Fennesz 「Bécs」

Becs

Becs

ウィーン出身のアーティストによる、5年半ぶり6作目。


空間的なアンビエントアコースティックギターの牧歌的な音色、シューゲイザー的轟音を掛け合わせた音響アートポップ。これがフェネスの表現の大幹ですけども、憂い/哀愁の色がどっぷりと深まった 「Venice」 、辛辣なヘヴィネスすら感じさせていた 「Black Sea」 とシリアスな方向へ舵を取っていた近作から一転し、今回は 「Endless Summer」 の頃の軽さ、鮮やかさが幾分か戻ってきてるように感じました。幾つものレイヤーを重ね合わせて巨大なひとつの波を作り上げていたのが、今回は多彩な音色を散りばめてカラフルに仕上げたり、曲調に幅を持たせたりといった自由さが印象的。今回の一番のハイライトは10分の長尺曲 「Liminality」 でしょうか。緩やかに立ち昇る環境音から全てを飲み込もうとするノイズの渦へと移行、その中へいつになく明確な輪郭を持ったギターフレーズが切り込み、この上なくディープで感傷的なサウンドスケープを作り上げた、まるでフェネスの心血が注ぎ込まれたような大作。そりゃ教授も 「ロマンティックやなあ!」 と舌を巻くわけだ。キャッチーな振れ幅があるぶん彼のカタログの中では比較的取っつきやすい内容かと。

Rating: 7.9/10