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「ヴィジュアル・ロック パーフェクト・ディスク・ガイド 500」 私的補完10選

FEAT

ヴィジュアル・ロック パーフェクト・ディスク・ガイド 500

ヴィジュアル・ロック パーフェクト・ディスク・ガイド 500

今までありそうでなかったヴィジュアル系名盤ガイドがついに発刊されました。自分は大昔に出た宝島別冊のものしか読んだことがなく、しかも今は手元になく記憶もほとんどおぼろな状態だったので、今回のガイドは待望の一冊という感じで楽しみにしておりました。どういう基準でどこまでの作品が選ばれ、どんな解説が書かれてるのかと。


実際に読んでみて、セレクトに関しては大島暁美監修のためか SHOXX 寄りなカラーが強く、すなわちニューウェーブよりもメタル/ハードロック優勢、エクスタシー万歳といった志向が根幹にあるように思いました。初っ端に載ってるのが BOW WOW なのがまず衝撃的でしたね (笑) 。えーそこから!?という。まーでも書き手のエゴがあまり強くなりすぎることなく、基本は広く浅くのスタンダードな音源カタログという感じで、とりあえずメジャーデビュー済みのバンドはほとんど取り零しなく載ってます。ただやはり読んでいくうちに 「何故このバンドでこの作品を…」 「このバンドが載ってるのに何故彼らは…」 といった重箱の隅を突いてしまうのは人情というもの。せめてこのバンドは1枚で良いから載せといて欲しかった、というのをせっかくなので以下に挙げてみました。極私的補完作業としての10枚、数字→アルファベット順です。


9GOATS BLACK OUT 「CALLING」

CALLING

CALLING

ヴォーカル漾氏の関わるバンドは常に堅実であり、地に足を付けた独自のスタイルを持っていると思います。安易に流行に流されることなく、深く妖しいダークネスとゆらり立ち昇るセクシャリティ、歌謡曲へのラインギリギリな憂いを湛えたメロディ、そしてヘヴィに寄りつつも緻密に構築されたアンサンブル。今作でもそのスタイルは変わらず維持され、非常に彼ららしいと言える世界観を展開しています。シリアスな疾走感のある 「dye an unease」 「BLANK BLACK」 ではより一層バンドらしい肉体性を増しており、 「Panta rhei」 のようなミドルの歌モノでは完全に漾氏の独壇場。さらには 「Shut up "G"」 でアグレッションの最高値を更新していたり、ラストの 「rip current」 「8秒」 では今までの憂鬱なムードを振り切るかのようにメジャー感の明るさを振り撒いています。順当に表現の幅を押し広げている部分もあり、実に手堅い。これから先でその個性をさらに煮詰めて説得力のある一発を出してくれればいい…と思っていたら解散の報が。またしても短命に終わってしまったキャリアの中でも、今作は特に洗練された美しさを放っています。





deadman 「SiteOfScafFold」

Site Of ScafFold

Site Of ScafFold

次世代名古屋系として人気を得ていた kein と Lamiel 、両バンドの解散後に各メンバーが合流して新たに結成された deadmanオルタナティブで荒々しい、ある種オールドスクールなロックンロールを志向するようになりました。試行錯誤的なシングルを踏まえてのこの初フルレンスは最初の到達点。本来のサイコホラー的ダークな世界観はそのままに、錆び付いたノコギリを振り回すように展開されるラウドなアンサンブルは初期衝動の勢いを感じさせます。不穏な少女の歌声から堰を切って疾走する 「please god」 、 Marilyn Manson 風の禍々しいシャッフルナンバー 「blood」 、ドメスティックな憂いを孕んだメロウさが染み渡る 「桜と雨」 、そして徐々に水が肺を満たすような息苦しさを覚える大曲 「色別の亡い空虚」 など8曲。これ以降は徐々にセピア色の憂いを増していく彼ら。バランスの良い次作 「no alternative」 など傑作秀曲を多数生み出していきますが、洗練されないザラつきを持ったアグレッションの点では、今作がやはり一番かなと。奇妙なステージングでカリスマ性を発揮していた眞呼様は一体何処へ…?





グルグル映畫館 「何処の青さに君、負けた。」

なんで陰陽座犬神サーカス団が載ってて彼らが載ってないんだよ…。白塗り学ランという異様な出で立ち、演劇を交えたライブで独自の存在感を放っていた地下室系バンド。先述のバンド達とも交流はありますが彼らは HR/HM にあらず。ペラペラのヘタウマだけど憎めないアンサンブルや各メンバーのキャラ立ちの良さ、見かけとは裏腹の敷居の低さも相まって、一時期はアングラ界隈のアイドル的な人気があったように記憶しています。この作品は初のフルレンス。演劇的側面をフィーチャーした寸劇曲 「未来派探偵団 -宇宙編-」 のようなコミカルな曲がありつつ、可変速ハードコア 「春の白さに僕、負けた。」 やヤケクソ気味の高速チューン 「ブ然たり」 ではパンクからの影響もあったり。そしてラストの 「紺碧さに誘われた子供」 は代表曲であり名曲。昭和初期の軍歌のようなコーラスからは勇ましさと切なさが滲み出し、 「青」 に挑んで敗れた青年の儚さが彼ら独特のスタイルで表現されています。コンセプトに愛着と一本筋が通った名作です。メンバーチェンジや活動休止を経たのち、昨年に 「閉館」 。或る青春の終焉ですね。





HYDE 「ROENTGEN」

ROENTGEN

ROENTGEN

このガイド本最大のギャグはラルクの作品が一切載ってないってこと。いやいや年表のページには載ってるのに、どんな気の遣い方だよ…。まー本人達の意思はさておきラルクの活動がヴィジュアル系の発展に大きく寄与したのは間違いないのでね。バンド本隊は以前に総ざらい企画をやったので 【こちらから】、ここでは敢えてこの HYDE 初ソロ作を。アコースティック管弦楽器や幻想的なシンセサウンドを全編に取り入れ、非バンド、非ロック的なオーケストラル・ファンタジアが眼前一杯に展開されています。 HYDE の歌声は背筋を這うような囁き声から翼を靡かせる力強さのハイトーンまで行き来し、何処か浮世離れしたミステリアスな魅力を存分に放っています。 「WHITE SONG」 の陶然とするほどの美しさ、 「EVERGREEN」 の穏やかさと繊細さ、 「NEW DAYS DAWN」 の厳かさなど、決して単なるアンビエントには陥らない奥深さのある傑作。この路線を続けていればまた別のカリスマ性が身についていたと思いますが、次作以降はヘヴィ・ロックンロールという真逆の方向性にシフトチェンジし、結果的に彼のソロキャリアの中でも異質の存在に。





Madeth gray'll 「Lucifer 〜魔鏡に映る呪われた罪人達と生命の終焉〜」

Lucifer/魔境に映る呪

Lucifer/魔境に映る呪

黒夢や La;Sadie's などの影響を受け、90年代〜00年代初頭辺りまでは雨後の筍の如く出現しまくっていた所謂黒系バンド。その黒系を数多く輩出していたのが、元 La;Sadie's である所の KISAKI 主催レーベル 「Matina」 というわけです。その活動は功罪半ばなものだと思いますが、そこの所属レーベルの中では頭一つ抜けた実力を持っていたのが彼ら。軽めながらザクザク刻むディストーションと妖しいクリーントーンの対比、高速ビートの上で語り、叫び、淫靡でダークなメロディラインを乗せるヴォーカル。目一杯激しくて気持ち悪い、この手の方法論のテンプレートはこの作品で十分完成の域に達してると思います。俗にいうツタツタ発狂系が多くを占めていますが、禍々しさを発揮するミドルテンポの 「黒死蝶ノ花束」 、シンフォニック・メタル・ポップな表題曲 「Lucifer」 といった流れの中のアクセントとなる曲もあり、なかなか練られたアルバム構成。ある意味で 「ヴィジュアル系」 とはこう在るべきだ、という王道の姿を体現した作品です。




NEED 「DOWN TO THE NITTY-GRITTY」

DOWN TO THE NITTY-GRITTY

DOWN TO THE NITTY-GRITTY

当時はメジャーデビュー間近とも言われていたらしい大阪の4人組。こちらは全員がタイトな黒スーツに身を包み、敢えての BOØWY 直系と言えるビートパンクを展開していました。周りが煌びやかなコテコテ黒系か爽やかなソフビ白系で占められていた当時のシーンで、一切の無駄を削いだシンプル・イズ・ベストな彼らのスタイルは異彩を放っていましたね。ソリッドでタイトな演奏に、端正な中にもセクシーさが現れた艶のあるヴォーカル。高速疾走ナンバー 「DON'T DISTURB」 「ICE CAUTION」 のストレートな格好良さはもちろん、ポップなメロディの立った 「GHOST CONCLAVE」 「SURPRISE PARTY」 でも日和りすぎないスタイリッシュさが現れてて良い。余計なことは一切せずに2〜3分でビシッとキメる、早くて速いロックンロールには男の美学がみっちり。この後続けてリリースされたシングル 「BARK」 も同様の格好良さでしたが、メインコンポーザー脱退のため短命に終わってしまったのが悔やまれます。





人間椅子 「踊る一寸法師

踊る一寸法師

踊る一寸法師

なんで筋少すかんちが載ってて (略) 。90年代初頭はまだヴィジュアル系という言葉も無かったためか、現在のヴィジュアル系とあまり縁の無さそうなバンドも載せてありましたね。それならちゃんと白塗りで衣装着てるから彼らもヴィジュアル系でいいだろう。いいんです。人間椅子の長いキャリアの中でこれといった1枚を選ぶのは難しいですが、個人的にインパクトの強いジャケットが好きなのでこの作品に。江戸川乱歩に代表される怪奇小説をモチーフとした文学的詞世界、70年代 HR/HM のコクと旨味が滲み出た迫力ある演奏。デビューの時点でほとんど確立されていた人間椅子の個性はやはりここでも健在。インディーズに戻ったのが影響してるのか、他の作品に比べて音作りがシンプルで生々しい響きになってる気がします。聴いてるうちに鬱になりそうな 「暗い日曜日」 、得意の津軽弁炸裂の 「どだればち」 、重苦しいベースが這いずる 「エイズルコトナキシロモノ」 、異色のギャンブル・スラッシュ 「ダイナマイト」 など10曲。他の追随を許さないオリジナリティとはこういうものを言うのです。





THE PIASS 「妃阿甦」

KENZI (THE DEAD P☆P STARS) 主催の Anarchist Records に所属する4人組。最近では少なくなった DQNヴィジュアル系であります。 PV 撮影中にメンバー2人が不慮の事故で亡くなるなど、このバンドの伝説も大概ロクな話がありません。となれば演ってる音楽もロクでなし。ノイジーに混濁したディストーション・サウンドが砂塵を上げながら爆走するハードコア・パンクです。激しければそれで良し、速ければそれで良し。その潔い主義思想にはある一つの普遍的な魅力すら宿っています。その中にはヴィジュアル系らしい切なメロを差し込んだ 「Live to Love」 、一転して青春パンクのような快活さを見せる 「OVER AGAIN」 のような変化球もあり。しかしここでの真骨頂はやはり 「FAT fetishism」 「餌食」 といったカッティング・エッジな攻撃曲でしょう。ダークな雰囲気ではなくサウンドの過激さのみを追求した、スピード感満載の正しくコアな楽曲群。メンバーチェンジを重ねながら性懲りもなく現在も活動継続中。





TAKUI 「VIVAROCK」

VIVAROCK

VIVAROCK

デビュー前にはヴィジュアル系バンドを組んでいたという彼は、耽美派だの王子様系だのではなく、むしろ西川貴教栄喜SIAM SHADE) などに通じるパワフルな張りと艶のある歌声が魅力。さらには The Beatles に端を発する生粋のロックンロール好きで、アルバムタイトルに至ってはロック万歳。完全なるロックの申し子です。力強いメッセージを乗せて豪快にドライブするヘヴィ・ロックンロールの応酬。脇見をせずロックの王道のみを突っ走る、そのアティテュードはなんとも潔く痛快で、確固たるポリシーを強く感じさせます。いきなり地球規模のスケールで幕開ける 「嘆くも青い地球で」 、レゲエを取り入れて懐の深さをアピールする 「BE HAPPY」 、ヘヴィネスが抜けてハートフルな暖かみが現れた秀曲 「鼓動」 、オーケストレーションを導入して故郷への思いを綴ったロッカバラード 「福岡」 など11曲。これだけ芯の通った声で、ロックスター然とした堂々たる歌を溌剌と感情豊かに披露されれば、細かな文句や些細な鬱屈などはすぐさま風に吹かれて消えてしまうのです。それが王道の持つパワーというもの。





Z.O.A 「HUMANICAL GARDEN」

Humanical Garden

Humanical Garden

80年代の項がハードロック偏重でニューウェーブ/ポジティブ・パンクの扱いが少ない気もしたのですよね。 AUTO-MOD や MADAME EDWARDA は載ってたけど、 TRANS RECORDS の代表バンドはことごとく落とされてるのが残念でした (まさか FOOL'S MATE を敵視してるわけではないよな…) 。ということでこの Z.O.A 。超絶技巧によるプログレッシブな曲展開と、森川誠一郎の異様な存在感を示す呻きのようなヴォーカル。複雑で難解な構成ではあるのですが、難解さ以上に音が鳴るその場の殺気にも似た緊張感、見るものを中枢から痺れさせるような気の吐きようがあまりにも強烈。純粋にロック的な躍動感も多く備わっているのもあって、刺激的な攻撃性がフックを生んでおり、同時にとことんオリジナリティで在ろうとする痛々しいまでの衝動が詰め込まれています。白眉は今作中最長尺、8分超の大曲 「Hatred」 。もはやバンドサウンドの曼荼羅です。この作品以降も異形の個性に磨きをかけ、音の居合抜き状態に。





もっとインディーズの細かなところを探せば出てくるかとは思いますが、そこまでオブスキュアな所まではさすがに手が回らないか…。それは生粋のヴィジュアルショッカーの方々に任せるとして、自分としてはこれらの作品も500枚に追加してチェックして頂ければ幸いです。