2010年代ベストアルバム100選(前半)

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ついに10年が終わってしまいましたね。時間の流れの速さが信じられない。


皆さんにとって2010年代の音楽ライフはどんなものだったでしょうか。個人的なところで言いますと、アラサーからアラフォーへと突入してプライベートの環境も色々と変化しまして、フィジカルの所持数を増やすことがますます困難になってきたので、もっぱらサブスクリプションサービスに頼りっ放しの状況と化したのが最も大きな変化です。それによって時代やら国籍やらの壁が取り払われて全ての曲がボーダレスに並べられた状態となり、その一方でジャンルの細分化も進行したりで、ひとつの大きなムーブメントというのはますます見えにくくなったような気がしますね。そんな中で自分なりのアンテナを張って音楽を漁り続けてきた結果、この100枚が自分にとって特に衝撃、愛着の度合いが強かったな、というリストが以下になります。


ところでディケイドの区切りのベスト企画だと今までは邦楽と洋楽を分けてたんですが、先述の通りせっかくボーダレスな時代なのでね、思い切ってひとつに纏めてしまいました。ちゃんと纏まってるかどうかは知らない。ということでまずは前半からどうぞ。




100. The Body 「All the Waters of the Earth Turn to Blood」

All the Waters of the Earth Turn to Blood [12 inch Analog]

ハードコア、ノイズ、エレクトロニックなど様々な方面の豪傑と組んで悪行の限りを尽くしている2人組の、そのキャリアの本格的な第一歩となったのがこの作品です。最小編成だからこそ各々の発する音圧が嫌というほどに際立ち、数多くあるドゥーム/スラッジメタルの中でも殺伐とした攻撃性、怨嗟や悪意を撒き散らすアンダーグラウンドの腐臭が桁違いの放出度。聖歌隊コーラスやインダストリアル由来のデジタルエディット、カルトモチーフの挿入も演奏の凄まじさをバッチリ助長させ、聴いているだけで脳ミソが圧迫死しそうな感覚に陥る。テン年代随一のアブノーマルな刺激。

https://music.apple.com/jp/album/all-the-waters-of-the-earth-turn-to-blood/536080489




99. XA-VAT 「艶℃」

艶℃

近しいルーツを共有する石井秀仁、Közi 、SADIE PINK GALAXY の3者によるニューウェーブグラム・ロックンロール。GOATBED 始動後の石井秀仁は特に顕著でしたが、例えば Dead or AliveSigue Sigue Sputnik のような、80年代ニューウェーブバンドの中でもインパクト重視の派手さが際立ち、それ故に時代の徒花として軽視されがちな類、それらに特有のダサ格好良さを上手いこと抽出し、旨味エグ味を損なうことなくエッジーな音像に磨き上げるといった手法。このバンドではそれがとことん駆使され、奇抜なヴィジュアルと同等の鮮烈さを放っていました。

XA-VAT/VAT-DANCE




98. ZORN 「柴又日記」

柴又日記

パンチライン「洗濯物干すのもHipHop」の主義思想に則り、セレブでもサグでもない素朴な日常からの目線を大事にした楽曲が並ぶ今作。それは地味ながらもノスタルジックかつ牧歌的に彩られた美しいものですが、その美しさはいつ崩れ落ちるかも分からない奇跡的なバランスの上に成り立っている、ということも彼は重々理解しています。「かんおけ」における家族の死によって長閑な情景描写はいとも簡単に様相を変え、「ゆりかご」における新たな命の誕生により日常はまた荒波へと変わる。リアルであることがラッパーにとってのステータスならば、彼のラップは明らかに過小評価されてる。

【Official Music Video】ZORN / かんおけ [Pro. by O.N.O(THA BLUE HERB)] ℗2017 昭和レコード




97. 妖精帝國 「PAX VESANIA」

PAX VESANIA

彼女らの作品は良くも悪くも「閉ざされた世界」という印象があります。それはゴシックロリータ教義に準じた世界観もそうだし、パーマネントなバンド編成となって本格的にヘヴィメタルへ舵を切り、激辛料理にココナッツミルクをブチ込んだような様相の音楽性にしてもそう。それはちょうど引力と斥力のごとく、惹きつけられる人間と忌避する人間をパックリと二分し、その両者の間にはひとつの決定的な境界線が横たわってる。乱暴に言えばオタクの素質があるかどうかということなんですけどもね。それで幸か不幸か、自分は前者寄りだったというわけです。ある種の踏み絵。

[Official Video] Yousei Teikoku - Astral Dogma - 妖精帝國




96. Protomartyr 「Under Color of Official Right」

Under Color of Official Right

ストパンクに根を張りつつ時には空間一杯まで豪快に張り裂けるギターサウンド、苦み走ったミッドロウヴォイスで作品全体に憂鬱な影を落とすヴォーカル、そして殺伐としたパンク/ハードコアの心意気。鼓膜にベッタリと貼り付くような湿度がどの楽曲にもあり、パワフルでありながらひどく無気力でニヒリスティックな印象もある。僅かなメロディに宿る、極めて苦味に寄った甘味の配分も絶妙なものだったりで、白か黒かで端的に括られるのを徹底的に拒絶しているかのような、微妙かつ複雑なグレーの色彩感覚。言葉本来の意味でのオルタナティブロックとも言えるかと思います。

Protomartyr - Come & See




95. 人間椅子 「怪談 そして死とエロス」

怪談 そして死とエロス

あなたは「今」のバンドと言われてどんなバンドを想像するでしょうか。最近流行の音楽性を携えた若手ならまだしも、キャリア30年を超えた人間椅子に対して「今」を感じるというのは無理があるように思うかもしれません。しかしながら、長くに渡った不遇の時期を乗り越え、2013年の Ozzfest Japan 出演をきっかけに動員やセールスが右肩上がりとなり、今なお脂のノリを増して活動を絶えず継続している彼らを、自分はあえて「今」のバンド、今こそ聴くべきバンドだと呼びたいです。メリハリの効いたヘヴィネスによって正統なビルドアップを果たした、結成当初から全くブレないままの世界観の最新型。

Ningen Isu / Great king of terror (人間椅子 / 恐怖の大王)




94. 川本真琴 feat. tiger fake fur 「音楽の世界へようこそ」

音楽の世界へようこそ

ヒット曲を連発していた90年代の頃の、我々が最もよく知るところの「川本真琴」というパブリックイメージは、実際には当時のレコード会社のスタッフが先導して創り上げていったものだということは、旧譜の再発盤に添えられた彼女本人のライナーノーツの中で生々しく記されています。様々な制約や注文に応えようと気を張り続けているうちに、心身ともに疲弊しきってしまった彼女が、長いインターバルを経てこの作品に辿り着いたというのは、過去を知る人間からすれば何とも感慨深い話ですよね。「音楽の世界」とは鳥が囀り、波がさざめく、何気なく目の前に横たわるいつもの景色。

川本真琴 feat. TIGER FAKE FUR/アイラブユー




93. Ringo Deathstarr 「Colour Trip」

カラー・トリップ

テン年代に出会った中では最も愛すべきバンドかもしれない。ひしゃげた不協和音ギターノイズにスウィートなメロディという取り合わせは、どう言い訳しようともシューゲイザー以外の何物でもあり得ません。音楽だけを取ってみれば。しかし当のメンバー達はそれこそが最高のロックンロールだと信じて疑わない、そんな様子で足元などお構いなしにはしゃぎ続けている。マイクを咥えて喚いたりフロアへ突撃したりの Elliot 、その横で対照的に華やかな美貌を振り撒く Alex 、そんなふたりを後ろからにこやかに見守っている Daniel 。その純粋にバンドを楽しんでいる様が、ああ、何とも愛らしいなと。

Ringo Deathstarr - Kaleidoscope




92. Jorja Smith 「Lost and Found」

Jorja Smith Lost & Found

テン年代という時代に則した目新しい点というのは、ほぼ無いと言って良いかもしれません。上品に磨き込まれたサウンドプロダクションはありますが、それ以上に突っ込んだアレンジや音響性などにはあまり重きを置いてない。ただ全ての音、全ての演奏が彼女自身の歌を輝かせるためにある。情感豊かなクリスタルヴォイス、しっとりと憂いを帯びたメロディ、そしてビタースウィートな歌詞の数々。もはや逆に珍しいくらいの王道、オーソドックス。それ故に歌声の僅かな揺れ、僅かな掠れに至るまでがくっきりと浮かび上がって胸に響いてくる。デビュー作にしてはあまりにも気品が溢れすぎてますね。

Jorja Smith - Blue Lights (Official Video)




91. Lillies and Remains 「TRANSPERSONAL」

Transpersonal

国産としてはとても稀少な、70~80年代ポストパンク/ニューウェーブの遺伝子を直系で受け継いでいるバンドですが、この2作目は改めて聴くとポストパンク云々以前に、ロックバンドが本来持ち得るダイナミズムが純粋な形で表れているように思います。タイトに疾走するリズム隊、ダークな緊張感を醸し出すギターリフ、そして低熱のテンションを保ちながらロマンチックな感傷を滲ませるメロディ、これらの三位一体が生み出す鋭利かつキャッチーなセンスは彼らの最たる持ち味。Bauhaus や Gang of Four などと同列に BOØWY を信奉するこのバンドならではのロックンロールの流儀が炸裂しまくっています。

Lillies and Remains - You're Blind




90. Gang Gang Dance 「Eye Contact」

Eye Contact

万華鏡のようなカラフルさを見せるエレクトロニクスに、意外と芯の太い鳴りで全体を引き締めるリズム隊、そして Lizzi Bougatsos のヴォーカルが見せる妖艶な中近東風エキゾチシズム。それらが織り成す彼女ら独特の不可思議なサウンドスケープが、今作ではゴス、チャイニーズといったモチーフまで巻き込んでさらに拡大し、より多面的でしなやかな、それでいてポップネスの強化された充実作となっています。今作から彼女らは 4AD 所属となっていますが、全体に通底する心地良い浮遊感、ミステリアスで耽美的なムードも相まって、テン年代における 4AD アップデート版という印象をやけに強く受けますね。

Gang Gang Dance - MindKilla (Official Video)




89. BAD HOP 「Mobb Life」

Mobb Life [Explicit]

この作品を製作するに当たり、リーダー的存在の YZERR は「出来る限り日本的な要素を排除したかった」と述べていたのを記憶しています。低波長の増幅されたダークなトラップビートという、US において旬真っ只中の音楽性を取り入れることに微塵の抵抗もない、むしろ流行を完全に自分のものとして飲み下してやろうという激しい野心が、この作品には全編に満ち満ちています。あくまで世界を視野に入れ、海外勢に引けを取らないクオリティを目指すその姿勢は、ガラパゴス化著しいこの島国の中では一種の希望のように映るし、まして日本武道館ワンマンまで完売させてしまったのだから尚更。

BAD HOP / Ocean View feat. YZERR, Yellow Pato, Bark & T-Pablow (Official Video)




88. Shining 「Blackjazz

Blackjazz

そもそもはジャズを出発点としながらプログレッシブな方向へと邁進し、実験的かつ刺激的な音像を目指すというバンドだったのが、徐々にメタルやインダストリアルからの影響も受けたりで、様々な試行錯誤を重ねた末に「これこそが我々にとってのジャズの形だ!」と開眼するに至った…のは良いけれど、その頃にはすっかりジャズ本来の形から遠くかけ離れ、異形のサイボーグ状態と化していたというオチ。音数を減らす代わりに各パートの音が太く逞しく鍛えられ、複雑な曲構成を取りながらも受ける印象としては至ってシンプルかつダイナミック。マッドサイエンティストの美学を感じる一枚。

Shining - Fisheye (Official Video)




87. Viet Cong 「Viet Cong」

Viet Cong [12 inch Analog]

現在は色々あって Preoccupations と名を改めているカナダの4人組。殺伐としたギターノイズやシュールなシンセ音が窮屈なコンクリートの地下室で反響し合っているような凄まじい音像、そこにカットアップ/コラージュの手法も多用してエクスペリメンタル色濃厚。かなり直接的に This Heat からの影響を感じますが、その無機質かつ鋭利なサウンドの中にも捻れたポップ感が挿入されており、完全にノイズ/インダストリアルへ向かうのではなく、彼らなりのやり方で他の何処にもないパンクロックをやってやろうという心意気も感じる。実はエヴァーグリーンの煌めきをもったスタンダードたる作品なのでは。

Preoccupations - Continental Shelf (Official Video)




86. Run the Jewels 「Run the Jewels 2」

Run the Jewels Vol 2

現時点での彼らのカタログ中、リリック的にも音的にも一番直接的に怒りが表れている作品だと思います。圧の強いベースラインが強調されたエレクトロトラック、その上で Killer Mike と El-P の両者からマシンガンのごとく放たれる言葉の数々。政府、警察、宗教といった巨大組織を相手取り、それらに対しての姿勢、伝えたいメッセージというのは「Oh My Darling Don’t Cry」の中の一節に集約されています。詰まる所、「I do two things. I rap and fuck」だと。世に蔓延る不条理や不平等へ容赦なく怒りの感情を露わにし、口角泡を飛ばしまくるあまりにもヘヴィな一撃。

Run The Jewels - Close Your Eyes (And Count To F**k) feat. Zack de la Rocha (Official Video)




85. 雅 -MIYAVI- 「WHAT'S MY NAME?」

What's My Name?

スラップやカッティングを駆使した独自のギター奏法、それが一切の雑味のない生々しくソリッドな音像で迫り、胸の内に滾るエナジーを最もスリリングな形で放出する。ファンク、ヒップホップ、グランジといった種々の要素が2人の音のみに凝縮された、最小編成のシンプルさとは裏腹の濃さ。もう2億回くらい言われていることでしょうが、かつてのバンド時代には思いっきりヴィジュアル系の鋳型に嵌っていた彼が、ここまで何物にも縛られないオリジナリティを獲得するに至るとは、果たしてどれだけの人間が想像できたことか。もはや完成され過ぎているきらいすらある、修練の果てのシグネチャサウンド

MIYAVI - WHAT'S MY NAME?




84. pianaMuse

Muse

world's end girlfriend「call past rain」にヴォーカルとして客演していたのを聴いて以来、彼女にはずっと幻想的で清らかなイメージが定着し、ともすれば神聖視すらしていたかもしれません。しかしながらこの作品ではその霞みがかった空気が少しばかり晴れ、真っ当な歌モノの体裁を取ることで聴き手との距離感がいくらか縮まったような印象があります。エレクトロニカ由来の奥行きのある音響空間に生まれる浮遊感や、理知的で冷たい音像を保ちつつも、第一に耳を惹くのはその感傷的なメロディと声、そして言葉。そこには血の通った暖かさが確かにあり、夢を覚まさせると同時にまた別の夢を見せてくれました。

piana - In Silence (MUSIC VIDEO) from Muse




83. Savages 「Adore Life」

adore life

彼女らに対しては80年代ゴス/ポジティブパンクリバイバルというところで好感を持ってはいましたが、デビュー作「Silence Yourself」は個人的に少し弱いと言うか、ポジパンとしてはいささかオーソドックス過ぎるのではというきらいがありました。その弱点を今作ではしっかり払拭しています。パンク元来の焦燥感に満ちた荒々しさを放出する「The Answer」、感情の起伏がより生々しく表れた「Adore」など、各楽曲の粒立ちが良くなってアルバム全体にも豊かな起伏が生まれ、着実に前進を果たした内容。低熱かつモノトーンでありながら内には激しい熱を孕んだ、美しくタフな音。

Savages - "The Answer"




82. The Internet 「Ego Death」

Ego Death

再生した瞬間に強い酒がグッと身体に回るような感覚に陥る。シンプルでありながらひとつひとつの音がとことん洗練され、ベースは太く、上モノは煌びやかな光沢を纏い、その結果立体的な奥行きが生まれた精緻な音像。その音の隙間に浮かび上がる空気感はひどく濃密なもので、無音を感じさせる、行間を読ませるということに特化した、ひどく趣深いサウンドだと思います。その上で溜め息のような憂いを帯びた Syd のヴォーカルを筆頭に、各メンバーの豊かな表情、息遣いがダイレクトに伝わってくる演奏の心地良さったらそうない。皆で「You fucked up!」と掛け合いしたライブ、良い夜だったな。

The Internet - Girl (Official Video) ft. KAYTRANADA




81. 国府達矢 「ロックブッダ

ロックブッダ

終わりがまるで見えず10年以上にまで及んだ暗黒の制作期間を乗り越え、ようやく完成に辿り着いた今作にはその苦悩、血と汗の滲みが確かに透けて見えます。しかし楽曲自体から放たれるポジティブな衝動、欲動はその闇を完膚なきまでに食いつくす勢い。skillkills のリズム隊を招聘して繰り出されるグルーヴはファンクと祭囃子が融合したかのような深いうねりを見せ、まるで浪曲のようなメロディがその力強さをさらにスケールの大きなものへと押し上げる。スピリチュアルで深遠、それでいて心の隙間をそっと埋める朗らかさもあり、総じて全身全霊という言葉がこれ以上なく似合う、祝祭的な音の奔流。

国府達矢 "薔薇" (Official Music Video)




80. black midi 「Schlagenheim」

Schlagenheim [解説・歌詞対訳 / ボーナストラック2曲収録 / 国内盤] (RT0073CDJP)

常に何かしら動いていないと気が済まないというくらいに、どの曲でもとにかく初期衝動が先立っている。他のどのバンドよりも激しく、複雑、奇抜、挑戦的でありたいという本能的な欲求をビシバシに感じます。その結果として彼らはニューウェーブ/ポストパンクの範疇にあるバンドから影響を受け、自身が演奏する楽曲にもその要素が色濃く出ている、ということだと思います。確かな目的があってこの手段があるという必然性が感じられる。ポストパンクというスタイルを外形だけではなく、精神性の面まで受け継いだバンド。よってその刺激は今の時代においても辛辣なまでに有効です。

black midi - ducter




79. Alcest 「Écailles de Lune」

Ecailles De Lune

かけ離れているようで実は近似していたブラックメタルシューゲイザー。その接続点を見出したブラックゲイズバンドとして、もちろん Deafheaven の存在も大きいですが、それよりも早い時期から先鞭をつけていた Alcest を個人的には推したいです。ギターの空間的な轟音や高速ビートといったメタル由来の要素が全くマッチョな方向へ向かわず、アルバム表題の「月の鱗」が指し示す通りの幻想的な美しさ、すぐにも掌から零れ落ちてしまう儚さを表現し、その悲哀の色はあまりにも深い。ポストメタルの隆盛を経た先の地平で、ヘヴィメタルの新たな可能性をまたひとつ堂々と提示した一枚だと思います。

Alcest - Écailles De Lune Pt. 1




78. Screaming Females 「Ugly」

Ugly [12 inch Analog]

個人的に彼女らの楽曲を聴いていると Dinosaur Jr. を思い出します。単純にインディ・オルタナティブロックとして音楽的な共通項が多いというのもありますが、演奏におけるスリーピースの関係性、パワーバランスの絶妙さが非常に似通っているように見えるのですね。バンドの顔役 Marissa Paternoster のふてぶてしいほどに抑揚豊かなヴォーカル、卓越したギタープレイが楽曲全体をゴリゴリにドライブさせ、そこに骨格の太いリズム隊がガチッと食らいついていく、この調和しつつも緊張感を孕んだアンサンブルこそロックンロールの神髄と言えるものでしょう。Steve Albini エンジニアリングも大正解。

Screaming Females - It All Means Nothing (Official Video)




77. 中村佳穂 「AINOU」

AINOU

現行のヒップホップや R&B 、ジャズにファンク、また曲によってはエレクトロニカの浮遊感も加味され、縦にも横にもうねる多彩なグルーヴ感がごった煮の状態となったトラック。その上に乗る彼女のヴォーカルもまた、強烈なまでにリズムを感じさせる。演奏のリズムに乗って歌うと言うよりも、歌そのものが独立したリズムを持ち、そのリズムにピッチがついてメロディと化し、他の楽器と複雑に絡み合っているような。意図的に音程をずらしたりスキャットも多く交えたりと、とにかくその自由さが際立ちますが、ライブを見た後だとこの音源のテイクすらもまだ肩慣らしに感じられるという。もはや末恐ろしい。

Kaho Nakamura - Kittone! [Official Music Video]




76. HEALTH 「Death Magic」

Death Magic

そもそもは BOREDOMS を信奉するアヴァンギャルドなジャンク・ノイズバンドだったのが、作品を重ねる毎にエレクトロニクスへの意識が高まり、この作品ではノイズの猥雑さとシューゲイズ風味の幻想的な浮遊感を保ちつつ、そこにインダストリアル色の強いボディビート、また楽曲によってはトランスの領域まで突っ込み、耽美的なダークネスを目一杯吸い込んだ異形のダンスパンクサウンドを錬成しました。グロテスク趣味全開な MV 含め、悪意と美意識が強烈に混じり合った独自の音像は、テン年代におけるゴスの新たな一解釈と言えるでしょうか。全編通してツボ突かれまくり。

HEALTH :: STONEFIST :: MUSIC VIDEO




75. Grouper 「Ruins」

Ruins

(最後の「Made of Air」以外は)ポルトガル滞在中の居住地で歌とピアノのみを用いて作曲し、ポータブルレコーダーで録音したという簡素極まりない作品なのですが、それでここまで深い音響が構成できるというのが本当に不思議でならない。ピアノの残響音を余すことなく拾い、部屋の外にいる虫やら蛙やらの鳴き声まで混入。その日常的な静謐を湛えた楽曲を聴いていると、だんだんスピーカーと外界の境目が融和していくような、いつの間にか Liz Harris と自分が同じ空間に居るのではという錯覚に陥る。アンビエント作家としての鋭いセンスとシンガーとしての繊細な魅力、双方の魅力が際立った傑作です。

grouper 'holding' by kranky | Free Listening on SoundCloud




74. 早見沙織 「JUNCTION」

JUNCTION

所謂ハイエナジー系の高速トランス、あるいはメタルに目配せした J-ROCK と双璧を成す形で、声優ポップスシーンのもうひとつの主流として渋谷系、あるいはその源流にあたるシティポップが存在すると思いますが、この作品はそのシティポップ派にとっての最終回答、完成形と言い切ってしまっても良いのではと。それくらい徹底して高品質、高性能な楽曲ばかりが揃っていて脱帽する他ない。海外でのシティポップブームの一番の火種である竹内まりやが楽曲提供しているという目玉もありますが、それ以上に本人のペンによる楽曲、そして何とも表情豊かな歌唱力の精緻さにはただただ唸らされます。

早見沙織「Let me hear」MUSIC VIDEO




73. 9GOATS BLACK OUT 「CALLING」

CALLING

とても彩り豊かな作品だと思います。バンドの中心人物 ryo の声質をフルに活かした、メランコリックで柔らかく、それでいて妖艶なメロディライン。そこを基本軸として、アレンジ面では所謂 V-ROCK らしい疾走感であったり、憂いたっぷりのミドルバラード、あるいはハードコアやシャッフルなど柔軟に緩急をつけ、多彩なギターサウンドやシンセ/ピアノの装飾は絢爛でありつつ繊細で上品なもの。その中に浮かび上がる彼ら流の耽美的な死生観は深い説得力を持っており、アンダーグラウンドで長いキャリアを経てきた彼らが持ち得る力を最大限に発揮した、渾身という言葉がよく似合います。

CALLING CF " Panta rhei SPOT "




72. Car Seat Headrest 「Twin Fantasy」

Twin Fantasy [帯解説・歌詞対訳 / 国内仕様輸入盤 / 2CD] (OLE13472)

この前に発表された「Teens of Style」や「Teens of Denial」も甲乙つけがたい内容なのですが、バンマス Will Toledo の衝動が最も濃密かつパワフルな形で詰まっているという点で、自分はこの作品を推します。鬱屈、後悔、失望などを内に抱え込み過ぎて綴りたい言葉が山ほど生まれ、曲によっては15分にも尺が膨れ上がってしまうほどに、持て余したエナジーを出来る限りに大放出しています。それと同時に Weezer 直系のひどく愛らしいパワーポップセンスも炸裂させ、盛り盛りの情報量をモラトリアム・インディロック一大絵巻として力業で繋ぎ止めました。切実すぎて痛々しい。

Car Seat Headrest - "Nervous Young Inhumans"




71. Moe and ghosts × 空間現代 「RAP PHENOMENON」

RAP PHENOMENON

幸運にもこのコラボユニットのライブを体験することが出来まして、その時に痛感したのが、この作品がいかに壮絶なテンションの下で制作されたかということ。ミニマルな反復や信号のエラーを人力で再現する空間現代の演奏は、どうやって呼吸を合わせてるのか常人には理解し難いレベルの変拍子処理スキルの高さ。そこへガッツリ食い入る萌のラップは、ユーモラスなキュートさが楽曲の窓口を担いつつ、達者な滑舌によるフロウで演奏のドライブ感に拍車を掛ける。表向きこそ飄々としているけれど、理知的なだけでは決して収まりがつかない、彼らの心技体全てが注ぎ込まれた熱量の塊。

Moe and ghosts × 空間現代(Kukangendai) - "不通" from "RAP PHENOMENON"




70. Behemoth 「The Satanist」

THE SATANIST

ヴォーカル Nergal が白血病を患って活動休止状態となり、地の底から苦難を乗り越えてカムバックを果たした Behemoth は何処か吹っ切れていました。彼らにとっては正道そのものを示すアルバム表題、その名の下に鳴らしたのはデスメタルからブラックメタルを包括した集大成であり最新型でした。ブルータリティに特化した「Demigod」以降の路線と比べると物理的な攻撃性は劣るかもしれません。しかしそれ以上に作品全体のメリハリを意識した構成で、禍々しい瘴気と猪突猛進極まったプレイが密接に絡み、彼らの世界観を過去最高の深度とキャッチーさで表現しきっています。王者の気品漂う一枚。

BEHEMOTH - Blow Your Trumpets Gabriel - OFFICIAL VIDEO (CENSORED)




69. DEZERT 「最高の食卓」

『最高の食卓』[初回限定盤]

様々なエログロモチーフを交えながらも、彼ら、と言うかヴォーカリスト千秋は決して虚飾の世界ばかりを描きたいわけではなく、あくまでも生きる上での痛みと強さ、内面に沸々と沸き上がるエモーションを吐き出す、という極めて人間的かつ現実的なメッセージを主体としていました。そのナイーブな衝動の発露と、ヴィジュアル系ヘヴィロックとしての充実度が最も上手く噛み合っているのは、現時点ではこの作品だと個人的には思っています。ただ彼らはこれ以降エログロからも脱却し、敢えてV系シーンの外へと目線を向けた楽曲を発表しており、その気骨ある姿勢もやはり若手の中では頭一つ抜けてる。

「君の子宮を触る」MV / DEZERT




68. Crystal CastlesCrystal Castles

Crystal Castles

メンバー間の激しい確執の末にヴォーカル Alice Glass が脱退し、それ以降はどうしても失速してしまった感が否めない。そのくらい彼女というアイコンがこのバンドにとっていかに重要だったかという。チープな中にゴスな耽美意識も表れたインディ・エレクトロニカ、それをアンバランスに汚しまくってハードコアの領域へと力業で押し上げる。そんな彼らの楽曲はある種の悪意を強烈に発しながら、ひどく刹那的で危うい印象もあり、それ故に一瞬の煌めきの美しさが際立っているように感じる。基本的にライブ現場でのブーストを前提としているだけに、どの曲も Alice の雄姿がありありと浮かんで見えます。

Crystal Castles 'BAPTISM' //official video




67. Passion Pit 「Gossamer」

Gossamer

改めて聴くとその「みんなのうた」然とした堂々たる立ち振る舞いに恐れ入ります。アンセム感バリバリな代表曲「Take a Walk」を筆頭に、スタジアム規模の壮大なシンガロングが容易に目に浮かぶ高性能ダンスポップの応酬。EDM ほどシャープなキレがあるわけではない、しかしインディならではと言える良い意味でのいなたさ、人懐っこさが広い受け皿となり、ゴージャスでありながら何処かノスタルジックという複雑な機微を含んだ美しさに仕上げています。刹那の花火のようでいて、ポップ隆盛の現在のシーンを見渡してみると、実はあちこちに深い影響やヒントを与えていたりするのかも。

Passion Pit - Take a Walk (Official Video)




66. Whtie Lung 「Deep Fantasy」

Deep Fantasy

空襲警報からの絨毯爆撃かというヒステリックなギターサウンドと、一貫して性急なスピードで緊迫感を煽るビート。10曲22分という極めてショートカットな構成ですが、そこに詰め込まれた巧みなリフ捌きであったり、また高らかなシャウトでアジテーションを繰り返しながら、実は深遠なポップネスも孕んだヴォーカルを取って見ても、メロディックな旨味が凝縮されていてガッツリ肉厚。いなたく荒々しいハードコアパンクとしての要件を十分に満たしつつ、その野蛮なエナジーがいつしか気高い美しさへと転じて見えてくる。これこそがライオットガールの神髄か。

White Lung - Drown With The Monster (Official Video)




65. TAMTAM 「NEWPOESY」

ニューポエジー

どれだけ手垢のついた音楽ジャンルであろうと、やりようによってはいくらでもコンテンポラリーな新風を吹かせることが出来る。彼女らが根幹に持つレゲエ/ダブにしても既に何十年という歴史があるわけで、そのユルいイメージに反してレゲエという体を成すための条件は意外に強固だったりするはず。そこを彼女らは R&B 由来のふくよかなポップネス、またポストロックやエレクトロニカ由来の深遠な音響性も加えて、何とも独創的、かつ普遍的な魅力を併せ持つ新種のポップスの錬成に成功しました。レゲエ特有のグルーヴとメロディの情感が果てしないスケールにまで広がる様はただただ壮観。

TAMTAM - 星雲ヒッチハイク (Official Video)




64. Jamie xx 「In Colour」

In Colour [12 inch Analog]

The xx のブレインたる彼の、この時点での集大成的な一枚。アップリフティングなダンストラック「Gosh」では慎重でありつつ挑戦的な姿勢を見せ、バンドメイトがヴォーカル参加した「Loud Places」や「Stranger in a Room」などはアルバムに冷たくも艶やかな華を添える。その一方でオプティミスティックな暖かさの「I Know There Gonna Be (Good Times)」も後半に据えられ、それらヴァラエティに富んだ楽曲群がちょうどジャケットの虹色のように大胆かつ自然なグラデーションを成し、ひとつの作品として統合されています。ソロ作品ならではの自由度が活かされた充実作。

Jamie xx - Gosh




63. OMSB 「Think Good」

Think Good

あまりにも重いアルバム。敢えてのぎこちなく不安定なグルーヴが心地良い浮遊感へと転じるトラックメイキング、それを難なく乗りこなす絶妙なフロウのラップスキルといった OMSB の持ち得る個性を存分に発揮しながら、「自分自身と向き合った」という本人の言葉通り、音楽的な技量だけでなく自身がひとりの人間として抱える思想、苦悩、果ては自己矛盾すらもリリックの中に注ぎ込んだ、正しく OMSB の等身大をそのまま投影した作品です。「誰にも合わせるつもりはないが 実は誰にも嫌われたくないんだ」「幸せは歩いてこねえ でも不幸せも歩いてこねえ」生々しくエモーショナルであるが故の美しさ。

OMSB - 黒帯 (Black Belt Remix)




62. Paramore 「After Laughter」

After Laughter

かつての溌剌としたエモ/ポップパンクから80年代風味シンセポップへとシフトチェンジし、いよいよ現代の Blondie と化しつつある彼女ら。ただその転身は決して付け焼き刃ではなく、そもそも Hayley Williams がメロディや言葉をさらに弾力のあるものへと仕立てる優れたポップシンガーであることはとっくに証明済みだし、キャリアを積むにしたがって攻め一辺倒ではなく様々な引き出しが備わってきた彼女らにとって、この変化は至って自然な道程なのだと思います。10年前に現れた鮮烈な煌めきが、また別種のしなやかな色味を帯びて今なお魅了してくれる、その事実にただグッとくる。

Paramore: Hard Times [OFFICIAL VIDEO]




61. Sleep 「The Sciences」

Sciences

生きていると人には色々ある。悔しいこと、悲しいこと、腹立たしいこと、そんな負の感情は知らず知らずのうちにストレスとして積み重なり、いつしか身体を蝕んでしまう。そんなやり切れない生活の中で、Sleep は我々に大切な事を教えてくれます。常に困難に立ち向かう必要などない、たまには現実逃避も良いもんだ、何なら宇宙にまで飛び立つつもりでパーッとやれと。まあ日本で大麻はパーッとやれないので飲酒とかになるんですけど、それでも彼らの鳴らす音はトリップ効果の増強剤として超有効。ちなみにギターの Matt Pike は足の切断が必要なほど糖尿病が進行している。健康には気をつけよう。

Marijuanaut's Theme




60. 水曜日のカンパネラジパング

水曜日のカンパネラ ジパング 「タワレコオンラインのカンパネラ Vol.2 PV収録DVD」&「ステッカー」付き限定版

無駄だらけの作品。ハウス、トラップ、フットワークと以前よりも曲調のバリエーションが増し、そのいずれもがシャープなグルーヴ感と感傷的なポップネスで輝く、そんな秀逸なトラックをこの歌詞に合わせる必要が何処にある?終始ピッチが不安定なコムアイのヴォーカルだって疑問符が浮かぶばかり。しかしこのミスマッチという名の無駄こそが水カンを水カンたらしめている味の決め手であるのも確かだし、そもそも音楽自体が生活においては無駄そのものなわけで、そんな無駄こそが人生を豊かに彩る必須要素なのだというひとつの真理に改めて気付かせてくれる貴重な作品だとも言えます。そうか?

水曜日のカンパネラ『ラー』




59. S.L.A.C.K. 「我時想う愛」

我時想う愛

いつも通りテキトー、などと嘯きながら、実際には彼の頭の中で目指すべき方向性は明確に見えていたのではないかなと思います。アーバンなジャズテイストを主としながら、少しばかり歪な感触を残したビートが絶妙に重なり、夜の甘美な雰囲気を濃密に深めていく。そして肩の力を抜きながらも自身の胸の内をさらさらと紡ぐラップ、緩やかなフロウが一体となることで何とも心地良い浮遊感を産み出す。このクールかつメランコリック、それでいて内側はハートウォームな味の深さ。完成とまで言うと否定されそうですが、彼独自のオリジナリティというものを決定付けた傑作だと思います。

-夕方/夕方の風 Feat.YAHIKO- / S.l.a.c.k.




58. gibkiy gibkiy gibkiy 「In incontinence」

In incontinence

そもそもはヴォーカル kazuma と ギター aie の最小編成によるリズムレス、歌詞レスの実験デュオ highfashionparalyze を前身とし、そこにリズム隊が合流して gibkiy gibkiy gibkiy が結成され、さらにきちんと歌詞がつき始めたのがこの作品という流れ。しかし単純にオルタナティブからトラディショナルへの回帰とはいかず、始動当初の道なき道を行く精神が少しずつ形を変えながら強化されているという感じで、プロパーな歌モノへの意識を見せながらも、奇妙に入り組んだ変拍子や禍々しいギターリフ、kazuma の怨念に満ちた歌唱など、結局異形は何処まで行っても異形だという、その業の深さに慄くばかり。

gibkiy gibkiy gibkiy - 愛という、変態




57. ROTH BART BARON 「HEX」

HEX

そもそも彼らには Bon Iver や Arcade Fire などインディロック/フォーク方面からの影響と、下手すれば CHAGE and ASKA の領域にまで到達する国産歌謡の歌心を、デビュー作の時点から同時に感じていました。この作品では様々な管弦楽器を取り入れた楽団的アンサンブルに加え、エレクトロニクスも消化して音の広がりを一層豊かなものにするとともに、今までよりもヴォーカルが明確に前に出た音像で、歌の持つ世界観、ナイーブな情感がダイレクトに突き刺さってきます。迷いや焦り、悲しみや怒りを内に抱えたまま、とにかく此処ではない何処かへ向かおうとする、痛々しいまでに真摯な歌の数々。

ROTH BART BARON - HEX - (Official Music Video)




56. Ty Segall 「Freedom's Goblin」

FREEDOM'S GOBLIN [CD]

テン年代に入ってから様々な趣向の作品を異様なハイペースで量産し続けた彼にとっての総括となる作品。敬愛する Marc Bolan の恍惚と豪胆さから、パンク、ファンク、ソウル、またB級感溢れる脱力サイケまで、いすれにも等しく愛着を注ぎながら加速度をつけて放出し、その結果ロックンロールとしての至極真っ当なキャッチーさが際立ってる。しかしながら洗練という単語からは程遠いファズギターを先導とするアンサンブル、その音の端々からはネチっこく露悪的な毒気がやたらと匂い立つ。その点においてもこの US ガレージロック番長は、サイケロックというジャンルを完全に体得しているように見えます。

Ty Segall "Fanny Dog" 12/04/17 - CONAN on TBS




55. Aphex Twin 「Syro」

Syro [帯解説・ボーナストラック1曲収録 / 国内盤] (BRC444)

10年以上の沈黙の間に Richard D. James 御大がどのような思いで制作に取り組んでいたかは定かではありませんが、結果として完成した今作は Aphex TwinAphex Twin たらしめる要素のみが、極めて精緻に研ぎ澄まされた音像、かつ彼に出来得る限りの最もポップかつキャッチーな構成、という最新型の洗練を受けたシェイプで堂々と提示されています。IDM 、ドリルンベース、アンビエント、果てはポストクラシカルの要素までと、エレクトロニクスを用いて行われてきた一連の実験が完全に結実した集大成。こんなに取っつきやすいものを御大が出してきたというのが逆に薄気味悪い。

Aphex Twin - minipops 67 [120.2][source field mix]




54. 小袋成彬 「分離派の夏」

分離派の夏

言い逃れ出来ないほどに日本人としての血を濃く感じる。それは J-POP に根差したメロディセンスにしてもそうだし、日本語ならではの固い響きをきっちりと活かし、言葉のひとつひとつを丁寧に聴かせる歌唱スタイルからも。どれだけ海外の潮流を意識してオルタナティブ R&B 要素を取り入れても、その日本人という出自が逆にくっきり浮かび上がってくるのは、果たして意識してかせずになのか、何にせよその歌とトラックのギャップが彼ならではと言えるオリジナリティを産んでいると思います。そして歌詞は壮絶なまでにパーソナル。スムースなようでその実ひどく泥臭い。

小袋成彬 『Selfish』




53. LiSA 「Launcher」

Launcher(初回生産限定盤)(Blu-ray Disc付)

この狭い島国の中でもジャンルの壁というものは無数に存在し、各々のジャンル、各々の現場は各々のマナー/ルールで律され、そのラインをはみ出した時には必ずと言っていいほど軋轢が発生します。そこを LiSA は意識してかせずにか、持ち前の鮮烈なパワフルさ、フットワークの軽さでもってジャンルの壁にひとつ亀裂を入れました。LiSA のライブではピンクのペンライトを振り翳すアニソンファンと、数多くのラバーバンドを誇示する邦ロックファンが同じ目線で彼女のパフォーマンスに呼応しており、その光景は大袈裟に言えばひとつの理想のように見えます。そんな彼女の魅力が最初の完成に達したのが今作。

LiSA 『Rising Hope -MUSIC CLIP short ver.-』




52. amber gris 「pomander」

pomander

いかついメタルコア系か過剰にポップなキラキラ系かで二極化されたテン年代ヴィジュアル系シーンの中で、そのどちらにも属さない方向性を模索し、柔らかく繊細な音作りとコード進行、裏側に闇を潜ませた童話的な世界観を展開していたバンド。今聴くとリズム隊などは特に、粗削りな部分も正直ある。ただ周りの潮流に囚われず、ただ自分達がこれだと思う手法で新たな可能性を見せた、その姿勢は楽曲の煌めき同様にとても輝かしいものでした。そんな彼らの表現に同調するバンドもいくつか現れたものの、最終的には短命に終わってしまった。けれどこの作品に残った思いだけは忘れずにいたいものです。

amber gris - "feel me" [PV]




51. Thom Yorke 「ANIMA」

ANIMA [輸入盤CD] (XL987CD)

「Kid A」辺りからの長年の試行錯誤を経て、エレクトロニクスを扱う上でのトムの嗜好はほとんど固まってきてるように感じます。ビートは鋭く神経質に研ぎ澄まされ、上モノは柔らかな浮遊感を纏いつつ憂鬱なムードを醸し出すという、IDMアンビエントダブステップなどの要素を咀嚼したトラック。それはダンスミュージックの新たな地平を切り拓くというよりも、自らの歌をいかに効果的な形で聴き手に届けるか、あるいは自らの内面に巣食っている闇をいかにディープに表現するか、を念頭に置いたひとつの「手段」。この作品ではその手法が一層の切れ味を持ち、悪い薬のように身体に浸透してくる。

Thom Yorke - Not The News