坂本美雨 「Waving Flags」

1年7ヶ月ぶりとなる9作目。


ここ数作はエレクトロニカ/シンセポップを意識的に取り入れた路線が続いていましたが、今回は参加メンツを一新して生音がメインを占める内容。通常のバンドサウンドに加えて室内楽的な管弦打楽器を随所に添え、大人びた落ち着きと暖かみを感じさせる高品質ポップスが揃えられています。それは 「新境地!」 と声高にアピールするような力の入ったものではなく、我々の生活に何気なく寄り添ってくれるような人懐こさ。美雨さん本人のヴォーカルには繊細な透明感がありつつ、朗々とした伸びやかな歌唱が心地良い包容力を感じさせる。以前のエレクトロ曲との組み合わせではインテリジェントな面白さがありましたが、やはり生音のアレンジの方が真っ当な馴染み具合。個人的には彼女に対して昔からミステリアスなイメージを抱いていたのですが、最近ではその靄をブワッと払拭するかのごとくフレッシュでポジティブな見せ方が目立っており、それに対しては些かの戸惑いもありました。しかしここでの彼女はジャケットの写真でも見せている通り、実に素朴でナチュラル。旗を振りながら楽団を引き連れて進む彼女の奔放さは、自然と人を巻き込んでいく魅力を滲ませています。

Rating: 8.0/10