Amnesia Scanner 「Tearless」

Tearless

Tearless

  • 発売日: 2020/06/05
  • メディア: MP3 ダウンロード
フィンランド出身の2人組による、1年9ヶ月ぶり2作目。


Code Orange ゲスト参加という情報にはさすがに驚かされましたが、バンド演奏はほとんど原型を留めていないレベルまで解体されており、そこまでメタルやハードコア要素が強まっているわけでもなく。むしろ聴き終えた後に残ったのは哀愁や虚無感でした。ノイズ/インダストリアル由来の攻撃的なエレクトロニクスをとことんシュールかつ露悪的にデフォルメした、彼らならではのアヴァンギャルドな個性はここでも健在。ただこれまでは異形でありながら妙にポップな感触も強かったり、突き刺さってくるサウンドの痛快さ、享楽性の高さが印象深かったのですが、今作ではそれが気持ちぶん控えめ。その代わりにシリアスさや悲壮感を帯びた雰囲気が目立ち、「AS Tearless」「AS Acá」辺りではさらにシャーマニックな重厚さも追加されたりで、ある意味黙示録的と言うか、鋭さよりも重さ、禍々しさといった部分の方が強調されているように感じます。そんな痛烈な音の飛礫を浴び続けた果てにカタルシスは無く、あるのは災害で全てが洗い流された後の荒涼とした心地だけ。これは2020年現在の世相を反映した彼らなりの答えと捉えて良いのだろうか。

Rating: 7.4/10



AS Tearless (feat. Lalita)

Phoebe Bridgers 「Punisher」

Punisher

Punisher

米国ロサンゼルス出身のシンガーソングライターによる、2年9ヶ月ぶり2作目。


ドギツいスカルジャケットを身に纏い、歌詞のあちこちには死やドラッグ、カルトや心の病などのダークなモチーフを散りばめた、ともすれば新時代のゴスミュージックとも捉えられるような作風。ただそれは単に向こう岸の幻想世界への憧憬を示しているわけではなく、むしろ修辞、装飾を多く交えた方が自分の内面をよりリアルに表現できる、という逆説めいた手法は往々にしてあるものですよね。例えば「Garden Song」では幼さからの脱却、「Kyoto」では父親への愛憎、「I See You」では恋人との離別について。その他でも彼女は自らを注意深く内省し、鋭さとデリケートさ、また幾分かの薄ら寒いホラー要素を孕んだ言葉によって、胸に巣食う思いの様々を取り零しなく丁寧に紡ぎ上げています。そうして生まれた歌詞が素朴なフォークスタイルを軸としつつ、ストリングスやホーンの効果的な挿入、また ASMR にも接近するエレクトロニカ通過後のプロダクションも取り入れて、上品で彩り豊か、なおかつ陰影の深い高品質ポップソングに昇華されていく、その手捌きの何とも優美なことよ。サウンド面の方向性は違うけれど Billie Eilish と共振する部分も大きいのでは。

Rating: 9.0/10



Phoebe Bridgers - Garden Song (Official Video)