SOFT BALLET「愛と平和」「MILLION MIRRORS」「INCUBATE」

愛と平和

愛と平和

91年発表の3作目。


90年代初頭に勃発していた湾岸戦争に触発されて作られたという今作。もちろん彼らがどこぞの新興宗教のような現実から目を背けたラブ&ピースを掲げるはずもなく、EBM の持つアグレッションとアート性をより一層推し進めた、何とも辛辣な内容となっています。「仕組に盲目 正義の名において/骸は沈黙 神の名において」と蠢くような叫びが響く「VIRTUAL WAR」、「その言葉に全て従うだけ/たとえこの世全て終わらせても」とまるでラブソングの体裁をとった「AMERICA」にしてもメッセージの痛烈さがインパクト大。彼らの意識はかつての刹那的な享楽ではなく、底知れない怒りと嘆きを抱えた、極めてリアリスティックで冷徹なものへと変化しています。このように刺々しさが強調されているからこそ「LAST FLOWER」での優しい表現も説得力が増して響くし、「EGO DANCE」や「FINAL」でのポップな曲調も肉感的な躍動が鮮やかに映える。中東エキゾチックなモチーフも随所に挟まれ、コンセプチュアルな構成によってかつてない凄味を見せた傑作。彼らが9.11の後に復活を果たしたのは必然的なことだったのかもしれませんね。

Rating: 9.1/10



SOFT BALLET - EGO DANCE [PV]




MILLION MIRRORS

MILLION MIRRORS

アルファからビクターに移籍後、92年発表の4作目。


会社を移って心機一転、ということで完成したのが賛否両論上等のコレというね。前作も重要なターニングポイントだったかと思いますが、今作でさらに独自の路線を突き進み、またひとつ殻を破ることに成功しています。以前のような派手なメロディは極力排除され、遠藤遼一は得意のミッドロウヴォイスをフル活用。低く迫り来る歌声は以前とは別種のワイルドな妖しさを孕み、サウンドEBM やインダストリアルの流れを汲みつつ、抑えられた BPM により重厚なシリアスさを強く感じます。ハイライトとなるのは前作のポリティカル路線を引き継いだ「VIETNUM」。呪術的とも言えるほどに重苦しく、さらにエッジの研ぎ澄まされたへヴィネスで窒息しそうになる。アルバム全体にもそういった切迫した空気が通底していますが、その中で森岡賢の担うポップサイドは緊張感に差し色を与え、全体に流れを作るための重要なエッセンスとして機能しています。スリーピースの均衡がネクストレベルに押し上げられた意欲作。最後に据えられた2タイプの「THRESHOLD」はボートラ的扱いながら、彼らのダンスアクトとしての到達点のひとつ。

Rating: 9.4/10



SOFT BALLET - THRESHOLD [KMFH mix]




INCUBATE

INCUBATE

93年発表の5作目。


表題の「INCUBATE」は卵を孵すという意味。これまでもいくつもの殻を破ってきた彼らが、その大きな翼を最大限にはためかせたのがこの作品です。前作での壮大な実験を経て、今作ではリミッターを解除したようにポップネスが全面開花。オープナー「PARADE」からして遠藤遼一の力強いヴォーカルが天高く木霊し、サウンドは絢爛な煌びやかさにシャープな肉体性もガッチリ。シングルカットされた「WHITE SHAMAN」や「ENGAGING UNIVERSE」は特にメロディのキャッチーさが目の眩むような勢いなのですが、やはり一度アートの命題に真っ向から対峙し、闇に身を寄せた人間は同じポップ曲をやったとしても響き方が違う。単なる刹那の狂騒ではない、魂に激しい火を着けて生を深く感じ取るような、それこそシャーマニックな凄み、説得力に満ち満ちています。 SOFT BALLET が決して流行のダンスポップ、時代の徒花として切り捨てられなかったのは、この表現に対する真摯な姿勢、そして柔軟なアイディアがあったからこそ。そんな彼らの実力を丸ごと感じ取れる、明と暗の双方にダイナミックに振り切れた最高傑作。

Rating: 10.0/10



SOFT BALLET - ENGAGING UNIVERSE [PV]