大槻ケンヂ 「ONLY YOU」「I STAND HERE FOR YOU」「わたくしだから」

ONLY YOU+2

ONLY YOU+2

筋肉少女帯/特撮のヴォーカリストによる、1995年2月発表の初ソロ作再発盤。


ブックレットにはこのアルバムを作るに至った経緯が詳細に書いてあるのですが、要するに色々あって自律神経失調症に罹ってしまったオーケンが、制約を受けることなく好きな曲だけを歌うことで自己セラピーを行う、というのが今作の狙い。なので内容は全曲カヴァー、それも多感な時期の彼がどっぷり身を浸けた80年代日本のアングラ界隈がメインになっているわけです。基本的には原曲に忠実、かつ熟達したプレイヤー達により綺麗に清書されたテイクで、エグみこそ薄れたものの楽曲本来の魅力をよりスムーズに伝えるという意味では効果的。特に表題曲「オンリー・ユー」や「タンゴ」なんかはその恩恵を最も良い形で受けているように思います。ただその中で強烈に異彩を放っているのが、COALTAR OF THE DEEPERS 全面参加によりシューゲイズ・ハードコアの切れ味が冴え渡った「未青年」、そして人間椅子の手にかかり Melvins みたいなスラッジメタルと化した「メシ喰うな!」。あくまでも自分自身のための作品とのことですが、ここから過去の名盤への足掛かりにも成り得る、という意味ではファンにとっても大きな意義のある作品かと。

Rating: 7.5/10


I STAND HERE FOR YOU+3

I STAND HERE FOR YOU+3

1995年6月発表のソロ2作目再発盤。


前作からわずか4ヶ月、もちろん自律神経失調症は治療真っ最中。そこでいよいよオリジナル曲に着手したオーケンは、やはり自身が快方に向かうために前向きな歌詞を書こうと試みるわけですが、様々な精神療法にのめり込み過ぎたせいかオーケンの持つ宗教的/哲学的な死生観が全編に表れ、彼のキャリアの中でも1、2を争うほど危うい印象の残る作品になってしまっています。その最たる象徴が輪廻転生をテーマとした「モンブランケーキ」。切なくドラマチックな曲調の中にブラックホールのごとく吸引力を持つ闇が潜んでいるようで、ある種の恐怖感を強く覚える。今作のメッセージは詰まる所、誰もが決してひとりぼっちではない、辛い時にはただ傍に寄り添ってあげよう、という至って素朴で暖かなものではあるのですが、4編に分かれた「青春の蹉跌のテーマ」での朗読なんかも、当時いかにオーケンが参っていたかが痛々しいほどに伝わってきて、こちらも思わず胸が詰まる心地に。アーティストは精神的に落ちている時の方が一際魅力を輝かせる、という不謹慎な説はあまり支持したくはありませんが、それもうっかり信じそうになるほど奇妙な力の宿った作品です。

Rating: 7.8/10


わたくしだから+2

わたくしだから+2

1996年8月発表のソロ3作目再発盤。


この頃になると自律神経失調症も多少は落ち着いてきたのか自己セラピー的な側面は見られなくなり、純粋にソロワークとして自身がやりたいことを模索するようになってきました。これまでバラエティに富みまくっていた曲調の幅をグッと引き締め、一貫してブルース/フォークロック路線に統一。そこに多少はハードロックの感触も入り混じってはいるものの、本隊の筋肉少女帯みたくカッチリとメタルに向かうことはせず、それよりもさらにレトロスペクティブ志向の、良い意味でいなたく泥臭い演奏がメイン。その舵の切り方からは基本的に余計なことをせず、何よりも歌を一番に聴かせるという意識が見て取れます。「生きてあげようかな」はシンセなどの装飾が取れてオーソドックスなアレンジと化していたり、唯一のオリジナル曲「天使」は豊かな広がりを見せるサイケフォーク的な曲調の中に、ほんわか暖かなストーリーを描いた秀曲。ここでの経験が後のアンプラグドや大槻ケンヂミステリ文庫にまで繋がっている気がするし、一見地味なようでいて意外に重要な立ち位置にある作品なのかもしれません。

Rating: 7.1/10