2013上半期ベストアルバム10選

突然ですがお久しぶりです、本格的に活動再開でございます。これからまたぼちぼちと、出来る限り定期的に更新していきたいと思うので、よろしくお願いします。まずはリハビリがてらに今年の上半期ベスト、感想と点数を添えて。




10. 非常階段 starring 初音ミク初音階段

初音階段

初音階段

ボーカロイド初音ミクとノイズバンド非常階段のコラボレーション作品。


初音ミクの音声の調整を調教と呼ぶのは日本人特有の気持ち悪さがあってあまり好きではありませんが、今作における初音ミクはまさに 「調教」 の名に相応しい扱いだと思います。「やさしいにっぽん人」 「タンゴ」 はどちらも昭和時代の陰鬱としたダークサイドを引き摺る歌モノカヴァー。不気味な静けさを湛えたぎこちない歌声、そこに不意を突いて切り込むハーシュノイズは脳裏にこびり付いた過去のトラウマが甦るかのよう。 「不完全な絵画」 は非常階段のカオティックな演奏をバックに据えたポエトリーリーディング。ジリジリと身体を焦がすようなノイズと、一切の感情なく淡々とした口調で安らかな諦観を語るミク。そしてラスト 「hatsune-kaidan」 は最も本来の非常階段らしい冷徹非常なノイズ。一応ミクも音の中に取り込まれてるようですが、ノイズの業火に焼かれたせいでもはや原形を留めてません。総じて 「非常階段が初音ミクを使うとしたらどんな作品を作るべきか」 というビジョンが非常に明確。音声の無機質さを活かして薄ら寒い空気感を作り上げ、ある種の極限状態を表現する。双方の個性がギチギチと奇怪な音を立てて融合した、すでに今年一番とも言える怪盤です。

Rating: 8.0/10





9. 或る感覚 「カウンター」

カウンター

カウンター

2010年結成の4人組による初フルレンス。


NUMBER GIRL の遺伝子は様々な方面へ枝分かれし、凛として時雨Base Ball BearMASS OF THE FERMENTING DREGS 、そしてこのバンドへ連綿と受け継がれています。厚みよりもジャキジャキの鋭さを特化させることで生み出されるアグレッション。ノスタルジックな哀愁とシリアスな焦燥感が入り混じった日本人的ロックサウンドは、確かにナンバガの影響が色濃く伺えるもの。しかし彼らは憂いのあるメロディを前面に立てることて、荒々しい演奏を軽妙なポップ感で纏め上げており、そのセンスは20歳そこらの若手とは思えないくらいのクオリティを見せています。「鬼」 「ヒーロー」 などで頻発されるディスコビートは最近の若手によくある傾向ですが、カッチリしすぎず刺々しいギターサウンドと共に忙しない躍動感を生み出しています。 「現代のエーデルワイス」 「masa」 といったミドル曲では郷愁に満ちたメロディの良さが一層光る。最近はテクニカルで手先器用なぶん完成され過ぎた故の味気なさが残るバンドが増える中、彼らはやはりテクニカルではありますが、それ以上に純粋なメロディの良さと垢抜けない初期衝動を打ち出す面で頭一つ抜けていると思います。

Rating: 8.1/10





8. These New Puritans 「Field of Reeds」

Field of Reeds

Field of Reeds

イギリス出身の4人組による、3年5ヵ月ぶり3作目。


数年前にサマソニでライブを見たときのおぼろげな記憶を辿れば、 Joy Division 直系のポストパンサウンドを鳴らしていたと思うのですが、今作を聴けばその時に築いた先入観も速やかにリライトされます。アコースティック管弦楽器をメインに取り入れた室内楽的なアレンジは、ポストパンク以前にロックの枠組みすらもすでに解体済み。多彩な音色の華やかさとは裏腹に仄暗い憂鬱な影を落とし、通底する静けさが息の詰まるような緊張感、圧迫感を柔らかな音の裏側に醸し出す。既成のスタイルに囚われず、自由かつストイックな姿勢で彼らが内側に持つゴシック・アートな世界観を表現しており、その音像は微細な神経が行き届いているだけにひどく濃密で敷居の高い内容になっていますが、しかしながら聴き手を惹き付ける強い磁場を確かに放っています。例えば推理小説を読むように楽曲の展開を追い、ひとつひとつの音の交わりをゆっくりと解き明かしていけば、思いがけない色味に鉢合わせる場面もあったり。昨今のゴス・リバイバル勢の中から一足先に別次元へのフィールドへと歩を進めた重厚な一発。

Rating: 8.2/10





7. BOOM BOOM SATELLITES 「EMBRACE」

EMBRACE(初回生産限定盤)(CD+DVD+USB)

EMBRACE(初回生産限定盤)(CD+DVD+USB)

2年8ヶ月ぶりとなる8作目。


前作はそれまでのブンサテの集大成といった印象を受けましたが、今作もその延長線上。身体を突き上げるデジタルビートや空間を埋め尽くす緻密なギターサウンドがあり、扇情的なアグレッションと聴き手を圧倒する重厚さが混在しています。ただ今作ではいつもの緻密さがありつつも幾分かアレンジがシンプルになり、音全体の風通しが良くなって即効性が増しているように思います。特にリズム面において小難しさが抜けたぶん鳴らす音のスケール感が広がり、意識が外に開けたポジティブなムードを感じます。完全にブンサテ流ダンスロックへと変貌した The Beatles 「HELTER SKELTER」 カヴァー、タイトル通り雪景色の優しさや美しさを映し出した 「SNOW」 、 Prodigy ばりのヘヴィビートが波打っては牙を剥く 「DISCONNECTED」 、もはや Sigur Ros の領域へと突っ込んだ聖性溢れるタイトル曲 「EMBRACE」 など10曲。オルタナティブなロック感や高速ビートの力強さは何処を切ってもブンサテ。しかし決してマンネリには陥らず、全体のムードは視線を前に向けた明るさに入れ替えられています。地に足の着いた明るさは、その真摯さゆえに時にはヘヴィにもなるという。

Rating: 8.3/10





6. Primal Scream 「More Light」

More Light: Special Edition

More Light: Special Edition

5年ぶりとなる10作目。


もっと光を!60年代サイケデリアと90年代マッドチェスターが混濁して現代に復活したオープナー、その名も 「2013」 のなんとまあ甘美なことよ。サイケ、エレクトロニカ、ゴスペル、そしてロックンロール。今回はこのうちサイケ要素が特に色濃いですが、もともと彼らが得意としていたこれらの要素が高次元のバランスでブレンドされていて、これぞプライマルと言える自己主張の強い内容になっています。過去の変遷の総決算的な内容とも言えるかと思いますが、決して歩みを止めたノスタルジーではなく、あくまでも現在進行形のスタイルとして提示されているのがグッとくる。他には 「Kill All Hippies」 を彷彿とさせるキナ臭さ満載のファンクチューン 「Culturecide」 、ホーンとコーラスが華々しいガレージエレクトロ 「Invisible City」 、穏やかに熱を帯びながら膨張していく 「Relativity」 、そして 「It's Alight, It's OK」 のポジティブな優しさ。恍惚や陶酔、あるいは荒々しさの中でジッと目を見張る Bobby Gillespie の歌声はひどくセクシーでカリスマチック。 「XTRMNTR」 以来の傑作でしょう。

Rating: 8.4/10





5. DISH 「春と訣別と咲乱」

2007年結成の2人組による初フルレンス。


日本人らしいロックとは?ある人はエレファントカシマシだと答えるだろうし、あるいは BLANKEY JET CITYNUMBER GIRLゆらゆら帝国、その他諸々例を挙げればキリがありませんが、大体において共通しているものは真っ直ぐな武骨さや滲み出る色気、それらが入り混じって光り出す渋味、のようなものでしょう。そしてその味はこのバンドからも発せられています。ジャンル的にはヴィジュアル系に当たるわけですが、ラフにささくれ立ったオルタナティブ (時にシューゲイザーサウンドはこの界隈では珍しいもの。常にシリアスな切迫感とナイーブな翳りを帯びて、喉を擦り切らせて叫ぶその様には元来ロックの持つロマンチシズムが満ちています。メンバー2人という編成やジャケットから受けるイメージを大きく裏切られているのですが、ダークな淫靡さとともに生々しく刹那的に感情を吐き出す、そのリアリティに思わず唸らされました。 ヴォーカルは吉井和哉と高野哲が憑依したところに怨念注入したようなネチっこさで好みを分ける所でしょうが、聴き手にインパクトを与えるという意味では確実にロック的。きっと多くの人に引っ掻き傷を残す内容ではないかなと思います。

Rating: 8.5/10


4. tofubeats 「lost decade」

lost decade

lost decade

神戸出身の DJ /トラックメーカーによる初アルバム。


中学、高校、大学を合わせて10年。おそらく多くの人にとっては人生の中で最も刹那的で、無責任で、切ないほどに輝かしい時期として映るであろうこの10年を、このアルバムは綺麗に切り取っています。ヒップホップに端を発し、昨今のダブステップ/トラップ/ EDM といった流行にも目配せしたフリーキーなトラックは、全体的にライトに洗練された音作りのためしつこさは感じず、ポップで軽快なメロディを無理なく引き立てています。あまりにも甘酸っぱく明快なアイドルポップ 「SO WHAT!?」 に始まり、春の風のような疾走感でラップとビートが吹き抜ける 「Les Aventuriers」 、アーバンで艶やかなメロウさが心地良い 「No.1」 、すでにブギーバックに並ぶ勢いでアンセム化してる 「水星」 、10年が失われても夢の続きを教えてくれる表題曲 「LOST DECADE」 などボートラ含めて18曲。あまりにも鮮やかで、痛快なまでにヒップなトラックの数々はひとつの普遍性も含んでいます。いずれはノスタルジアになってしまうこの瞬間がこれからの生きる糧に繋がるように、過去も現在も未来も美しくなるようにと言葉とメロディとグルーヴを軽やかに繋いだ若者たちだけの暗号。

Rating: 8.6/10





3. 妖精帝國 「PAX VESANIA」

PAX VESANIA

PAX VESANIA

1997年結成の6人組による、2年3ヶ月ぶり9作目。


毎年1枚は必ず、ポップスとしての完膚なきまでの正しさを持って聴き手を圧倒する作品が現れるものですが、今年はこのアルバムがソレ。聴く前は勝手にメタル版 ALI PROJECT みたいなのを想像してたのでヴォーカルの予想以上の Kawaii 度に脱臼しそうになりましたが、2回目聴いたらこの声でなくては彼女らの世界観は成立しないと思うに至りました。鋭く硬質なメタルサウンドとドラマチックな勇壮さを持って広がるメロディの力強さ、そして世界観の奥行きを拡張するシンフォニックで幻想的な装飾。例えば水樹奈々茅原実里あたりに見られたメタルポップ路線をこのバンドはさらに追及し、 Sound Horizon よりもサウンド面の強度に拘ってる感じで、自分にとっては何故今までスルーしてたのか疑問なくらいツボ。特に 「Solitude」 はキレのある疾走感とメロディの高揚感が完璧にマッチした名曲です。ラストの筋肉少女帯 「機械」 カヴァーもクラシカルなアレンジを施して彼女らの音世界に取り込んだ秀逸カヴァー。ゴシックロリータ主義を掲げ扇動者たらんとする、その堂々たる姿勢があまりに目映い力作。

Rating: 8.7/10





2. Daft Punk 「Random Access Memories」

RANDOM ACCESS MEMORIES

RANDOM ACCESS MEMORIES

オリジナルとしては8年ぶりとなる4作目。


ときめきメモリーズ!かつての青春時代に思いを馳せるかのごとくメロウでスウィートなディスコ/ファンクナンバーが勢揃い。しっかりと腰に効く4つ打ちキックは上品な躍動感を生み出し、トレードマークのヴォコーダー声は艶やかさと親しみやすいコミカルさを同時に与え、さらには多彩なゲスト陣が適材適所な具合に配された隙のない仕上がり。鮮烈な印象を受けるオープナー 「Give Life Back to Music」 は大仰な曲名にも頼もしさを感じ、ベースとシンセが凄まじくうねる一大テクノ絵巻 「Giorgio by Moroder」 のスリルに興奮し、新アンセム 「Get Lucky」 の底抜けに甘酸っぱいメロディに撃ち抜かれ、大空に羽ばたくような力強さを見せる 「Contact」 で感極まり…とあまりにも濃密な13曲70分超。00年代には 「Discovery」 でポップスの新時代を煌びやかに彩った彼らが、再び自らの手によって10数年ぶりに最新型へとアップデートする、その手腕はマエストロの呼び名が似合う鮮やかさで、大文字のポップスに相応しいドラマチックな風格すら感じられます。これはもはや名盤というより 「定番」 でしょう。

Rating: 9.1/10





1. あさき 「天庭」

天庭(初回生産限定盤)(DVD付)

天庭(初回生産限定盤)(DVD付)

コナミ音ゲー作家による、7年半ぶり2作目。


15曲70分超、うち10分近い大曲が3つと、もはや前作 「神曲」 がコンパクトに思えるくらいの質量。方向性としては変わらず、超絶技巧によって繰り出されるプログレッシブメタル+純和風のおどろおどろしいダークネスを孕んだ世界観+90年代でインディーズ、下手したら Matina 辺りの領域に突っ込む V-ROCK テイスト。何重にも折り重なる多彩なギターのテクスチャーに、つんのめっては走り出す予測不能なリズム展開。元々ニッチな上に異様な濃さを放っていたものが、長い年月をかけてさらに煮詰められ、他のものとは一切混ざらない確固たる世界観を築き上げています。何重にも仕組まれた罠が聴き手をドロドロした闇の底へと引きずり込み、濃霧を掻い潜るようにしてカタルシスへと登り詰めていく。前よりヴォーカルが幾分か前に出てきたのもあり、ポップとマニアックのバランスがより高いレベルで均衡を保っています。最近の DIR EN GREY と共鳴する部分も多くあるように感じますが、おそらく日本人がプログレメタルを演るとして、最も理想的な形はこの作品じゃないかと。細かな SE や遊び心も含め、彼の内的世界が一切の躊躇いなく吐き出された超大作。

Rating: 9.3/10





次点としてはきのこ帝国 「eurika」 、 the cabs 「再生の風景」 、ねごと 「5」 、 Bring Me the Horizon 「Sempiternal」 、 Shining 「One One One」 など。今年は大漁の予感がしますよ。それでは今年の下半期より、皆様どうぞよろしくお願いします。