血と雫 「その雫が落ちないことを祈る」
- アーティスト: 血と雫
- 出版社/メーカー: GrandFish/Lab
- 発売日: 2018/12/12
- メディア: CD
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曲を構成するのは飾り気のない音色で緩やかに爪弾かれるエレキギター、低く息を殺すような慎重さで鳴らされるドラム、そして言葉のひとつひとつを大切に紡ぐ森川の歌。先日の A/N【eɪ-ɛn】でのヘヴィネスに根差した表現とは真逆を行く、フォークあるいは昭和歌謡的な要素が主となるこちらのバンド。以前はほぼ即興セッションに近かったのが、事前にアレンジを練り込む作曲スタイルへシフトし、また彼ら初の試みとしてゲストベーシストを招くなど、制作において根本的な変化が起こっていますが、それらは安易に派手な装飾を増してキャッチーに向かうのではなく、従来の音楽性をさらに濃密ななものとするための判断なのだと思います。優しい静謐と緊張感が混在したムードはこれまでの楽曲と同種のものですが、以前よりもそこかしこでエモーションの発露が直接的に見られるようになり、特に冒頭「パトス」での、ファズの効いたギターソロに導かれるようにしてアンサンブル全体が少しずつ熱を高めていく、その演奏の迫力には強く惹き込まれました。内なる激しさがコップから漏れ出してしまう寸前のところで何とか踏み止まっている、あまりにも壮絶な美しさ。
Rating: 8.4/10
A/N【eɪ-ɛn】 「素描集Ⅰ」
2018年結成の4人組によるデビュー作。
Z.O.A から森川誠一郎と黒木真司、Boris から Takeshi と Atsuo が合流し、メンバー各々の担当パートを固定しない「新しい運動体」として結成されたこの新バンド。作曲クレジットが記されていないので音楽的なイニシアティブを誰が取っているのかは謎ですが、実際の楽曲は Boris が以前から展開していた実験的ドローンノイズ、あるいはドゥームメタルの延長線上と言えるもの。叙情的なアルペジオから鬼気迫るヘヴィネスへと徐々に移行する中で、ダークな緊張感は全く緩むことなく持続し、そこに森川、Takeshi 、Atsuo のアブストラクトなヴォーカルが絡んでいく様は、(サウンドの質感は微妙に違うものの)不失者にも通じる奇怪な凄味を発しています。先日行われたライブではオーディエンスの鼓膜を潰す気満々の爆音を放っていたようですが、その壮絶な様子が聴いているだけで目に浮かぶ。ただその中でもバラードにも似た深い悲愴感を見せる「夢底」、またその悲愴の淵からゆっくりと浮かび上がるような優しさが滲む「逆光」などは特に、彼らの実験的手法がエモーションの発露と密接に結びついており、流石の説得力。これで素描なら油彩画は一体どうなるのか。
Rating: 7.5/10