STUTS 「Eutopia」

Eutopia

Eutopia

名古屋出身のトラックメイカーによる、約2年半ぶり2作目。


今年に入ってから星野源の新曲でフックアップされるなどで俄かに注目を集めている彼。前作「Pushin'」はアーバンに洗練された雰囲気と様々な曲調を詰め合わせた賑やかさが同居した傑作でしたが、この新作ではもう少し的を絞って前者のアーバン感に比重を傾けた印象があります。自身の巧みな MPC 捌きによるコシの効いたビートに加え、ゲストプレイヤーの生演奏をフィーチャーしたトラックは、いずれもジャズやボサノヴァなどの芳醇なムードを消化した、上品かつニュアンスに富んだもの。「Breeze」「Paradise」「Voyager」といったタイトル群が示すように、リリース時期は少々ずれたもののリゾートの浜辺を想起させる STUTS 流のリラクシンなヒップホップサウンドです。ただ個人的には少し小奇麗に纏まり過ぎているきらいがあると言うか、前作では洒脱さの中にヒップホップならではのアッパーな熱さすらも内包していたのが、ここではそういった相反する要素、意外性のようなものが抜け落ち、良くも悪くも収まる所に収まったという感があります。ゲストヴォーカル/ラッパーの人選にしてもあまり意外性が感じられず、取っ掛かりに欠ける気がしました。

Rating: 6.8/10



STUTS - Dream Away feat. Phum Viphurit (Official Music Video)

Bird Bear Hare and Fish 「Moon Boots」

Moon Boots(初回生産限定盤)(Blu-ray Disc付)

Moon Boots(初回生産限定盤)(Blu-ray Disc付)

Galileo Galilei のメンバーによる新バンドのデビュー作。


またひとつ新たな扉が開けたような印象を受けます。音的には Galileo Galilei の頃から地続きの、シンセサウンドを効果的に取り入れながら柔らかな音像を主としたインディロック。中には「Hearts」や「Work」のようにエレクトロニカの方が主体の楽曲もあり、そちらではヒップホップやオルタナティブ R&B のような昨今のトレンドを意識した様子もある。そういった順当とも言える質感の変化以上に目立つのが歌詞の面における変化。優しいメロディや演奏の裏側に深く大きな闇を背負い込んだ「Sea and The Darkness」、サウンド的にも歌詞的にも尾崎雄貴のパーソナルな部分に大きく焦点が当てられた「warbear」を経て、今作では窓の外へと目線が向いた、力強くポジティブな表現が多く見られます。先行シングル「次の火」では特にストレートに、自らに言い聞かせるように「さあ火をつけろ」と決意が歌われ、「ダッシュボード」では流れる時間の中で生き急ぐ様子が生々しい痛みとともに表出するなど、前へと歩を進めることの期待や躍動、そしてその裏側にある不安や苦悩が同時に描かれた、実に彼ららしいリリカルな人間臭さの楽曲群。ここから本格復帰です。

Rating: 7.8/10



Bird Bear Hare and Fish - ライカ (Music Video)