ゆらゆら帝国 「ゆらゆら帝国のしびれ」 「ゆらゆら帝国のめまい」 「な・ま・し・び・れ・な・ま・め・ま・い」 「Sweet Spot」


昨日に引き続き、ゆら帝祭りの後半です。結果的に最後のオリジナル作となった 「空洞です」 の感想は 【こちら】 、 「REMIX 2005-2008」 の感想は 【こちら】 です。



ゆらゆら帝国のしびれ

ゆらゆら帝国のしびれ

前作から2年ぶり、2作同時リリースされたうちの1枚。


ここで大きな変化を見せています。かつてのガレージロックンロールな要素は鳴りを潜め、極めてストイックに、音の一つ一つが絞り込まれ研ぎ澄まされた鳴り。キーボード、打ち込みビート、女性コーラスといった装飾と本来のバンド演奏、それらが隙間を大きく取った空間の中、テクノ/エレクトロニカ的手法で配置され、従来のロックバンドという枠を大胆に解体したアレンジ。乾いたサウンドに湿り気を帯びた歌声、奥行きのある音処理がひどく無機質な静けさを醸し、その裏側には暗闇の中の幽霊のような無気味さ、緊張感が糸を張る。ここでの 「しびれ」 とはキャッチーな格好良さに対するシビれではなく、まるでトリカブトのように身体を内側から浸食していく毒素の痺れ。 「ハラペコのガキの歌」 「侵入」 で見せる一切の情感を削いだソリッドなサイケ感と言いますか、この空気感はバンドが新たなフェーズに入ったことを強烈にアピールする怪曲ですね。そんな中 「夜行性の生き物3匹」 は阿波踊りビートで身体を突き上げる唯一のアッパー曲。こっちはこっちでさすがの格好良さ。独自のシュールな音世界を突き詰め、ひとつのリミッターを外したような問題作です。


Rating: 8.8/10



ゆらゆら帝国のめまい

ゆらゆら帝国のめまい

上の 「しびれ」 と並び、同時リリースされたうちのもう一枚。


バンドのコアな毒素となる部分は 「しびれ」 の方に任せ、こちらは従来のポップな側面にフォーカスを当てた内容。70〜80年代周辺のフォーク/歌謡曲的とも言えるノスタルジックで牧歌的なメロディを前面に出し、彼らなりのポップスを目指した陽サイドですね。地味と言えば地味なんですが、坂本慎太郎の奇妙なセクシーさを孕んだ歌声は元々この路線にこそハマってると思うし、思うさまポップになっても彼ららしい味は健在です。そして女性ヴォーカル/コーラスが多いのも特徴。 「バンドをやってる友達」 「恋がしたい」 「ボタンが一つ」 では坂本氏ではなくゲストの女性がマイクを取っており、ロックバンドの枠に拘らずメロディを生かすことを重視したアイディアの数々。 「枠に拘らない」 という点では 「しびれ」 とテーマは共通してると言えるかもしれません。 「ドア」 や 「からっぽの町」 、 「冷たいギフト」 の渋い寂寥を経て、ラスト 「星になれた」 はかつてないほどストレートな泣きをスケール大きく滲ませたロッカバラード。これ本当名曲です。総じて 「しびれ」 と綺麗に双璧を成す、彼らの懐の深さを示す内容。どうせ聴くなら2枚1組で。


Rating: 8.6/10



な・ま・し・び・れ・な・ま・め・ま・い

な・ま・し・び・れ・な・ま・め・ま・い

シリーズ完結編、 「しびれ」 「めまい」 の楽曲のみで構成されたライブアルバム。


まず今作が単なるスタジオテイクの再現などでは全くなく、もしそうならライブ盤を出す意味などはありませんよね。オリジナル盤では様々な実験的アプローチが施されていたのに対し、こちらは完全にメンバー3人が鳴らす生音のみの直球勝負。それゆえまるでアレンジが変わってる楽曲も多々あり、 「誰だっけ?」 とか熱量爆発のロックンロールにガラリと変貌していて、むしろこっちが原曲なんじゃないかというくらいハマってる。そして心臓の弱い方は事前にボリュームを絞ることを薦めます。再生して5秒で脳を破壊するような、凄まじい轟音が冒頭から放出されておるのでね。決してクリアではないカセット録音のノイジーな音質によって、現場の生々しい緊張感、バンドの発する凄味が一切損なわれずにパッケージされています。グルーヴィなハードロック状態の 「貫通」 では一瞬何が起こったのか錯乱するような仕掛けもあったり。そしてラスト 「星になれた」 のロマンチシズムはさらに力強さを増してカタルシスに変わる。全編通してそのテンションの高さ、熱気にひたすら圧倒されっぱなしの貴重な記録。スタジオ盤を聴いたなら今作も聴くべき。


Rating: 9.4/10



Sweet Spot

Sweet Spot

ソニーに移籍し、2年3ヶ月ぶりとなる5作目。


「しびれ」 で見せた実験的アプローチがより一層押し進められた、こちらの想像を超えるほどの深さです。ジョリジョリと乾きの増した金属質なギターや、何かが擦れるようなノイズ音など、鳴らされる音は質感もフレーズもこの上なくシュールでソリッド。余計なニュアンスを排除した無機質な音を次々と、無表情で突きつけられるような感覚。隙間の多さが以前とは別のサイケ感を生み出しつつ、抑揚は抑えられて淡々と曲が進行する中、坂本氏の朗々としたヴォーカルが一層存在感を増して浮かび上がるという、完全に独自の音世界を構築しています。 「急所」 「貫通前」 だけは勢いのあるロックンロールナンバーなのですが、それ以前に無気味な雰囲気でこちらの神経を散々麻痺させた後に繰り出されても、急に身体が反応できるはずもなく、この辺のタチの悪さも非常にしたたか。そんで個人的に今作中一番好きなのは 「ソフトに死んでいる」 。怪しく浮遊するギターと、大砲でも撃ってるかのごとく異様に強調された4つ打ちキック。躍動と退廃がダイナミックに混じり合った怪曲です。彼らの体内に潜む深遠な闇を最大限に吐き出し、一層孤高へと向かった問題作。


Rating: 8.0/10



以上で終了。彼らの中で一枚選ぶとなるとなかなか難しいですけど、個人的には 「3×3×3」 か 「空洞です」 になるかなあと。おそらく彼らにとっての転機となったのは 「しびれ」 「めまい」 で、その方向性を突き詰めた果てに辿りついたのが、オリジナリティ溢れるどころではないまるっきり素っ頓狂に変貌した怪作 「空洞です」 なわけですね。俺が最後に彼らを見たのは2008年のフジロックなんですが、その時のライブも本当に夜行性の生き物3匹といったインパクトのある出で立ちで、己の道を突き進んだ故の奇妙な貫禄がひしひしと感じられました。妖怪の造形に格好良さを感じるのに似た感覚 (笑) 。確実にこのバンドにしか出せないオーラというものが備わってた。


正直 「空洞です」 を聴いた段階で、これ以上シュールさを重ねると悪い意味でギャグになってしまうんじゃないかというバランスの危うさも感じ、次にどう手を打つのか先が見えないとも思ったのですね。だから今回の解散は残念ではあるけれど、ある意味納得もできた。ゆらゆら帝国は完全に出来上がってしまった、というのはもう本当に、ジャストな理由であり、美しいピリオドだと思いました。メンバーは今後も個々に活動を続けるということで、そちらの活動に期待ですね。改めて、さようならゆらゆら帝国


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