syrup16g 「Free Throw」 「coup d'Etat」 「delayed」

2008年に解散した3人組、 syrup16g の諸作品がこのたび一斉に再発されました。



俺がシロップを知ったのは 「syrup16g」 が出た、もう解散間近の頃でした。後追いもいいところで、武道館やって解散というニュースが目に留まり、それまで名前は知ってたけどちゃんと聴いたことなかったから聴いとこうか、くらいのノリ。しかも最初はそこまで引っかからなかった。オーソドックスなバンド編成とメロディで、ヴォーカルがちと苦手かもと思ったくらい。しかし周りの評判はやたら良く、何だかカルトめいた雰囲気すら感じたのですね。じゃあ過去作はどんなんだと追ってみたところ、何だか止まらなくなった。聴けば聴くほどに少しずつ、しかし確実に彼らの持つ魅力が浸潤して、いつの間にかすっかり病みつきの状態になってしまったのでした。今回の再発盤はいずれも廃盤扱いになってたものばかりとのことで、俺みたいに完全後追いの人間には嬉しい限り。これに合わせてリイシューされた過去作をザーッと振り返りたいと思います。前半3枚。



Free Throw【reissue】

Free Throw【reissue】

1999年にインディーズからリリースされた初の音源。


この頃からバンドの方向性はある程度確立されています。音自体は80〜90年代のインディ/オルタナティブロックを通過した、特別何の飾りもないスリーピースの下北系ギターロック。後の作品に比べると随分とヴォーカルが引っ込んでますね。クリーントーンの軽快なストロークが鮮やかに広がる 「翌日」 、そこから少し翳りを纏い始める 「Sonic Disorder」 、コミカルなタイトルとは裏腹に皮肉めいた歌詞が頭に残るブギナンバー 「Honolulu★Rock」 、やはり鮮やかなギターサウンドの暖かさに 「無理して生きてることもない」 と綴る失望塗れの歌詞がドギついコントラストで迫る 「明日を落としても」 、ザラつき乾いたディストーションによる哀愁とバタバタ荒々しい疾走感が彼らにしては少し異色な 「真空」 、本編は以上5曲。追加されたボーナストラックも大まかな枠は変わらず。非常にコンパクトな内容で、曲の密度的にもまだ本領発揮とまではいきませんが、彼ららしい色は確実に存在しています。特に 「明日を落としても」 。こんな明け透けに生きることへのリタイア、それでも生きている矛盾を吐露してしまって。始まりの地点からすでに闇は広がってる。


Rating: 6.8/10



coup d'Etat【reissue】

coup d'Etat【reissue】

コロムビアに移籍してのメジャーデビュー作となるフルレンス2作目。


ヘヴィメンタル。メジャー移籍が関係してるのかサウンドプロダクションが真っ当に強化され、リズム隊は硬く太く、ギターはザラついた歪みとクリーントーンの音色を使い分け、いずれもラウドな音圧を増して迫る。そこで表現されるのは徹底的に諦観し、失望し、それでも何処かに希望を見出そうとしてしまう業から逃れられない 「人間」 の 「日常」 。力強く広がるオープナー 「My Love's Sold」 だけを取って見ても、 「愛されたいなんていう名の幻想を消去して」 「信じていないもん 本当の自分なんてもんを」 と自らを貶める負の感情と、 「生きていたいと思ったんです」 「好きなようにやるだけです」 と投げやり気味に前を向く根拠のないやる気がグルグル頭の中で渦を巻く。若さとか青さでは決してカタがつけられない心の闇 (病み) 。きっとこんな感情を抱えてる人間は世の中にゴロゴロいる。だからこそ彼らは支持を集めたんだと思います。 「全人類兄弟 けんちん汁ちょうだい」 などあちこちに散りばめられた独特の言葉遊びも目だけは笑ってない。ロックバンドとしての攻撃性のレベルアップと同時に目指す方向性が完全に定まった傑作。


Rating: 8.6/10



delayed【reissue】

delayed【reissue】

わずか3ヶ月のインターバルで完成したフルレンス3作目。


前作での荒々しいアグレッションは後退し、漂うように流れるリズムと柔らかなメロディ、肩の力の抜けたムードが全編に共通する 「静」 サイドの内容になってます。シンセやピアノを取り入れたりといった新しい試みがありつつ、アコギの軽やかさやサイケデリックな微睡み、あるいは The Smiths のように鮮やかなクリーンギターの音色がバンドの持つポップネスを素直に伝える。その中でも Bank Band もカヴァーした 「Reborn」 はシューゲ風フィードバックノイズが優しい浮遊感を醸し、前作には無かった陽の光を感じさせるロッカバラードの名曲。じゃあそれまでの鬱屈が晴れたのかというとそんなことはなく、美しい景色を見て単に気が紛れてるだけのような不安定さを感じるし、感情のベクトルが外向きか内向きかの違いで、本質的には何も改善してない気がする。むしろ前作を踏まえて聴いた方が、音の裏側に潜むダークネスで痺れ、窒息しそうな感覚に陥ることも。最後の曲 「愛と理非道」 は 「希望は誰かの手だ 俺は持っていない」 というセンテンスで終結。そんな簡単に鬱が治るなら誰も苦労しないですよね。これも彼らの本質の一断面。


Rating: 7.4/10


Links: 【公式】 【Wikipedia