坂本真綾 「Lucy」 「イージーリスニング」 / KANNO YOKO feat. SAKAMOTO MAAYA 「23時の音楽」


昨日に引き続いてマーヤ祭りの2回目です。10代を終え、20代に入ってからの3枚。



Lucy(ルーシー)

Lucy(ルーシー)

2年3ヶ月ぶりとなるオリジナル3作目。


前作 「DIVE」 が曇天の隙間から差し込む鈍い光なら、こちらは雨上がりの空から差す眩しい光。前作での内省的な翳りはほとんど晴れて、実に軽やかで抜け良くソフィスティケイトされた内容になっています。基本的にアコースティック楽器の響きを基調とした風通しの良い仕上がりですが、じゃあ 「グレープフルーツ」 の路線に戻ったのかと言うと、また違う。マーヤ嬢のヴォーカルは一層瑞々しさを増し、より高らかで朗々とした、柔らかな翼を広げるような歌声。なおかつ土台の完成した安定感も感じさせ、作品を重ねるごとにヴォーカリストとしてステップアップしているのが手に取るように分かります。歌詞の目線も数年前より確実に広く高くなり、曲調や音的にもよりオープンに開いた世界観に移行してる。その清々しさ、切なさが最も心地良い形で表れてるのが 「マメシバ」 「ストロボの空」 「紅茶」 「Tシャツ」 辺りですかね。特に 「紅茶」 での繊細に揺れる歌声の美しさ、 「Tシャツ」 の遠く広がる郷愁なんかは彼女にとって新境地じゃないかと。清涼感や透明感といった部分を前面に打ち出し、より等身大に近くなったであろう良質ガールズポップの応酬。みんな大人になっていく。


Rating: 8.4/10



イージーリスニング

イージーリスニング

クリエイター集団 「hog」 プロデュースによる初のミニアルバム。


深い海の底のような神秘的な美しさに彩られた 「inori」 、そこから水面へと顔を出す可愛らしいエレクトロポップ 「blind summer fish」 、レゲエ風味の土臭い哀愁にドラムンベースもミックスした異色曲 「doreddo 39」 、タイトル通り午睡を誘う静けさが広がる 「afternoon repose」 、ムーディな妖しさを纏った R&B ポップ曲 「bitter sweet」 、水面に打つ波紋のようなピアノの澄んだ響きが印象的な 「another grey day in the big blue world」 、そして大空に突き抜けるような昂揚感と力強さが一気に広がる 「birds」 、以上7曲。音的にはエレクトロニカ色が全体的に強くなり、いつもの菅野作品のようなレンジの広さはないですが、逆に言えば統一性があるということでもあり、7曲という控え目なボリュームもあってマーヤ作品の中では最も纏まりの良い内容かと。すっきり聴き通せるという意味では確かにイージーリスニング的だけど、決して雰囲気モノには終わらない、ポップスとしての確かな魅力も宿ってます。 「Lucy」 の清涼感にミステリアスな奥行きもプラスされており、また一歩新しい側面を開拓してますね。


Rating: 8.2/10



23時の音楽/kanno yoko feat.sakamoto maaya

23時の音楽/kanno yoko feat.sakamoto maaya

ドラマ 「真夜中は別の顔」 のために製作されたサウンドトラック集。


全14曲中6曲が坂本真綾ヴォーカル曲となっており、数多い菅野よう子サントラ作品の中でも特にマーヤ嬢の貢献度の高いのが本作。サスペンス系のタイアップに合わせたのか、全体的にジャズ、フォーク、ラウンジポップといった要素が強く、比較的シックで落ち着いた感覚、あるいはクールな緊張感のある雰囲気で揃えられています。静かに燃える暖炉のような暖かみと渋味に満ちたフォークポップ 「Here」 「ダニエル」 などは、流暢な英語詞もあって良い意味で邦楽に聴こえない。しかしその大まかなイメージからどこまで逸脱できるのか、そのギリギリの領域を狙うのが菅野流。教会に響き渡る聖歌のような歌唱/音響処理がひどく清らかな 「Kissing the christmas killer」 、また異国の言語で歌われるミステリアスな室内楽ポップ 「ファド」 といったトラディショナルな異色曲もあり、単なるオサレでは終わらない捻りも多く仕掛けられています。ラウンジ×ドラムンベース調のインスト曲 「Pepper Stretch」 「未完成スペクトル」 にしても、流し聴きを許さない仕掛けをキッチリ施してる辺り、相変わらず隙がないなーと。値段の安さも素敵。


Rating: 7.6/10



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