2019年間ベストトラック20選

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今日は包み隠さず全部言います。正直、ベスト決めるのめちゃくちゃ悩みました。真剣に真剣に考えて決めました。そこに関しては何の嘘もないです。




20. FEVER 333 「BURN IT」

ストレングス・イン・ナンバーズ

もうゼロ年代も初頭となれば20年ほども前なわけで、時代がすっかり一回りして再評価の兆しが出てきてもおかしくない、というところでのコレ。そもそも前身の Letlive. 時代からハードコアを基盤としつつニューメタルに通じる端正さやスケールの大きさも持ち併せていた彼らが、より明確にニューメタルへの回帰を意識し、ソリッドに鍛え上がった演奏でポリティカルなメッセージをブチかます。とにかくこの、テンションが秒で沸点まで到達する即効性の凄まじさよ。フジロックでのファーストインプレッションは忘れ難い。

FEVER 333 - BURN IT [OFFICIAL VIDEO]




19. Battles 「Titanium 2 Step ft. Sal Principato」

Juice B Crypts [解説・歌詞対訳 / ボーナストラック1曲収録 / ポスター・ブックレット封入 / 紙ジャケット仕様 / 国内盤] (BRC613)

初期の頃はストイック、アカデミックといった印象だったのが、作品を重ねる毎にどんどん素っ頓狂なキモさを露わにしてきてる、そんな変遷を取って見てもやはり他に類を見ないバンドですよね。そのキモさの最高値をさらに更新してきたのが、この新譜の中でも特にキャッチーなリード曲。圧の強いタフなドラミングに、ギタースラップとシンセを器用にシフトしながら奇怪な音ばかりを打ち鳴らし、未開の地の祭囃子のようなアッパー感で迫り来る。ここまで来たら Liquid Liquid や平沢進との邂逅もごく自然なものに思えます。

Battles - Titanium 2 Step ft. Sal Principato




18. DIMLIM 「離人

離人

ゼロ年代以降はメタルコアがすっかり音楽性の主流として定着したヴィジュアル系界隈。それにより演奏力やプロダクションの水準は以前と比較にならないほど向上しましたが、そこにはどの楽曲もステレオタイプの金太郎飴状態になりやすいという罠も潜んでいるかと思います。そんな中この DIMLIM はプログレッシブメタル、もっと言えば Djent の領域まで突入した曲作り。鉄の鞭が撓るようなグルーヴときめ細かいギターワークを駆使した叙情性は、確実に若手の中で頭一つ抜けて見えます。メンバー脱退は痛いけど踏ん張ってほしい。

DIMLIM - 離人 (MV FULL)




17. Blanck Mass 「Love is a Parasite」

Animated Violence Mild

基本的にバカみたいな曲ばかり並んでいる Blanck Mass の新譜の中で、一際そのバカっぷりが際立ってるリードトラック。エピックトランスばりのド派手なシンセリフとロック色強い疾走感の相乗効果で、ほとんどファンタジー RPG のボス戦テーマ曲のような勇壮さを纏い、そこへダメ押しの暴力的ノイズテクスチャーてんこ盛り。ある意味 Foetus の愉快痛快なエンターテインメント精神を引き継いでいるようでもあるし、B級グロテスク趣味なところも含め、新世代インダストリアルの旗手として非常に頼もしさがありますね。

Blanck Mass - Love Is a Parasite (Official Music Video)




16. FNCY 「今夜はmedicine」

今夜はmedicine

往年の某しんぼトレンディドラマをパロった MV もそうだけど、音の作りも思いっきり平成初期感バリバリのオールドスクール R&B 。デカいスネアの鳴りやシンセの処理にしてもやたらと芸が細かくて笑ってしまう。この噎せ返るほどに強く香るノスタルジーが三位一体のスムース極まりないスキルで丁寧に磨かれ、まるで未知の世界を見る時のような憧憬を呼び起こされる。これぞリバイバルの醍醐味ですね。tofubeats やパソコン音楽クラブなどによって推し進められてきたドメスティック90年代の再評価も、いよいよここまで来たかと。

FNCY (ZEN-LA-ROCK / G.RINA / 鎮座DOPENESS)「今夜はmedicine」




15. These New Puritans 「Inside the Rose」

Inside The Rose

70~80年代ポストパンクに端を発しながら現行のエレクトロニクスにも目配せし、伝統を重んじながら革新を目指すという精神性まで継承してアートロックの道なき道を行く、そのストイックな姿勢がいよいよ極まってきたのがこのアルバム表題曲。クラシック由来の荘厳な重みは心音のようなビートと合わさることで切迫感を弥増し、刹那の情熱、死の予感すら強烈に感じさせる。聴いているだけで背筋を正されるほどの緊張感。これこそゴス特有の耽美主義が持ち得る魅力だと思います。

These New Puritans - Inside The Rose (Official Video)




14. 集団行動 「ザ・クレーター

ザ・クレーター

聴いていると思わず遠い目をしてしまう。いつもの真部脩一らしい軽やかなメロディ、ユーモラスな言葉遊び、その裏に隠れている「予期せぬ出来事で突然明日が変わってしまう」というメッセージ。果たして彼がどういう意図で、どれほどの気持ちを込めてこの曲を書いたのかは分かりません。ただ元号が令和に変わってからというもの、理不尽な力によって眼の前が急に真っ暗になってしまう、そんな悲しい事件ばかりをニュースで眺めている気がします。「あの時ちゃんと 話せなくってごめんね」の一節は、決して軽くはないと思う。

集団行動 / 「ザ・クレーター」Lyric Video(Short ver.)




13. The Chemical Brothers 「Eve of Destruction」

No Geography

本来の持ち味を保ちながら微細なチューンアップを欠かすことなく、ケミカル流ダンスミュージックの最新型を常に提示し続けている、そのベテランの風格にも唸らされますが、このアルバム冒頭を飾るキラー曲はサウンドのみならずメッセージも鮮烈です。崩壊前夜なる楽曲のコンセプトに相応しく、ゆるふわギャングの NENE が放つ「ぶっ壊したい何もかも」のパンチライン一閃。そして歌メロを可憐になぞるのはノルウェー代表 AURORA 。アドレナリンを噴出させる電子音の前では国境や人種、言語の壁すらも崩れ落ちるわけですね。

The Chemical Brothers - Eve Of Destruction




12. Girl Band 「Going Norway」

The Talkies [解説・歌詞対訳 / 国内仕様輸入盤CD] (RT0065CDJP)

ほとんど支離滅裂な歌詞。精神鑑定を受けながら薬でスッ飛び、やたらとテンションばかりが昂ぶり、正しくメンタル動物園な状態で鳴らすロックンロールがコレ。エフェクティブなギタープレイにダンサブルなリズム隊、もちろん力無く歌ったり絶叫したりのヴォーカルも、各自が脊髄反射でキメを繰り返してるのが奇跡的に合致してアンサンブルの体を成しているような、ひどく不穏で危うい印象を受ける。以前の Blawen カヴァーよりもさらに挑戦的、かつ肉感的にザクザク刺さってくる毒物パーティーチューン。

Girl Band - Going Norway (Official Video)




11. NOT WONK 「Down the Valley」

Down the Valley(CD+DVD)(初回生産限定盤)

ジャジーなコード進行からふとした静寂、そして突然堰を切ったように溢れ出す轟音。一連の流れがあまりにも澱みなくて陶然とする。エモというジャンルが持つメロディの叙情性、その最も良質な部分を拡大解釈してポストロックの領域まで繋げ、更なる可能性の提示、世界観の拡張を目指す。そのスタンスは重鎮 American Football の精神性とも密接にリンクするものではないかなと思います。実直でいてしなやか、輝かしい中に一撮みの翳りが見える。日常の何気ない風景の美しさに気付かせてくれるような一曲。

NOT WONK / Down the Valley MUSIC VIDEO




10. ROTH BART BARON 「Skiffle Song」

Skiffle Song [Analog]

何と言っても中詰の「自分の子供が育てられないのなら/他人の子供を育ててみてはいかが?」、このラインに尽きる。これは他者への啓蒙というより自らも矛先に含めての問い掛けだと思いますが、実際に口に出してみるとその言葉の重さを痛感します。何らかの事情で子供を持てない人にとって、その価値観のリセットは確かにひとつの救いではあるでしょうが、全ての人が血の繋がりを意識することから逃れられるわけではないだろうし、場合によっては自分の子供を持つ以上の覚悟を要するかもしれません。自分に合った生き方を探すだけでも、時には想像を絶するほどの激しさが必要なのか、などと思ったり。

ROTH BART BARON - Skiffle Song - [ Official Lyric Video ]




9. Chelsea Wolfe 「Deranged for Rock & Roll」

BIRTH OF VIOLENCE (バース・オブ・ヴァイオレンス: +bonus track)

曲タイトルが最高過ぎる。何なら座右の銘にしたいくらい。終始パーカッシブなドラムが転げ回っていたりギターがヒステリックに唸っていたり、物理的にもロック要素の強い楽曲だし、これでもかというほどの情念を込めて表題をサビで繰り返すスタイルも抜群にロック。言いたいことの9割方がタイトルの時点ですでに言われてるってのは Ramones の頃からのお約束じゃないですか。だいたい彼女がここまでゴスの冥府魔道を突き進むことになったのも、俺やお前の生活がいつまでたってもパッとしないのも、なんもかんもロックンロールが悪いねん。全員ロックンロールで気い狂え。

Chelsea Wolfe "Deranged for Rock & Roll" (Official Video)




8. COALTAR OF THE DEEPERS 「SUBLIMATION ft. HOT TOASTERS」

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ディーパーズは昔からジャンルを横断する時のセンスがブッ飛んでいて、メタル、ハードコア、シューゲイザーネオアコエレクトロニカ、果てはサンバやらボサノヴァやら、禁じ手なしの異種配合による新たなオリジナリティの精製に長けていました。それでまあこちらも長いことファンやってるもので、もう余程の事やらない限りは驚きませんよなんて思ってたら、その余程の事が来た。まさかのチェンバーポップ・メタルです。鋭いギターリフから続けざまに入る軽やかなマリンバの音色。あまりの落差に脱臼しそうになる。更には陽気なホーン隊も加わって牧歌的でドリーミー、でもメタル。何コレ?

‎COALTAR OF THE DEEPERSの「SUBLIMATION - Single」をApple Musicで




7. AAAMYYY 「屍を越えてゆけ」

BODY

Tempalay や yahyel といったインディバンドと深い交流があるだけに、彼女自身にも同様の先鋭的なイメージを先立って持っていたので、実際のソロ楽曲の真っ当な J-POP 感には随分と驚かされました。しかも妙にノスタルジーを喚起させる部類の。音的には昨今の時流に則したエレクトロポップなのですが、ナイーブな憂鬱を纏ったメロディや歌詞、その湿り気が衒いなしに伝わってくる歌声を聴いていると、例えば My Little LoverYEN TOWN BAND 、あるいは中谷美紀など、90年代末頃に蔓延していた独特の内省的な雰囲気をどうしても思い出してしまう。これは偶然なのか、それとも彼女の血なのか。

AAAMYYY "屍を越えてゆけ" (Official Music Video)




6. Tyler, the Creator 「EARFQUAKE」

Igor

甘美なピアノの音色と相反するように薄汚れたシンセが挿入され、リラクシンな心地良さと足元の不安定さが綯交ぜになったような、不思議と落ち着かない気分にさせられる。これは Earthquake と Heartbreak で韻を踏んでいる歌詞の内容、その心象をダイレクトに反映するのには効果的な手法だと思います。これを Tyler 自身が、似合わないスーツと金髪のウィッグを身に着け、自分の不始末による火事の中で歌っているというのが(まあ半分はジョークかもしれませんが)歌詞中の不安定っぷりをことさら強調しているようで、ある意味生々しい人間味が増して響いてきますね。

EARFQUAKE




5. Seiho 「I Feel Tired Everyday」

I Feel Tired Everyday

やたらとエモい。終始ループされている歌詞は「We party everyday」の一言のみ。それで曲名がコレ。その疲労が果たしてパーティーの後だからか、それとも日常の生活に疲弊した後のパーティーなのかは分かりません。ただいずれにしても、毎日の刹那的な狂騒に身を寄せているうちに自分という存在がすりこぎのように徐々に擦り減っていくような、快楽と背中合わせのそこはかとない不安感が、4つ打ちに乗せたロマンチックなメロディの隙間からポロポロと零れ落ちているように、自分には見えます。We と I の違いにも注視するべきかもしれない。シンプルさの中に機微が宿った新フロアアンセム

Seiho - I Feel Tired Everyday (Official Audio)




4. THE NOVEMBERS 「BAD DREAM」

ANGELS

彼らの素養のひとつであるインダストリアル要素を打ち出した冷徹さやビートの圧があり、同時に BPM を落として大きくうねるグルーヴを作り出すことでトラップにも接近し、それでいてギターノイズとシンセは溶け合ってアブストラクトに広がり、メロディはやっぱりラルク成分の強く出た耽美な感触。自身のルーツと真っ向から向き合い、現代的な時流も丁寧に汲み取り、全方位的にバランスの良い配分を追求し続けた末の、結論のひとつがこの一曲。彼らのことだから一音一音が全て計算づくだろうし、もはや優等生的な印象すらあるのですけど、いや優等生にしては尖り過ぎてるか。健康優良不良少年的な。

▲THE NOVEMBERS「BAD DREAM」(OFFICIAL MUSIC VIDEO)▲




3. THA BLUE HERB 「REQUIEM」

THA BLUE HERB

戦争で犠牲になった先人達に向けた、正しく表題そのままのレクイエム。極めてセンシティブなテーマであり、あらぬ誤解を受けかねない内容だとは思います。しかしながら彼らは当然、お国のために散ったと死を賛美する気など毛頭ないし、多くの死によって今の日本が在るということを極めてシビアな目線で見つめています。歴史の闇に決して蓋をしてはいけない、同じ事を繰り返してはいけない。プロパガンダではなくその信念のみを、一歩一歩地面を固く踏み締めるようにラップで綴る。厳しさと優しさが入り混じった言葉のひとつひとつがズシリと腹の奥に溜まっていく。底知れないエモーションと冷静なバランス感覚が両立された、令和元年に在るべきプロテストソング。

THA BLUE HERB "REQUIEM"【OFFICIAL MV】




2. FKA twigs 「sad day」

Magdalene [輸入盤CD] (YT191CD)

すでに名曲の名高い「Cellophane」とどちらを挙げるか悩みましたが、単純に曲調の好みでこちらにしました。「Cellophane」がすっかり燃え尽きた後の恋に対する憐れみなら、こちらは燃える火を無くしかけている最中の戸惑い。これまでの彼女からすると驚くほどキャッチーに洗練されたメロディがさらりと浸透し、なおかつ SkrillexHudson Mohawke 、Nicolas Jaar など豪勢な作家を招聘してのトラックはチャレンジングで刺激的。歌声には従来の可憐な透明感が残されていますが、そのヴェールの内には自身に対する怒り、悲しみ、迷いがドロドロと詰まっている。これまで俗世とはかけ離れた聖性を身に着けているように見えた彼女が、我々と同じ地平に立ち、我々と同じように弱さを隠せずにいる、その変化が最も分かりやすく汲み取れる一曲だと思います。

FKA twigs - sad day




1. Billie Eilish 「bury a friend」

ホエン・ウィー・オール・フォール・アスリープ、ホエア・ドゥー・ウィー・ゴー?

今年 My Chemical Romance が再結成を発表した際に歓喜の声 (FUCK) をいち早く上げていたのを見ても、やはり彼女の血の何割かはゴスの成分で占められているのだなと。その影響が曲にもヴィジュアルにも一番ダイレクトに反映されているのがこの曲。彼女にとってはゴスとエモが密接に組み込まれているようですが、人によってはそれがポストパンクだったりフォークだったり、あるいはメタル、インダストリアル、ヒップホップの場合もあるでしょう。今やゴスという要素は様々なカルチャーと結びついて全方位的に伝播し、直接/間接含めてその影響から逃れられている人は存在し得ないと言っても過言ではないはず。そんなゴスミュージックの最新型を、ヘヴィなベースラインと ASMR 音響の駆使によって堂々と提示し、あまつさえ世界中のトップチャートに食い込ませてるという。ゴス好きにとってこんな快挙ないですよね。

Billie Eilish - bury a friend