Juana Molina 「Wed 21」

Wed 21

Wed 21

アルゼンチン出身のシンガーソングライターによる、5年ぶり6作目。


「アルゼンチン音響派」 という単語をほとんど忘れかけていたのですが、この新譜に触れて久々にその音響の奥深さを体感し、舌を巻いているところです。ひとつひとつの音が異様に研ぎ澄まされ、なおかつ程良い丸みを帯びて有機的に融合し合う、生音と電子音のコンストラクション。南米フォークの冷ややかで乾いた哀愁が通底しながら、シュールな遊び心と隣り合わせのインテリジェンスが立体的で奥深い音世界を展開する、それはかつてのトイトロニカを彷彿とさせる部分もあります。よく聴くと裏側には4つ打ちのキックが鳴っていてダンサブルだったり、ハーモニーが流麗に重ねられるパートも沢山あったり。しかしそれらが直接的な躍動感、心地良さに繋がることを良しとせず、感情の排されたミステリアスなムードの中で居心地の悪い違和感を持たされている。その違和感があるが故に彼女の作る曲は迷宮のように入り組んだ、複雑で味わい深いサウンドになっているのだと思います。妙に不穏でスリリングなムードになっては、夜の淵を漂うような心細いアンビエントに移り変わる。まるで彼女の手の上で翻弄されているような心地。

Rating: 7.6/10