ゲルニカ 「改造への躍動」 「新世紀への運河」 「電離層からの眼差し」


ソロ、ヤプーズときたら次はゲルニカ。そもそも戸川純のミュージシャンとしてのキャリアはゲルニカから始まったわけで、順序がまるでゴチャゴチャですねすんません。活動中に発表した3枚です。



改造への躍動(紙ジャケット仕様)

改造への躍動(紙ジャケット仕様)

82年リリースのデビュー作。


まずですね、音が悪い (苦笑) 。どうやらカセットテープの音源をほとんどそのままアルバムにしたらしく、音がやたらと籠もってる上にストリングスの音はほぼシンセで代用されていて、正直言ってかなりチープ。そのため良くも悪くも当時のアングラな空気がそのままパッケージされてるような、味としか言い様のない世界に。でもインパクトの点は申し分無いです。昭和 (大正?) 歌謡メロディ+クラシカルで予測不能な曲構成というこの上なく個性的な音楽性に加え、太田啓一による工場/産業/開発を単刀直入に描いたシュールな歌詞と、戸川純の多重人格的なヴォーカルが乗っかり、唯一無二の世界を構築しています。比較的ポップな 「カフェ・ド・サヰコ」 「夢の山嶽地帯」 「復興の歌」 、演劇的な要素の一層強い 「潜水艦」 などがありますが、個人的に今作で一番好きなのは哀愁と勇ましさが交じり合う 「曙」 。この時点ではまだ彼らの本領発揮とまではいきませんが、多分80年代日本の一番濃い部分がこのアルバムに抽出されてると思います。色んな意味で。


Rating: 6.4/10



新世紀への運河

新世紀への運河

活動休止→再結成を経て、88年にリリースされた 2nd 。


まず一番の変化は、製作環境が整って打ち込みシンセから生のフルオーケストラサウンドへ移行したこと。ある時は優雅に靡き、ある時は重々しく圧し掛かり、またある時は一気に加速して畳みかけるという、オーケストラならではの迫力ある演奏が楽曲の深みを格段に増してます。前作の方向性はそのままに、周辺の様々な要素を正しくグレードアップさせたといった感じ。あと尺が短いのも特徴ですね。ほとんどが1〜2分台で矢継ぎ早に曲を繰り出す様はある意味グラインドコア的。複雑に入り組んだ変拍子に乗って何故か磁石について歌う 「磁力ビギン」 、オリエンタルな旋律がゆったり棚引く 「水晶宮」 、牧歌的な寂寥がほんのり滲む 「少年の一番の友」 、ビッグバンド風の弾けた曲調が異色な 「輪転機」 、耽美でダークな毒が侵食する 「髑髏の円舞曲」 なんかが特に印象的。でもどの曲も十分すぎるほど濃い。前作で手の届かなかった部分が消化されて、ようやく真骨頂発揮といった所でしょうか。


Rating: 8.2/10



電離層からの眼差し

電離層からの眼差し

89年発表の 3rd にしてラスト作。


ここでもまた変化を見せています。今までは短尺曲を目まぐるしいほどのテンポで畳みかける作風だったのが、今回は1曲ごとのボリュームが増して比較的ハッキリした起承転結がつき、曲によっては単純にポップスとして聴けるほど楽曲としての強度が増してる。そしてヴォーカル。戸川純はあどけない子供声、セクシーなウィスパーヴォイス、豊かで朗々とした歌声、そして鬼気迫る巻き舌オペラ声と、4通りくらいのキャラを多重人格的に使い分けているんですが、今回は1曲につき1キャラに絞っているため楽曲の狙いがより明確になり、全体的にもしっかりメリハリがついてます。やはり変拍子炸裂の 「地球ゴマ」 、噎せ返るほどに妖しくエロティックな 「百華の宴」 、ゲルニカ中最もポップと言える 「ノンシャランに街角で」 、昭和歌謡メロディ全開のカヴァー曲 「或る雨の午后」 、ドイツ語歌詞がドラマチックな重厚さを引き立てる 「戒厳令」 、一転してリリカルな穏やかさに思わず陶然とする 「夢の端々」 「陸標」 と、充実の楽曲群。戸川純のキャリアのみならず、音楽シーン全体を見渡してもこれだけ個性的な作品はそうそうないはず。3人の個性が合致してバンドの魅力が完全開花した、最高傑作だと思います。


Rating: 10.0/10


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