ドラマチックな悲愴に満ちたストリングスが狂おしく響く「TWILIGHT」など、ラテンを主軸としつつ楽曲毎に微妙に異なる趣向を凝らしており、トータリティを確保しながらも彩りは豊か。清春ならではのブルージーな湿り気を帯びたメロディと歌、その世界観がここに来て更なる深みへと到達したことを雄弁に告げる充実作です。

Rating: 8.4/10



清春「夜、カルメンの詩集」スペシャルティザー