Anaal Nathrakh 「A New Kind of Horror」

A NEW KIND OF HORROR [CD]

A NEW KIND OF HORROR [CD]

英国バーミンガム出身の2人組による、約2年ぶり10作目。


新種のホラーとは言うものの、実際の内容はぶっちゃけ今までとほぼ同じですね。人力とは思えない超高速ブラストビート、殺傷力高いヘヴィネスに粘着質のダークネスが絡んだギターリフ、そして臓物をブチ撒ける勢いのデスヴォイスからオペラ風歌唱までを駆使するヴォーカル。要所要所で顔を出すインダストリアル・サウンドが圧の強さに拍車を掛ける、という所までも彼らの通例といった感じ。ただやはり一点突破的な攻撃性の中にリズムやリフの切り返しを盛り込み、その巧みな曲構成によってフィジカルを直接突き動かす、この野性的な勘の鋭さは相変わらず健在。デスメタルやインダストリアルに加え、やはりグラインドコア的とも言えるハードコアっ気の強さがミソなのではないかなと思います。エクストリーム・メタルと一口に言っても要素の配分を少し変えるだけで響きは随分と違ってくる、その微妙な匙加減を彼らは本能で熟知しているのでしょう。今回は10曲33分といつにも増してコンパクトに纏まっているし、「Mother of Satan」でセイタン!セイタン!繰り返す場面などはもはや爽快感と同時に笑いが込み上げてくる。溜まったストレスに効きます。

Rating: 7.0/10



Anaal Nathrakh "Obscene as Cancer" (OFFICIAL VIDEO)

Marissa Nadler 「For My Crimes」

For My Crimes

For My Crimes

ワシントン出身のシンガーソングライターによる、2年4ヶ月ぶり8作目。


彼女のカタログを追い続けていると分かるのが、フォーク/カントリーを飾り気の少ないままで提示した弾き語りスタイルと、バンドセットやストリングスによって厳かな重みを増したサウンド、この両者を周期的に行き来する波のようなものがあるのですね。それで今回は前者の方向性。中盤「Blue Vapor」のみがドラマー参加でドゥーミーな切迫感を打ち出していますが、基本的にはアコースティックまたはエレクトリックギター、そして最小限のコーラスとストリングスのみを重ねた簡素なアレンジで、彼女にとっての原点へと再回帰したと言える内容になっています。音の隙間、静寂を活かしたアレンジだからこそ歌に宿る感情の機微がリアルに伝わりやすく、ゴスならではの緊張感や悲哀が徐々に身体に浸透し、いつの間にか聴き手を己の世界観に惹き込んでしまう。もちろん歌詞も思わず笑いが漏れてしまうほど統一感バッチリで、どの曲も本当に出口が見えない。「You're Only Harmless When You Sleep」などタイトルからしてまるで覆い隠すものがない有様。ここに来てなお自身の魅力を純化することに成功した、もはや貫禄の一枚です。

Rating: 7.8/10



Marissa Nadler - Blue Vapor (Official Video)