syrup16g 「HELL-SEE」 「パープルムカデ/My Song」 「Mouth to Mouse」


前回に続いてシロップのリイシュー祭。後半の3作です。



HELL−SEE【reissue】

HELL−SEE【reissue】

前作から半年、またもショートスパンで完成した4作目。


今回の再発にあたりリマスタリングが施されたとのことで、確かに若干クリアで音圧が増したように感じますが、正直楽曲に対する恩恵は薄いと思います。オリジナルは低予算に抑えられたのか80年代の音源のように奥行きがなく低音の欠けた音作りで、それがむしろ楽曲の説得力を妙に助長させてました。値段も安いしできれば原盤の方を薦めます。それで内容。今までよりもメロディの抑揚は抑えられ、アンサンブルも最低限の重ねで実にシンプルなもの。しかし歌詞の精神病にも近い病みっぷりは深みを更新し、この世を見据えるその視点は完全に冷めきって、死に向かい、逆説的に生を浮き彫りにする。ユーモラスな言葉遊びは増してますがそれも諦観と皮肉の産物。そもそもアルバムタイトルからして洒落になってないのだけど、 「俺もクズだけど君もクズだよ。そうだろ?」 と言わんばかりの性格捻じ曲がりすぎな目線から歌う 「生活」 の歌が心を内側から蝕んでいくかのよう。クリーントーンとフィードバックノイズの混濁が真綿で首を締めるように迫り、皮膚に焼きつくリアリティと繊細な美しさが際立つ。彼らのカタログの中でも歪さ、深さは随一です。


Rating: 9.0/10



パープルムカデ/My Song【reissue】

パープルムカデ/My Song【reissue】

2003年にリリースされたマキシシングルの2枚。今回のリイシューで 2in1 に。


表題曲はそれぞれ光と影のように相反した方向を向き、互いを引き立てています。まず 「パープルムカデ」 。グランジーな荒さと捻れたポップさを引き摺り、ズルズルと前へ進む。紫の血を散らして潰れたムカデ。生温い地獄を行く俺たちに重なる絶妙なモチーフでしょう。そしてエレクトロ要素を導入して開放感と同時にやるせない寂寥を演出する 「回送」 。相変わらずの闇が貫かれた4曲。そして 「My Song」 。 「あなたを見ていたい/笑顔を見ていたい」 と、雲間から光が差すように、不意に零れて輝く優しさ。ストレートに心情を綴った素朴なロッカバラード。これが僕の、私たちの、あなたの歌になれば素敵なことですね。それなのに 「夢」 では 「この歌声が君に触れなくても仕方ないと思う」 だなんて。 「イマジン」 で掲げる幸せな理想の将来設計も踏み躙られて屈するためのフラグ。この矛盾を抱え込んだ分裂気味なところは残念なくらいに彼ららしい。従来の路線を踏襲しながら曲調の幅は順当に広がり、メロディもナチュラルにポップさを増し、次作への橋渡しとなる。ファンは押さえておきたいところ。


Rating: 7.2/10



Mouth to Mouse【reissue】

Mouth to Mouse【reissue】

上の 「パープルムカデ」 「My Song」 も含むフルレンス5作目。


珍しくシングル曲が多く収録されてるのと、前作 「HELL-SEE」 が起伏抑え目でトーンの統一された作品だったのもあり、シロップのカタログの中では最もポップで粒揃い、かつレンジの広い内容になってると思います。サイケな厚みが幾分か抜けた代わりにフォーキーな物悲しさが全編に通底してるのも特徴でしょうか。トランシーなスピード感を纏ってなだらかに闇を落ちていく 「リアル」 、デモトラックのようなシンプルさで軽やかにブルーを奏でる 「うお座」 、低熱ながら小気味良く跳ねるリズムがメロディと綺麗に合致した 「I・N・M」 、彼ら流の不協的アグレッションが牙を剥く 「メリモ」 など。全体的に歌とメロディが柔らかくなり、聴きやすくなったことで濃度は少しばかり薄まった気がしますが、中毒性は決して失われてません。 「実弾」 や 「ムカデ」 といったタームが負のイメージに繋がるのはもちろん、 「夢」 や 「希望」 も取り扱い方によっては十分危険物と成り得る。パラノイアックで皮肉めいた言葉の群れは一層冴えを見せています。そんな中でやはり 「My Song」 は唯一差す一筋の光のように映る。どうしてそこに素直に向かえないかって、それはやっぱり人間だから。


Rating: 8.4/10



以上で終了。総じて見ると彼らはやはり 「歌」 のバンドだと思う。文中で何度か歌詞の引用をしましたが、普段あまり歌詞を気にしない俺にしては珍しく、その歌詞、メッセージに最も惹かれる。絶望というのが決してドラマチックで非日常なものではなく、日常の生活に何気なく潜み、少しずつ心を食い潰していくものであり、それ故に希望を何処かに探してしまうという、現在を生きる多くの人間が共有するものであるということを、本当の意味でエモーショナルに、いくつもの曲に託したバンド。約3年でアルバム6枚という異様なペースでリリースを重ね、その後パッタリ途絶えたという波の大きさもある意味彼ららしいというか。バンマス五十嵐隆のソロユニット 「犬が吠える」 も急に消滅してしまって、今は一体どうしてるのかしら。気長に活動再開を待ちたいと思います。


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