水曜日のカンパネラ 「ガラパゴス」

ガラパゴス

ガラパゴス

1年4ヶ月ぶりとなる7作目。


オープナー「かぐや姫」では雅楽のような神秘的エキゾチシズムを纏い、「愛しいものたちへ」「キイロのうた」ではほとんどリズムレスでアンビエント的浮遊感が強調されるなど、従来のダンスポップ路線の枠組みから大きく外れた実験的要素が目立ちます。「南方熊楠」「見ざる聞かざる言わざる」のような比較的ビートの効いた楽曲にしても、あくまで上モノのスペーシーな広がりを助長するようにビートが添えられており、歌モノとしてのキャッチーなフックではなくサウンドのミステリアスな空気感を重視した作り。これは現在のカンパネラにとって結構なチャレンジではないかと思いますが、ここでネックになるのはやはりコムアイのヴォーカルの弱さ。過去の楽曲ではスタイリッシュなトラックにコミカルな歌唱という歪なバランス感覚の妙技が彼女らの味として機能していましたが、今回のサウンド志向な路線ではそのコミカルさがあまりプラスに作用しているように思えず、一級品を目指すほどにその歌とトラックの間の溝が深まっているように見えます。新たな可能性を模索している、まだその模索段階の習作という印象でした。

Rating: 6.2/10



水曜日のカンパネラ『かぐや姫』

宇多田ヒカル 「初恋」

初恋

初恋

1年9ヶ月ぶりとなる7作目。


「First Love」から約20年を経ての「初恋」。まずは表題曲の「初恋」についてですが、35歳になった彼女が歌うここでの初恋とは、若さ故の勢い任せによる刹那的な狂騒、あるいはノスタルジックにぼやけて美化されたものなどではなく、もはや初恋以前と以後では自分の価値観、内面がガラリと変わってしまうくらいの、人生におけるある種の楔であるというような重みをもって歌われています。これほどドラマチックに、切実なエモーションをもって歌われる初恋は聴いたことがなかったかもしれない。アルバム全体的には挑戦的な要素の多かった「Fantôme」から、従来の宇多田ヒカルのスタンダードと言える正統派ポップス路線へと回帰した印象を受けますが、その中にも三連符のフロウを取り入れた「誓い」や、ダブステップ以降と言えるグルーヴ感の「Too Proud」など目新しさもそこかしこにあり、最新型の宇多田ヒカルをきっちりと提示しています。そして終曲「嫉妬されるべき人生」、ここまで歌詞で書き切れてしまう人生への覚悟というのは、正直自分には壮絶すぎて想像がつかない。軽みと重み、暖かさと冷たさがしなやかに折り重なった、さすがの手腕。

Rating: 8.4/10



宇多田ヒカル 『初恋』(Short Version)