豊崎愛生 「AT living」

AT living

AT living

徳島出身の声優シンガーによる、初のカヴァーアルバム。


あなたは豊崎愛生がライブで The BeatlesHey Jude」を弾き語りカヴァーしていたのを見たことがあるだろうか。ないなら今すぐ見てほしいビートルズ曲のカヴァーは自分も何度か耳にしたことはありますが、ここまで破壊力の高いものに他所で出逢えたことは未だかつてありません。その時の衝撃が大きすぎたため、今回の作品に対しても戦々恐々とした心持ちで臨んだのですが、これが意外にも真っ当な聴き心地で安心したやらがっかりしたやら。オールディーズ趣味、アナログレコード愛好家であるところの彼女本人が主導権を取り、古き良き時代のフォーク/歌謡曲、その中でも一般的な最大公約数と成り得る有名曲を主とした選曲。はっぴいえんどRCサクセションでロックファンのツボもきっちり押さえ、渋いところでは高田渡まで。いずれにおいてもこれ見よがしの Kawaiiness は抑え、クセのない澄んだ歌声による、原曲の良さに素直に寄り添った仕上がり。素朴な切なさが沁みる「卒業写真」や「なごり雪」などはもちろん、「タイムマシンにおねがい」「雨上がりの夜空に」のようなロック曲も板についてる感がある。彼女がやることに意義の感じられる一枚。

Rating: 7.1/10

Thom Yorke 「Suspiria (Music for the Luca Guadagnino Film)」

Suspiria(Music for the Luca Guadagnino Film) [輸入盤 / 2CD] (XL936CD)

Suspiria(Music for the Luca Guadagnino Film) [輸入盤 / 2CD] (XL936CD)

ホラー映画「サスペリア」リメイク版のサウンドトラック集。


今作を聴くに当たって Goblin が手掛けた元ネタの「サスペリア」も聴いてみましたが、当たり前のように全く別物でした。ダイナミックで外連味の強い中に何処となくB級感が漂う、良くも悪くも70年代プログレならではのサウンドとは打って変わって、こちらはアンビエントやポストロック、ポストクラシカルまでの要素を内包し、仄暗い静寂の中から徐々に恐怖感を煽っていくアプローチで、聴く人によっては「サスペリア」のイメージをガラリと塗り替えられてしまうかもしれません。ピアノやシンセ、ストリングスなど種々の音色が柔らかく折り重なり、湿度の高い瘴気と化した楽曲が緊張の糸を緩めないように連結され、要所要所にトム本人のファルセット・ヴォイスを活かした歌モノが挟まれるという構成。多くの楽曲がリズムレスなのもあって閉塞的な空気感が全体に蔓延し、強固なトータリティを保持。その中で Radiohead 本隊と比べても遜色ない「Suspirium」や「Unmade」の美しさが特に際立っているというのもあり、単純なサントラと言うよりも「サスペリア」を主題としたトムのコンセプトアルバムという印象が強いです。ソロ作の中では一番濃密な聴き応え。

Rating: 7.6/10



Thom Yorke - Suspirium