上田麗奈 「Empathy」
富山出身の声優シンガーによる初フルレンス。
えらく生々しい、という印象を受けました。彼女のインタビューが興味深い内容で、そもそも彼女は歌うことが苦手どころか嫌いまであるタイプの人間なのだと。しかし本人名義でアルバムを出すに当たって、彼女がかつて演じてきたアニメキャラの中から共感できる部分を掬い、多くの候補曲を聴きながら自分の音楽的嗜好が何処にあるかを探り…と、自らの内面を掘り下げて楽曲に反映させることで、架空のエゴではなく自分の名前で世に歌を出すための動機付けを少しずつ確立してきたようです。それでアルバム表題が「感情移入」というわけですね。実際の内容は、曲調としては渋谷系からの流れを汲むウェルメイドポップ。清冽としたメロディに程良くファンキーな躍動感を添え、音数を抑えた軽やかなアレンジによってヴォーカルの輪郭がナチュラルに際立つ。ただそのヴォーカルというのが、「アイオライト」では未来に対する戸惑いや苛立ち、「いつか、また。」では嗚咽一歩手前のような声で紡ぐ自己嫌悪、「旋律の糸」に至っては聴き手が不安を覚えるほどの閉塞感も見られたり。心のささくれをブライトな音で照らし出す、その切実さに思わずヒヤリとする。
Rating: 7.2/10
