羊文学 「若者たちへ」

若者たちへ

若者たちへ

2012年結成の3人組による初フルレンス。


例えば今作のリードトラック「ドラマ」、その冒頭にある「青春時代が終われば/私たち、生きてる意味がないわ」という一節。この切迫感の塊のような歌詞を不意に投げかけられて、まるで背中からサクリとナイフを突き刺されたような冷たい心地になる。サウンド的にはほとんど飾りつけのない真っ当なオルタナティブロック。おそらく ART-SCHOOLLOSTAGE 、あるいはきのこ帝国などの影響下にあるのか、しかしそれらよりもさらにシンプルで風通しの良い、スリーピース各々のニュアンスがダイレクトに伝わる演奏。そのシンプルさ故にメインコンポーザー塩塚モエカの表現は、触れると傷つきそうな繊細さと生々しさが一層際立っています。「エンディング」や「絵日記」では取り返しのつかない過去に思いを馳せ、「Step」や「コーリング」では痛みを受け入れながら自らに言い聞かせるように前を向く。そのナイーブな心情は余白の多い歌詞と余白の多い音、そして心が張り裂ける寸前で踏み止まっているような歌声の伸びやかさにより、痛々しいほどのリアルさを持って迫ってきます。夏の季語が多いのも儚さに拍車を掛けている要因かも。

Rating: 8.3/10



羊文学 "ドラマ"(Official Music Video)

メトロノーム 「廿奇譚AHEAD」

1998年結成の3人組による、1年5ヶ月ぶり9作目。


「廿」は「にじゅう」。なんやかんやで結成20周年を迎えた彼らが、あくまでも振り返らずに前進するという意味合いを込めてのアルバム表題なのだと思います。えらく前向きなようですが歌詞の方はやっぱり「不安の殿堂」や「主人公ルート」など根暗で後ろ向きだったりしてナイーブなままの面も多く、悩んだり悲しんだりしながら転がり続けていくというひどく人間臭いもの。そもそもメトロノームというバンドはピコピコシンセ音を多用したり、ヴィジュアル的にもレトロフューチャー的な異世界感を演出したりしていますが、生身のバンドアンサンブルはパンク的な忙しない疾走感、骨の太い肉体派の演奏を主とする、無機質なようでいてとても人間味のあるバンドなのですよね。ポジとネガ、テクノとパンクという相反する要素があまり整理整頓されないまま取り込まれた結果、メトロノームという垢抜けなくも愛らしいキャラクターに転じている、というところでこの新作も非常にメトロノームらしい一枚と言えると思います。前作「CONTINUE」と比べてほとんど差異を感じないというのは良くも悪くもですが、コンスタントなリリースで安定感は出てきましたね。

Rating: 6.2/10



『血空』(Music Video)/メトロノーム