踊ってばかりの国 「私は月には行かないだろう」
- アーティスト:踊ってばかりの国
- 出版社/メーカー: FIVELATER
- 発売日: 2020/01/22
- メディア: CD
現在のメンバー編成に落ち着いてから数年が経過し、その間に各人の相互理解がより深まったのでしょう、彼らにとっての一番の武器であるサイケサウンドはますます精度を高めています。特徴的な歌声とフォーキーなメロディの暖かみ、それらを包み込むギターのふくよかな厚みと透明感、また時に添えられるジャジーな感触。いずれにも余計な雑味はなく、それぞれが有機的に絡み合うことで発生する濃密かつ清澄なサイケデリアが、歌の持つ世界観を何倍にも膨れ上がらせていく。歌詞の中で下津氏は、自身の目に映る日常的な風景や、胸の内に湧き上がる感情、それらひとつひとつを取り零しなく丁寧に汲み上げようとしています。近しい人に捧ぐ愛情、自由への渇望、動物や自然にまで及ぶ慈しみ、また「バナナフィッシュ」や「Hell hole」では怒りも滲ませる。以前と同様にヒッピー的精神性ゆえの足場の脆弱さは否めませんが、歌と演奏の関係性は一層密接になり、メッセージの説得力も確かなものとなっています。月には行かない、どうせならもっと奥の宇宙を目指す、とはバンマス下津光史のインタビューでの発言ですが、なるほど言い得て妙であるなあと。
Rating: 8.2/10
