坂本真綾 「グレープフルーツ」 「DIVE」 「Single collection+ Hotchpotch」

坂本真綾 15周年記念ベストアルバム everywhere(初回限定盤)(DVD付)

坂本真綾 15周年記念ベストアルバム everywhere(初回限定盤)(DVD付)

今年でデビュー15周年、そして3月31日は30歳のバースデイ、初の武道館、初のベスト盤リリース。俺の中のディーヴァが様々な意味での節目を迎えておられますね。全てまとめて、おめでとうございます。


俺がマーヤ嬢を知ったのは確か2001年、 「Lucy」 が出てから少し経ったくらいだったと思う。高校生だった当時の俺は菅野よう子といった名前も全く知らず、そもそもマーヤ嬢が声優だということも知らなかった。ツタヤさんの店頭でたまたま手に取ったのは、多分曲タイトルとかにピンと来るものがあったんでしょうな。最初は聴きやすいポップスだなーくらいの感覚だったのですけど、ネット上の評判を見たり菅野先生の経歴を知ったりしてから 「そういう聴き方もあるのか」 と発見が多くなり、過去のカタログも漁りだしてだんだん彼女の魅力にハマっていくようになりました。


そこから数枚のシングルがリリースされては聴き、その度に歌い手としての新しい側面と良質のメロディ/歌声に惹き込まれ、ますます感情移入が激しくなっていき、それがピークに達したのが2003年。セールス的にもマーヤ嬢がブレイク間近〜突破くらいの時期で、特に 「少年アリス」 リリース直前辺りは何か大きな波のくる予兆のようなものをビシビシ感じたものでしたよ。アーティストとして一番脂が乗った時期をリアルタイムで体験できたのはとても幸福なことでした。好きが高じて一時期は公式ファンクラブにも入っていたことを告白いたします。ライブも行ったしラジオも熱心に聴いてたし、本当に俺の中で大きな存在、アイドルとなってましたね。


その頃と比べると最近は少し熱も落ち着いたけれど、それでも個人的にチェックを欠かせない鉄板ミュージシャンのひとりであることに変わりはありません。菅野先生を離れた後もマイペースにリリースを重ね、徐々に方向性を定め直してきた感がありますが、今回のアニヴァーサリーに合わせて初期〜中期の作品を振り返ってみたいと思います。3回連続の1回目、彼女がまだ10代の頃 (!) に発表した3枚です。



グレープフルーツ

グレープフルーツ

菅野よう子プロデュースによる、記念すべきデビュー作。


正直に言うと最初はあまり良い印象がなかったです。それはデビュー作ゆえ、また17歳という年齢ゆえのあどけなさが聴いてて気恥ずかしくなってくる部分もあったから。例えば実家の押し入れ整理してたらひょっこり出くわした昔の日記帳みたいな、僕の心のやらかい部分を締め付けるあの感覚ですよ。本人作詞の 「右ほっぺのニキビ」 とか、甘さと苦さも入り混じるグレープフルーツな味というのも中二病ポエムチックでちょっとイタい感じだよなーと今見ても思う。まーそれは置いといて (笑) 曲はどうか。アコースティック基調でメロディがスッと頭に入ってくる、後の作品に比べると薄味な仕上がり。しかしよく聴くとベースラインが妙にうねってたり、3拍子の複雑な譜割りに間奏ではバグパイプ導入とやりたい放題の 「約束はいらない」 、また幻想的な浮遊感を持った 「風が吹く日」 などはやはり菅野先生らしい凝りっぷりが見られます。でも個人的に一番好きなのは 「ポケットを空にして」 。迷いや空虚さを感じながらも前を見て歩くという、繊細な感情の揺れを表す歌詞がトラッド風味の軽やかさとともに歌われ、何気に胸を打つ。ライブでも定番の名曲ですね。


Rating: 6.4/10



DIVE

DIVE

1年8ヶ月ぶりの2作目。ミュージックマガジン99年歌謡曲&ポップス部門の1位獲得。


10代において1年という時間は大きな意味を持つ。マーヤ嬢のヴォーカルは前作からか大きく成長して、あどけなさ/瑞々しさを残しながらもより表情豊かになり、歌い手としての自信を感じさせるようになりました。それに合わせてか菅野先生もよりヴァラエティに富んだ楽曲を揃えており、アレンジの密度もさらに濃いものに。歌とピアノが夜空を羽ばたくように広がる彼女自身のテーマ曲 「I.D.」 、ストリングスとコーラスの重層が心地良い疾走感の中で溶け合う 「走る」 、実験性が強く息苦しさすら感じるムードの 「月曜の朝」 、ファンクネスが力強く躍動する 「ピース」 、本作中最も感動的に展開する切なさに胸を締め付けられる 「孤独」 など。 UK 録音が影響したのか全体的にローファイで柔らかい音像なのも相まって、全体通じて内省的な翳りを帯びた作風。思春期ならではの迷い、悩みといったナイーブな感情の揺れ、それが流麗なメロディと職人的アレンジによって高品質ポップスに昇華され、心地良く沁み渡る。曇天の隙間から差し込む光のような、繊細で不確かだけど確実に輝きを感じさせる作品。初期の大傑作ですね。


Rating: 9.4/10



Single Collection Hotchpotch (ハチポチ)

Single Collection Hotchpotch (ハチポチ)

96年〜99年のシングル曲、カップリング曲、サントラ収録曲に新曲を合わせた編集盤。


ここに収録されてるほとんどの曲はオリジナルアルバム未収録。なのでこれは 「ベスト盤」 じゃなく 「寄せ集めコレクション盤」 であり、初のベスト盤は 「everywhere」 であるということですねややこしいけど。そういった作品の性格上、トータリティはまるで度外視のノーコンセプトな内容。荘厳とも言えるほどの聖性に貫かれた 「Light of love」 、中東エキゾチカ全開な 「奇跡の海」 といったタイアップ作品の世界観に合わせたであろう楽曲がある一方で、 「DIVE」 の内省感に心酔してた身にはかなり衝撃的だった (笑) 「ボクらの歴史」 など、ポジティブで明るい正統派ポップソングも多くあったりと、曲ごとの落差がかなり激しい。 「奇跡の海」 なんかはちょっと冒険しすぎで曲の方向性をモノに出来てない気がするし、ヴァラエティに富むどころじゃなくとっ散らかり過ぎな感は否めないです。細かい所まで取りこぼしなく収録した内容は親切なので、従来のファン向けといった所ですかね。あまり初心者向けではない。ただラストの 「CALL YOUR NAME」 はピアノが寂しげに響くシンプルな曲で、10代から20代に向かうマーヤ嬢の成長が伺えると思います。


Rating: 5.0/10



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