Hayley Williams 「Petals for Armor」
- アーティスト:Williams, Hayley
- 発売日: 2020/05/15
- メディア: CD
ソロ名義ではありつつも、プロデューサーや演奏陣には Paramore の面々が名を連ねており、バンドとの境界線は曖昧だったりします。実際に中身を聴いてみても、Paramore の現時点での最新作「After Laughter」で見せていたチャレンジングな姿勢…それはすなわち出自であったポップパンクのスタイルに留まらず、シンセポップへと発展することで表現の多様さを押し広げるという試みなのですが、その方向性が今作ではさらに推し進められており、そこにはバンド本隊からそのまま地続きの文脈を確かに感じるのですね。なのでこの作品もソロと言うよりはむしろ "Paramore チームの新たな一手" と捉えた方が良いのかもしれません。「Simmer」や「Dead Horse」のようにパーソナルな不安や悲しみを綴ったものから、「Roses/Lotus/Violet/Iris」のように世の女性に向けての真摯なメッセージを込めたものまで、現在の彼女の内に湧き上がる感情、言葉を網羅したであろう楽曲群。そのいずれもが "花弁の鎧" というアルバム表題に象徴されているように、繊細さとタフさを兼ね備えたヴォーカルによって確かな説得力を纏って響いてきます。また新たな境地に達した意欲作。
Rating: 7.9/10
The Soft Pink Truth 「Shall We Go on Sinning So That Grace May Increase?」
Shall We Go On Sinning So That Grace May Increase?
- 発売日: 2020/05/01
- メディア: MP3 ダウンロード
彼が所属するエレクトロユニット Matmos と言えば、医療器具から牛の子宮まで何でもござれの奇抜なサンプリング技法が悪名高いですが、この課外活動では往年のパンク/ハードコアのカヴァーアルバムや往年のブラックメタルのカヴァーアルバム(どちらもチープな脱力シンセばかりが跋扈する怪作)で各方面のファンに喧嘩を売っていたりと、まあ何にしても大概だったわけです。それがこの新作ではガラリと様相を変えており、前述のような悪意を匂わせる類のユーモアは一切無し。心音のごとく繊細な響きを保つ4つ打ちビートに、アルバム表題を繰り返す女性クワイアコーラス、また種々の管弦楽器や環境音なども折り重なり、心地良い浮遊感と同時に荘厳な聖性を醸し出すアンビエントハウスとなっています。"トランプ当選後の世界に対して激しい怒りや悲しみを抱いていたが、それをそのまま吐き出すことはせず、ポジティブさを感じられる作品にしたかった" とは本人の弁ですが、清らかで暖かみに満ちた音の重層が空間目一杯にまで拡張していく、その圧倒的な音像には確かにスピリチュアルな慈愛、そして混沌たる世界を越えていくための力強さが。
Rating: 7.7/10