Kanye West 「ye」

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2年4ヶ月ぶりとなる8作目。


カニエの諸作を聴いていて常々思うのは、まあ何とも泥臭いということ。強烈な言動がゴシップとなっていちいち世界中を賑わせたりと、一体何を考えているのか凡人にはよく分からんパーソナリティをお持ちの彼。そんな彼が作る楽曲は、自身の経験や思想を投影した歌詞はもちろんのこと、カオティックとも言えるほどの多様なアイディアが詰め込まれたサウンドにも彼という破天荒なキャラクターがダイレクトに反映されているようで、そのダイナミックなエンターテインメント性とは裏腹に妙な人間臭さを感じるのですね。それでこの新作、これまでの大作志向から一転してわずか7曲23分。ただ尺は短くともその中にカニエらしさは十分表れていると思います。希死念慮の中で足掻く様を生々しく伝える「I Thought About Killing You」を筆頭に、前半では彼の内なる闇が緊張感を持って描かれますが、「Wouldn't Leave」からは対照的にスウィートな雰囲気を纏い、柔らかく繊細な表現へとシフト。このあからさまな二面性、そしてジャケに載せられた「双極性障害はクソだ」の一文。まるで作品自体が自らに向けた精神的リハビリのような。

Rating: 7.2/10

mouse on the keys 「tres」

tres

tres

2006年結成の3人組による、約3年ぶり3作目。


元々彼らにはツインキーボードが織り成すジャズあるいはクラシックの美しさと、荒々しいドラムが牽引するポストロック/マスロックの複雑かつパワフルな推進力、この二本柱が一番の根本にありました。今回の新作では多くのゲストを迎えることにより、彼らが従来から見せてきたその魅力をさらに拡張することに成功しています。カナダ出身の女性シンガー Dominique Fils-Aimé を招聘した「Stars Down」や「Pulse」では、エレクトロニックな質感を強めた音作りにより流麗かつソウルフルな歌声を引き立て、ジャズならではの深くビターな味わいをドリップ。その一方で米国の若手マスロックバンド CHON からギタリストを招いた「Time」では、彼らが最も得意とするアグレッシブな疾走感のある曲調に、肩の力が抜けつつもキッチリ存在感をアピールする速弾きプレイが密接に絡み、これぞマスロックと言える聴き応えを短い尺の中に詰め込んでいます。また全体的にトラップを意識したのか、深いタメを活かしたグルーヴが印象的な場面が多く、作品全体に流れるムードは以前と同様にクールに統一されながらも、曲構成においては確かな革新が伺える。充実の一枚です。

Rating: 7.8/10



mouse on the keys - "Time (feat. Mario Camarena of CHON)"