FUJI ROCK FESTIVAL '18 3日目

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3日目です。この日は台風が影響してるのか強い風が続き、10分おきくらいに晴れ→曇り→豪雨と天気が移り変わるという難儀な一日でした。


THE FEVER 333 @ WHITE STAGE

今年のメタル枠です。ヴォーカルが元 Letlive. という由緒ある血筋を持つ、昨年結成のスリーピース。まずは白い幕の前で捕虜のように顔にマスクを被せられたメンバーが静かに立ち、ステージは開始前から物々しい空気に。しかし一度音が鳴り出せばマスクをポーン!と取っ払い、ステージの端から端までを縦横無尽に飛び跳ねては頭を振り乱すテンション全開のパフォーマンスへ。やがてヴォーカルが服を脱ぎ捨ててパンツ一丁になったかと思えば、つられて他のメンバーも脱ぎ出しパン一の豪傑が三人。それで雨の中のクラウドに突っ込んでいったり、挙句にはステージ横のトラックの荷台にまでよじ登る始末。完全にバカだ! Rage Against the Machine 直系と言えるミクスチャーメタルに、打ち込みのベースを絡ませて最近のクラブミュージック要素も加味し、それでいてヤケクソでぶっ放す勢いオンリーの演奏で朝っぱらから思いっきりギアを入れられました。昨日のホルモンのせいで全身が痛かったのであまり前には行けなかったけど。


LEO IMAI @ RED MARQUEE

あくまで4人バンド編成の「LEO今井」。つい最近リリースされた新作においてもブルース/ハードロックからの影響を全面に打ち出していましたが、ライブではそのヘヴィネスがさらにドギつく強調されていて、元来ロックバンドというものが持ち得るダイナミズムをひしひしと感じられました。LEO今井は知的な雰囲気を醸しつつも腹の底からのシャウトを連発し、合間合間にユーモラスなパフォーマンスも挟んでくるという、音楽性は違うけど何だか本当に向井秀徳の影が乗り移っているようにも見えて、アイコンとしてすっかり愛着が湧いていたのでした。新譜と同じく「Wino」に始まり、ゴリゴリと悪い歪みを叩き付ける「Bite」、スリリングな展開にグイグイ惹き込まれる「New Roses」など、彼らのワイルドかつソウルフルな側面が大々的に打ち出された、汗と興奮の50分でした。


ANDERSON .PAAK & THE FREE NATIONALS @ GREEN STAGE

一応事前に予習としてアルバム「Malibu」を聴いていて、その時は落ち着いた上品なシンガーソングライターだというイメージだったのが、今年に入ってのシングル「'Til It's Over」「Bubblin」を聴くとどうも様相が違うぞ?と勘繰りだし、このたび実際にライブを見て分かったのが、Anderson .Paak はサービス精神旺盛な根っからのエンターテイナーなのだなと。

ド派手な衣装で軽快なステップを踏みながら登場した Anderson 。満面の笑みで白い歯をニカッと見せながら、今日というこの日を待ち侘びたという喜びが全身から溢れ出しているような、底抜けにポジティブなバイブスを振り撒いていました。太いベース音が強調されたファンキーなグルーヴに乗せて軽快にオーディエンスを鼓舞し、曲によってはステージ上手に設置されたドラムを叩きながらの器用な歌唱。そのドラミングもまたフィジカルに直接作用するファンクのコシが効いたプレイで、その多才っぷりも含めて何とも華がある。正直ここまでスター然とした人だとは思わなくて、その人柄やパフォーマンスにすぐさま惹き込まれてしまいました。「Malibu」の楽曲に加えて前述のシングル曲も披露され、中でも「'Til It's Over」は元々のスタイリッシュでアーバンな雰囲気が彼のアグレッシブなドラムによってガッツリ熱を注入され、セットリストの中で一際盛り上がったハイライトになっていたと思います。時には演奏の熱につられて激しいサークルモッシュが起こる事態にも。自分は知らなかったのですがヒップホップのライブでもモッシュってアリなのですね。

そんなこんなで熱さとクールさの境目を行ったり来たりの非常に充実した内容でした。昨日のケンドリックといい、日本でもここまでヒップホップが盛り上がってるという時代の流れを肌で実感することが多くて、今年は例年以上に刺激が多かったかもしれません。


KALI UCHIS @ WHITE STAGE

コロンビア出身 US 出身のシンガーソングライター。ここでヒップホップに続いてフィメール R&B と対面となったわけですが、まあしかし本場の方といったらエロいのなんの。衣装からしてあからさまに際どいし、それが艶めかしく腰をくねらせながらスウィートなハイトーンヴォイスを聴かせるものだから、この性的な圧の強さというのは流石 US といったところですよね。自分的には疲れがちょっと溜まり過ぎてたというのと、あまり楽曲自体に引っ掛かるものがなかったので座ったまま見ていましたが、これはこれでまた現代のポップスの先端に触れることができたという意義はあったかなと。


serpentwithfeet @ RED MARQUEE

今年のデビュー作が結構な衝撃だった US のシンガーソングライター。迷彩の上下に赤いパンプスを合わせるというインパクトの強い出で立ちでしたが、ライブ自体は昨日の小袋成彬よりもさらに簡素な、オケを流しての独唱かピアノ弾き語りのみという特別なギミック一切無しのスタイル。しかしながらやはりここでもトラックはベース音が極端に増幅されており、元々がゴシック調の深い陰影を含んだゴスペルと実験的エレクトロビートの融合という重みのある音楽性なだけに、その音圧が加わることで鬼気迫る凄味を持ち、頭から食らいついてくる見えない怪物のようにも感じました。その一方でクイアということで見た目とは裏腹の(失礼)キュートな仕草も印象的だったり。予定より20分ほども巻いて終わってしまったり、ライブの組み立て方という点ではまだ手探りな感は否めませんでしたが、その原石の煌めきは掴み取れました。


BOB DYLAN & HIS BAND @ GREEN STAGE

今年の大目玉。今回が101回目の来日公演となるノーベル文学賞受賞者です。別のアクトとの被りを徹底排除したこんなタイムテーブル組まれたらそりゃ見るわなという感じだけど、正直ボブディランって有名な曲いくつかしか知らないし、しかもどうやら事前の情報では最近はカヴァー曲ばかり演ってるとか、自分の曲もアレンジ加え過ぎで何の曲か分からなくなってるとか、見る前から異様に高くハードルが設定されてる感がありました。しかし実際のライブはそのハードルを越えてと言うか、ハードルの下をくぐってくると言うか。

SE も無くふらりと現れたディラン御大とその一行。ディランはずっとピアノを担当し、苦み走った声で語りかけるように歌う。ぼんやりした照明はずっと色を変えず、ディランはピアノの前に座ったままなのでカメラも動きらしい動きはなし。MC もなくただ淡々と、古き良きフォーク/ブルースばかりが緩やかに演奏される。セットリストには「Don't Think Twice, It's Alright」などもあったようですが、自分が辛うじて分かったのは最後の「Blowin' in the Wind」だけでした。ただ曲を知ってるかどうかなどはもはや問題ではなかった。歌と演奏に集中し、時に笑顔を零しながら歌う彼の様子を見ていると、何だか自分がディランという一人の人間の生き様、人生に直接触れているような気がして、聴いているだけで胸の内に暖かさや苦々しさ、哀愁など様々な感情が去来し、すっかり遠い目になってしまったのでした。ここまで低音の音圧が強調されたアクトが非常に多かっただけに、彼らの飾らない素のままの音色というのが逆に新鮮に感じたのも、惹きつけられた原因のひとつかもしれません。

ボブディランというビッグネームのコンサートを見た、という経験値を得ただけで何だか特別な気分になりますが、それ以上に単純に歌の素朴な魅力、歌の楽しみ方の原点というものを喚起させられたような、まるでディランに諭されたような心地にもなりました。不思議なライブだった。


CHVRCHES @ WHITE STAGE

自分の推しメンであるところでおなじみの Lauren Mayberry 率いるスコットランドのシンセポップバンド。実際に見るのは初めてだったもので、ステージに現れた Lauren を見て思わず「小っさ!!」って叫んだ。華奢すぎる。しかしあまり ベタベタな Kawaii に寄り過ぎないクールな表情と、その歌声から発せられるフレッシュで凛とした芯の強さがあり、しなやかにヒラヒラと舞い踊りながら何処かヒロイックな佇まいにも見えたりして、そのあまりの目映さに危うく目が潰れそうになった。演奏では「Gun」や「The Mother We Share」といった代表曲のメロディがいかに強いかを再確認できたし、新譜「Love is Dead」からだとラストを飾った「Never Say Die」がドラマチックな憂いに満ちた秀曲で、深く余韻を引く終幕も憎い。あと中盤でヴォーカルが Martin Doherty にチェンジした時は怒りで我を忘れそうになりましたが、トランシーなビートに合わせて巨体をブンブン振りながらはしゃぐオッサンというのも、それはそれで別種の Kawaiiness があるなと。ともかく堂に入った立ち振る舞いの中に何処かあどけなさも残した彼女らのライブで、心地良い感傷に浸りながら今年のフジロックが終了したのでした。次に Lauren に会う時は婚姻届を用意しておきます。


3日目のベストアクトは難しいけど ANDERSON .PAAK ということで。今年もありがとうございました。