京都音楽博覧会2019 in 梅小路公園

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初めて音博に行って来ました。自分の青春にひとつケリをつけるために。



Homecomings

5年前に Clound Nothings の前座で見たことがあって、その時は正直ほとんど印象に残らなかったのだけど、今回は音博というフェスの長閑な雰囲気、また曇り空ではあったけれどちょうど良い気候なのもあって、このバンドの魅力をようやく掴むことができたように思います。ライブの冒頭、ヴォーカル畳野彩加は「心を込めて歌います」と前置きして「Songbirds」を披露していました。最初はやや緊張しているのかなと思いましたが、後から Twitter を見ていて気付かされたのが、そう言えばこの曲は「リズと青い鳥」の主題歌でしたね。京都出身の彼女らが、京都の新名物としてすっかり定着したこのフェスで、京都アニメーションへの思いを馳せるという。いつも通り自然体の演奏ではあっただろうけど、ある種のトリビュート的な意味合いも含まれていたのかな、など。晴れやかで切ない楽曲の数々で、すっかり幸せな気分となったのでした。




Camila Meza & Shai Maestro

チリ出身のギタリストと、イスラエル出身のピアニスト。普段は各々単独で活動しているとのことですが、今回は特別デュオ編成での出演。まあジャズの場合はグループ編成が即席かパーマネントかというのは然して問題ではなく、むしろタイプが違う方がセッションにおいては燃える、くらいのものかもしれませんね。Shai Maestro がエレクトリックピアノの丸っこく澄んだ音色で優雅なムードを作り、そこに Camila Meza がラテン由来の情熱的で華やかなギターをグイグイ盛り込んでいく。ただ超絶技巧ではありながらひけらかし感などはなく、まるで打ち寄せては返す波のように、極々自然にテンションを高めながら互いにプレイの応酬を繰り返す。至ってシンプル、かつ上品な音の中に豊かな情感が表れた、ジャズならではの魅力をひしひしと感じさせてくれました。




折坂悠太(重奏)

鳥取出身のシンガーソングライター。自分はライブも曲も初めてでした。コントラバスを基調としたフォーク的な感触と、エフェクティブな音色を駆使するギターの組み合わせで独自の世界観を演出し、折坂悠太の多彩なヴォーカルが日本民謡風のエキゾチックな色彩をさらに強めるという、何とも個性的なものでおおっと思いました。が、初見の自分にも何となく察せられるくらいに折坂悠太の喉の調子があまり良くなく、ここぞという所で伸ばす時にはバシッと伸ばしてはいましたが、細かな節回しでは少し苦しそうな印象もあった。ただ途中ではくるり「ロックンロール」のサビをさらりと披露したり、エンターテイナー気質なところもあって面白く見れました。




never young beach

2年連続出演のネバヤン。フジロックの時と印象はそう変わらなかったからあまり書くこともないけど、やっぱり彼らは変に気取ったり斜に構えたりということがほとんどないのが良いですね。ライブだとダンサブルなノリの強さが前に出て若々しいし、安心して見れる。他のアクトより女性客が多く前に来ていたような気がして、それも少し印象的だった。




NUMBER GIRL

ここまで持ちこたえていた天気が、ネバヤンの演奏終了とともに崩れ出してきてもう笑うしかなかった。いくらなんでも雨バンドすぎる。


自分がナンバガにどんな思いを抱いているかは note の方に書いたのでそちらを読んでいただければ(これ)。それで見た今回のライブ。正直言って感傷に浸る暇は全くありませんでした。定刻間近になると後方からの強いプッシュが始まり、それから最後に至るまで壮絶なもみくちゃ状態。将棋倒しが何度起こりそうになったか分からない。さらにはナンバガの間だけ雨が強く降り続け、そうなれば当然カッパを被って耳も隠れますし、周りは全員大声で叫ぶわ歌うわで、演奏をしっかりと把握することはあまり出来なかった。まあそりゃそうだわ。なんせ17年ぶりだもの。何人もの人が自分と同じような思いを抱いていたであろうことは想像に難くない。かくいう自分もテンションが上がり過ぎて叫びまくっていたし、ライブを見届けること、十分に演奏を聴くことをハナから放棄していたとも言える。


ただそれでも、バンドの魅力を再確認することは出来ました。ナンバガ解散後もずっと第一線で活動していた向井、ひさ子、中憲に比べ、アヒトはブランクがあったから少し不安ではあったけど、ライブ開始とともにその不安は即座に打ち消えました。もちろん経年変化はあるでしょうが、自分には映像で何度も確認したあの頃のナンバガが、ほとんどそのままの姿で目の前に帰ってきたように見えた。例えば ZAZEN BOYS が向井の指揮の下に一丸となってひとつの方向性を目指すバンドなら、ナンバガは全員がそれぞれ違った役割を持ち、それらがパズルのピースのように組み合わさることでひとつの個性になるというもので、リーダーはもちろん向井ですが、メンバー全員のイニシアティブがほぼ均等なのですね。ヒステリックな歪みで切り込んでくるひさ子のギター、弦を弾くよりシバくと言った方が近い中憲の「ルードかつ直線的な」ベース、そしてアヒトの軽快かつ猛々しいオカズ特盛のドラム、その全てが記名性バリバリ。またステージ上の立ち振る舞いにしても、常にどっしり構える向井に対して両サイドの無駄なく洗練された挙動が綺麗に対照的で、全員が揃うと互いが互いを補い合い、こんなにも華のあるバンドになるのかと。


セットリストは代表曲ばかり。意外に「NUM-HEAVYMETALLIC」からは1曲も演らなかった。ここにも人気投票の結果が反映されてたりするのだろうか。確かに最もナンバガらしいナンバガというのは初期の方かもしれない。その辺は次のワンマンにお預けということで。何はともあれ、汗と雨でぐしゃぐしゃになりながら這う這うの体でナンバガを最後まで見届け、頭が真っ白と化した後に「ありがとうー!」などと声が飛び交う無人のステージを眺め、そこでようやく感慨がジワーッと込み上げてきたのでした。




BEGIN

当然知ってはいたけどちゃんとライブ見るのは初めてでした。まー流石のベテラン、場慣れのレベルが段違いでした。冒頭を「恋しくて」でしっとり飾ったかと思えば「俺は本当はこんな暗い歌詞歌いたくないんだよ!」とユーモラスに毒づく比嘉栄昇。その後も「海の声」「島人ぬ宝」「涙そうそう」とヒットソングの連発。合間には軽妙な MC で観客とコミュニケーションを取り、「何歌ってほしい?今なら曲変えられるから!」とリクエストを募ったり、「宮迫くん帰っておいでー!」からの「笑顔のまんま」だったりで、そのあまりの朗らかさ、気さくさで音博の会場が完全に沖縄料理の居酒屋ステージと化していた。三線の音色で広がるリラクシンな開放感と、聴く人を全く選ばない国民的バンドとしての度量の深さ。こりゃもう酒が進むといったらない。先のナンバガで体力を使い果たしていた自分にとって最高のチルアウトでした。あと「オジー自慢のオリオンビール」「かりゆしの夜」ではイーヤサーサの掛け声でお祭りタイムへと突入…と思ってたら袖からカチャーシーを踊りながら軽快にステージに乱入してきた酔っ払い男性がひとり。よく見ると向井秀徳だった。声出して笑ったわ。




くるり

ライブは確か5年ぶりくらいのくるり。見るたびに編成が変わってるけど、今回はバイオリンやチェロなどを擁する9人編成。そしてセットリストは「ワルツを踊れ」からの曲が多めのクラシックスタイルがメインでした。冒頭の「グッドモーニング」が何とも優美なアレンジで静かに唸らされた。でも途中では「琥珀色の街 上海蟹の朝」でヒップホップやったり「Tokyo OP」でハードプログレやったり、コロコロと路線を変える自由さもやはり彼らならでは。ただいずれにしても、演奏以外に特別なことは何もせず、そのぶん演奏は譜面やプレイ含めて十分に練り込む、という楽曲至上主義みたいな思想が全編に表れているようで、それがフェスの主催、トリとしての彼らの貫禄を引き立てていたように思います。今思うとナンバガの狂騒、BEGIN のレイドバック、そして最後のくるりでカッチリ締めるというタイムテーブルの流れはとても綺麗なものでしたね。そしてアンコールラストはメンバー3人だけでの「宿はなし」。これは音博恒例とのことで、最後まで余韻をじんわりと噛み締めながらフェスが終了しました。ありがとうございました。