国府達矢 「スラップスティックメロディ」「音の門」

スラップスティックメロディ

スラップスティックメロディ

京都出身のシンガーソングライターによる、1年半ぶり4作目。


音作りやミキシング、曲中の情報量の多さに拘った前作「ロックブッダ」とは綺麗に対を成し、シンプルなアンサンブル、シンプルな歌モノを目指したという本作。確かに使われている音色は至ってスタンダードなものだし、中心のメロディはいずれもなだらかで牧歌的だしで、聴く人によっては随分と地味な内容に映ってしまうかもしれません。しかしながら、突き抜けた派手さはなくとも確かに備わったフック、またここぞという場面で一気にスケールを押し広げる曲展開からは、ジワジワと身体に立ち昇ってくるようなエモーショナルな熱さを強く感じる。このムードは確実に「ロックブッダ」の世界観と地続きのものだし、彼の持つメロディセンスがいかに充実したものであるかがひしひしと伝わってきます。今作を作るきっかけになったというリード曲「青の世界」を筆頭に、歌詞は内省的だったり迷いを見せるものが多く、ただそれが朗々とした歌声やメロディの持つ暖かさで包まれると、聴き手の心の隙間にするすると忍び込み、不思議と力強さに転じる。プリミティブな歌の魅力、真っ当な意味でシンガーソングライターとしての本領が発揮された傑作です。

Rating: 8.5/10



国府達矢 "青の世界" (Official Music Video)




音の門

音の門

上の「スラップスティックメロディ」と同時発売の5作目。


素朴な歌モノという意味では「スラップスティックメロディ」と同じ路線。しかしこちらはさらに簡素な弾き語りアレンジとなり、歌詞はよりダイレクトに心の闇が表出したものとなっています。遠くを眺めるようにして自らの無力を嘆く「日捨て」からして身につまされるものがありますが、曲が進むにつれて病状はますます重くなり、「KILLERS」では憎しみが、「重い穴」では虚無感が、「逃げて」では恐怖が、思わず背筋に寒気が走るほどの端的かつシャープな筆致で描かれる。本人の話によれば今回の2枚は前作「ロックブッダ」の制作中に生まれたとのこと。その「ロックブッダ」の完成が延びに延びる中で自らのメンタルは激しく浮き沈みし、まるで終わりの見えない壮絶な産みの苦しみを味わったようです。そんな背景を踏まえた上で聴くと、「ロックブッダ」がその苦悩の末に辿り着いた涅槃の境地だとするならば、この2作はそこに至るまでの過程を生々しく切り取った、ある種のドキュメント的な側面もあるように思います。音楽的にも心情的にもそれぞれが作品の裏側を補完し合う、トリロジーと呼ぶに相応しい関係性。インターバル約15年の重みは伊達ではない。

Rating: 8.3/10



国府達矢 "日捨て" (Official Music Video)