2007-2016ベストトラック50選(邦楽編)
皆様あけましておめでとうございます。ついにこのブログがオープンから10周年を迎えました。うわー10年もやってんのかよコレ。あまりの暇人っぷりに自分でもビックリしますよね。途中しばらく休んだ期間はありましたが、なんとかここまで飽きずにやってこれたのも日頃このブログを訪れて下さる皆様のおかげです。この場を借りて深くお礼を申し上げます。
それで10周年らしい企画を何かしらやりたいなと思いまして、この10年の間に触れてきた中から楽曲ベスト記事を作ることにしました。洋邦混ぜると収拾つかなくなったのでふたつに分けます。私の10年を華々しく彩ってくれたエッセンシャルな100曲です。まずは邦楽編50曲をどうぞ。
50. PLASTICZOOMS「UNDER///BLACK」
Sho Arakawa 率いるポジティブパンク集団プラズー。度重なるメンバーチェンジを経ながらも、彼らの核となる部分はこのデビュー時からブレていません。ヴィジュアル面含めた様式への拘りと急進的なアティテュードの二律背反。艶めかしくも野蛮なダンス/パンク、黒一色に塗りたくられたアンダーグラウンドの甘美な世界がここにあります。
49. 女王蜂「デスコ」
彼らを時代の徒花と揶揄する人もいるかもしれません。どっこい彼らは根強く大きな華を咲かせ続けています。ジェンダーの境目を飛び越え、人によってはすっかりグロテスクにも映る手法で美の基準を更新する4人組。彼女らのライブを初めて見た時の新人離れした凄みは今でも忘れられません。関西人ならではの過剰なサービス精神も表れたテン年代の歌謡ロック。
48. fripSide「LEVEL5 -judgelight-」
90年代ユーロビートと現代のアッパー系アニソンを魔合体させる力技でお馴染みのユニット。数多いアニソン作家の中でも彼らの初志貫徹っぷりには本当に感服します。とにかくそのメロディの力強さ、音圧の突き抜け具合は今聴いても殺傷力抜群。聴いていて笑いしか起こらないから本当凄いなって思う。クールジャパンの象徴のひとつ。
47. Versailles「ASCENDEAD MASTER」
薔薇の末裔 KAMIJO と愉快な仲間たち。ヴィジュアル系と HR/HM の親和性の高さは大昔から指摘されていたことですが、耽美路線をひたすら突き詰めた結果メロディックスピードメタルに行き着いた例というのは、モダンヘヴィネス全盛の昨今においては貴重な存在ではないかと。最高水準のテクニックを誇る演奏陣によって KAMIJO の美学が狂い咲いた、彼らの到達点。
46. SIMI LAB「Avengers」
一聴すると割とシンプルなトラックなのに、次第な視界がグラグラ揺れてくるような不安定なグルーヴを生み出す、この不可解な心地良さは何だろう。マシンガンのごとく放たれる攻撃的ラップリレー、その各人いずれもが流暢なフロウでビートを乗りこなす、この MC と DJ のリズム感覚の相乗効果。アンダーグラウンドの中毒性バリバリ。
45. 夢中夢「眼は神 -L'oeil est Dieu-」
声楽/クラシック、ブラックメタル、またポストロック的なアプローチも見せながら己の内にある激情を洗い浚い吐き出し、理想の音楽像を体現した夢中夢。特に纏まりの良いこの曲がリードトラックとして配信され、聴いた時は一発で心臓を鷲掴みにされた気分になったものです。現在はマイペースに新作の制作に取り掛かっているとのことで、気長に待ち続けます。
夢中夢 - 眼は神 / mutyumu - L'œil est Dieu
44. うみのて「WORDS KILL PEOPLE (COTODAMA THE KILLER)」
曲作りの際には聴き手に言葉を刺すことを念頭に置いていたというバンマス笹口騒音。都会の片隅でひたすら繰り返される日常の闇を、叙情/叙景を交えながら鋭いタッチで切り取る彼の作風は強い個性を放っていました。何気ない言葉が見えない力となって人を殺す。牧歌的で開放感のある楽曲に乗せて歌われるその冷たいリアリティ。
うみのて - WORDS KILL PEOPLE (COTODAMA THE KILLER) MV
43. HINTO「シーズナル」
程良い脱力感と小気味良いダンスグルーヴが持ち味の彼らですが、この曲はスロウテンポのメロディが遠くの水平線を見るようにして歌われるセンチメンタルな一曲。もうイントロのギターフレーズからして爽やかに泣きを誘ってくるからずるい。そりゃグッとくるよ。冴えない俺や君のためのひと夏のテーマソング。
42. lynch.「Adore」
LUNA SEA 直系の端正なスピード感とモダンヘヴィネスを組み合わせ、自身のキラーチューン・フォーマットをすっかり確立しているリンチ。メロディアスなサビへと移行するスムーズな流れといい、全く無駄が無くストイックに鍛錬された鉄板の魅力が打ち出されています。歌詞にも彼らのライブに向ける気合い、愛情が表れているようで良いですね。
41. 上坂すみれ「パララックス・ビュー」
サブカルチャーは世代を超えて継承される。アニメ、コミック、ロリータ、ソビエトと様々な方面に対する造詣の深さで声優界の中でも特に異彩を放つすみぺ嬢。この楽曲では大槻ケンヂ× NARASAKI の黄金タッグによりニューウェーブ・ハードコアパンク・アイドルポップスというわけのわからない代物が爆誕しました。才能たちの必然的な交差点。
上坂すみれ「パララックス・ビュー」Music Video - YouTube
40. BUCK-TICK「独壇場Beauty」
ゼロ年代~テン年代の荒波も平然と乗り越えてきた怪物バンドの新型キラーチューンは、光も闇も生も死も飲み込んでますますタフにギラつく B-T 流グラム・ロックンロール。ゼロ年代以降の B-T に顕著なのは、激しく生を、リビドーを礼讃しているということ。ダークサイドに身を寄せてきたからこそのリアリティ溢れる生の欲動がここにあります。
39. 田我流 feat. stillichimiya「やべ~勢いですげー盛り上がる」
まー表題どうりで盛り上がらないわけがないのだ。地元山梨に根を張り、自身の培ってきた経験、人生観に基づいた人間味溢れるラップを身上とする田我流。ここでの地元の友達と微笑ましくわちゃわちゃやってるのも、言ってみれば彼の人生観のひとつなのです。別に地元民に限らずライブに来たやつはだいたい友達。オレらこんな笑えねえ世の中まっぴらなんだよ。
田我流【MV】やべ〜勢いですげー盛り上がる - YouTube
38. school food punishment「pool」
sfp がインディーズ期に残したミニアルバム3作はいずれも傑作なのですが、1枚目のリードトラックの時点で彼女たちはすでに完成されていました。各プレイヤーがプログレッシブな技量の鍔迫り合いを見せつつ、アンビエント/エレクトロニカのニュアンスも強いクールなサウンド。その中で豊かな輝きを見せる内村友美の歌声はある種の希望のようでした。2012年に解散。
37. おとぎ話「SMILE」
初めて聴いた時は彼らのことを鼻で笑っていました。あまりにも無防備で屈託がなく、潔癖すぎてリアリティが感じられないと。あれから長い時間が経ち、改めて聴くと深くグッときている己に気づく。自分が成長したのか退化したのかは分かりませんが、年月を経ることで本当に大切なことが何なのか、僅かながら見えてきたからかもしれません。良い歌だ。
36. 妖精帝國「救世Άργυρóϛ」
上記の fripSide と同様にとにかく圧で押す J-POP ガラパゴス現象の最たる部類であり、バンド編成となってからメタル化著しい彼らの特筆すべきキラーチューン。ベビメタちゃんがウケるなら彼らだってもっとウケたって良さそうなもんだけど、まあ曲の端々から感じられるアニソンの匂いがブレイクスルーを妨げるのでしょう。まったくつまらない世界だ。
[Official Video] Yousei Teikoku - Kyusei Άργυρóϛ - 妖精帝國 - YouTube
35. Lillies and Remains「The Fake」
70~80年代ニューウェーブ原理主義者であり、BOØWY 信者でもある彼らの思想がガッツリ反映された代表曲です。徹底してタイト、ソリッドであり、内なる熱さもひしひしと感じさせるロックンロール。中詰の畳み掛けるように体感速度を増していくアンサンブルなど痺れる他ないですね。インテレクチュアルな国産ロックバンドの良心として信頼できる存在。
Lillies and Remains - The Fake PV - YouTube
34. DEZERT「殺意」
間髪入れずスラッシーに切り込んでくる、単純明快な殺意の嵐。ただヴィジュアル系によくありがちなダーク発狂系かと思ったら、最後のセンテンスで印象は大きく違ってきます。ソングライターの千秋が決して上辺だけの幻想的な猟奇世界を描いているのではない、自らの眼、価値観を通して生まれてくるエモーションの数々、それが狂った味付けで発露されているということ。
【MV】「殺意」 / DEZERT 【MAD FACE公式】 - YouTube
上記の上坂すみれが何色にも染まる透明なパレットだとすれば、悠木碧は自ら進んで何色にも姿を変えるカメレオンのような存在。彼女は歌に関しても非常にシアトリカル、良い意味で演技的な印象を強く受けます。角砂糖てんこ盛りのワンダーランドな世界観、その中で彼女は意気揚々と歌い踊りながら聴き手を先導していく。その軽やかさとしたたかさ。
悠木碧「ビジュメニア」Music Video short ver. - YouTube
32. PSG「寝れない!!!」
思うさまローファイで中毒性の高いビート、このドープさにも拘らず聴き心地はやたらとポップ。そして同じベクトルを向いてるようでちゃっかり三者三様のフロウ。PUNPEE も 5lack も「テキトー」という形容詞がしっくりくる脱力具合だけど、やっぱり別人だから微妙に向きが違うんですね。もちろん各人のソロも素敵。けれどこの不思議なトライアングルにはまた違った魅力がある。
31. XA-VAT「VAT-DANCE」
今のところ単発的に終わってしまっているスーパーグループですが、その刹那的な活動もこの楽曲の煌めきに輪をかけている、というのは考え過ぎか。しかし80年代ダンスポップの最もエッジィな部分を現代的に再構築するセンスは、何度聴いても痛快この上ない。どれだけ80年代リバイバルが続いても、こんな曲は彼らにしか出来ないでしょう。
30. DE DE MOUSE「baby's star jam」
いつ聴いても不思議な音楽だなと思います。初出から10年近くの時間が経過しているにも拘らず、古さを感じない。元々メロディにノスタルジックな印象があったからというのもありますし、様々な年代のエレクトロミュージックを消化した上での明快なアウトプット、そして独自のカットアップの手法、それらが折り重なって時間や国境を感じさせない魅力を放っているからですね。
DE DE MOUSE / baby's star jam (PV) - YouTube
29. LiSA「Rising Hope」
ロックバンド出身である彼女の本領を最も発揮させることができるのはロックバンドの人間。田渕智也の性急なスピード感に満ちた楽曲は、彼女のパワフルで凛としたヴォーカルにピッタリ合致しています。アニソンシーンとロックフェスシーンの交差点を生み出したことは、実際のライブ現場を見てみれば正しくジャンルの垣根を跳び越えた幸福なものであることが分かるはず。
28. 川本真琴 feat. Tiger Fake Fur「アイラブユー」
デビュー以来彼女が作ってきた楽曲、そこで作られていた多感で溌剌とした女性像は、彼女の元来からの気質と人工的なパブリックイメージが半々だったと思うのですが、長い時間を経てその制約からも解放され、自らの内から自然と湧き出るメロディ、言葉を紡いだ名曲。色々あるだろうけどまこっちゃんには幸せになってほしいと密かに願います。
川本真琴 feat. TIGER FAKE FUR/アイラブユー - YouTube
27. KOHH「飛行機」
最初 KOHH のラップを聴いた時は理解に苦しみました。それは彼のラップが自分の固定観念から大きく外れた、本当の意味で規格外のものだったから。ただ理解が出来なくても、その奥底に何か只者ではない凄味が秘められてる、というのは感覚的に察知していたと思います。ありがちな大上段からではない、身を切るようなリアリティと、何処まで本気だか分からないテキトーさ。
KOHH - ”飛行機” Official Video(Dir Havit Art Studio) - YouTube
新旧異なる世代の青春伝道師ふたりがタッグを組み、それはそれはもう怖いものなしの甘酸っぱさ。作編曲は岡村ちゃんだけど、こいちゃんが歌うと自然とベボベらしさが楽曲に滲んでくる不思議。表現する心象風景が共通し、互いに少なからずシンパシーを抱いているからこその、実際の音以上に深い意味合いを持ったみんなのためのラブソング。
岡村靖幸 w 小出祐介「愛はおしゃれじゃない」 - YouTube
25. レミ街「CATCH」
エレクトロニカとフォークを融合させて良質なポップミュージックを精製するインディバンド。実験的要素のすべてが中心のメロディを素直に引き立てる方向に向かっているのが良い。みんなのうたとしても成立する普遍性と細部まで聴き込める奥深さの両立。そのあまりにも綺麗なバランス感覚は何度聴いても惚れ惚れしますね。
レミ街 (Remigai) - "CATCH" Official Music Video (2015) - YouTube
24. Galileo Galilei「青い栞」
彼らは自らのバンドを「おもちゃの車」と例え、昨年にはそこから降りることを決意しました。ただ彼らの選択にケチをつけるわけではないですが、おもちゃの車という枠内だからこそやれることも沢山あったはず。ポップとアートの危なっかしい綱渡りを行くことを決めた彼らの、素朴ながら美しい結晶のような成果のひとつ。彼らの今後に期待しています。
23. world's end girlfriend「Les Enfants du Paradis」
通常のポップソングを制作し、その後にエディットを加えて解体、再構築という捻れた手法で制作された weg 流ポップ。確かにこれまでの weg と比べると圧倒的にキャッチーなのですが、同時にこれまでの中で最も毒々しく、良い意味での悪趣味な部分が表れてる。彼はただ高潔な美しさばかりを求めてるわけではない、だからこそ彼の曲に惹かれるのですね。
world's end girlfriend - Les Enfants du Paradis (MUSIC VIDEO) from"SEVEN IDIOTS" - YouTube
22. チャットモンチー「染まるよ」
聴いていて凄く苦々しい気分になってくる。シンプルかつストレート、だからこその生々しい説得力。ユルめのライトな可愛らしさがある一方で、こういうヘヴィな側面がどうしたって洩れてきてしまう、このリアルな人間臭さがあるからチャットは愛すべき存在なのですよね。2人編成時のアレンジはさらに真に迫る感じがあって、すっかり参ってしまった。
チャットモンチー 『「染まるよ」Music Video』 - YouTube
21. あさき「天庭」
「メイクしてある程度体裁を立てておけば何をやっても大丈夫」ヴィジュアル系はそういう風によく語られていますが、音楽的に「何をやっても大丈夫」というのを本当に実践できている例が果たしてどれだけいるでしょうか。この曲はその稀有な例のひとつ。プログレッシブな技巧が最大限に用いられ、なおかつ一筆書きの力強く流麗な筆致が光る。入魂の一発。
[PV]天庭 - あさき (TENTEI - ASAKI) - YouTube
20. 相対性理論「LOVEずっきゅん」
最初聴いた時はいかにも大学生サークルの延長線上みたいなバンドだなという感じだったのに、いつの間にか相対性理論以前と以後ではシーンの流れの一部が変わっている、そんな気配すら感じるほどの存在感。何がどう化けるかわかったもんじゃない。我々はやくしまるえつこ様の歌声に対して正座し、雑念を取り払い、部屋の明かりを消して、できればお香など焚いて、真っ白な心で臨むべきなのです。
19. シェリル・ノーム starring May'n「射手座☆午後九時Don't be late」
菅野よう子先生のアルターエゴ Gabriela Robin が台頭した、テンプルへの強烈な一発。やたらゴージャスでパワフル、プログレッシブでいてハレンチ!菅野先生と言えば坂本真綾での仕事が馴染み深かっただけに、この曲を筆頭とするマクロス関連においてのブッ飛び具合には、初聴きの時点で頭がグラグラ揺れるような感覚に陥ったのをよく覚えています。May'n 部長の抜けの良いヴォーカルを活かし切った正義の J-POP 。
18. Creepy Nuts(R-指定 & DJ松永)「みんなちがって、みんないい。」
この楽曲であったり、フリースタイルバトルの審査員として事細かな解説をする R-指定を見ていると、彼こそがヒップホップシーンに対する並々ならぬ知識と愛情を抱え、疑問符や問題意識を誤魔化すことなく批判する申し子なのだと信じて疑いません。そうじゃなきゃこんな有効な全方位的ディスは書けない。すでに一流のスキルを身につけながら、あくまでも熱血の前のめり姿勢を崩さない男の中の男。
Creepy Nuts(R-指定&DJ松永) / みんなちがって、みんないい。【MV】 - YouTube
17. Seiho「I Feel Rave」
最高のポップス。もちろんダブステップやトラップといった当時の流行を的確に掴んだダンスビートも秀逸なのですが、何より曲がスタートした瞬間から飛び込んでくる、目が眩むほどの晴れやかさ、琴線へといたずらに触れてくる甘酸っぱさは何なのだ。卒業式や結婚式といった公的なロケーションにもバッチリ対応できる(実際使ってる人多いらしい)、この受け皿の大きさこそがポップスのポップスたる条件。
Seiho - I Feel Rave (Official Video) - YouTube
16. Spangle call Lilli line「dreamer」
耳を澄ますとポストロックを通過しての音響的アプローチが確かに背後にあり、その上で洗練されたメロディが涼やかな風のようにさらりと吹き抜ける。彼らにしては分かりやすい歌詞にも暖かみが感じられてなお良い。数多い SCLL の秀曲の中でも特にさりげなく、特に奥深い。今改めて聴くと後進の様々なバンドに少なからず影響を及ぼしているのが透けて見える。彼らはそんな事はこれっぽっちも気負いしていないでしょうが。
Spangle call Lilli line「dreamer」 (Official Music Video) - YouTube
15. ペトロールズ「雨」
まるで映画のワンシーンのような、聴いているだけでその歌詞の情景、温度や匂い、空気感までもが伝わってくるような、何とも雄弁な代表曲。ヴォーカルに限らずギター、ベース、ドラムのそれぞれに豊かな呼吸、色気があり、情感豊かな歌心を強く感じさせるのですよね。しとしと降る雨が様々なものを美しく彩ってくれるということに改めて気付かせてくれる。まあ外出する時は嫌いなんですけどね雨。
14. piana「In Silence」
思えば world's end girlfriend への客演時からそれこそ今に至るまで、彼女の歌声にはずっと魅了され続けていました。所謂ウィスパーヴォイスの中でも特に俗世の穢れを感じさせない清らかさ、そこにこの楽曲では初めてと言ってもいいくらいの人間味ある情感が込められてる。この曲を含むアルバムで彼女は「ポップスを目指した」と語っていたように記憶しています。ポップスとはきっと創るその人を映す鏡。
piana - In Silence (MUSIC VIDEO) from Muse - YouTube
13. 銀杏BOYZ「光」
銀杏BOYZは常に規格外であろうとするバンドです。それが計算なのか天然なのか、まあどちらもあるでしょうけど、安定やコンスタントといった言葉からは程遠い活動ペースで、致死量以上の激情を盛り込んだ楽曲を作り続けてきました。突き進みすぎてこの頃の4人の銀杏はすでに崩壊してしまった。けれど峯田和伸は今でもこの曲を歌っています。自分にはそれしか出来ない、その強迫観念にも似た思いが音の激しさを何倍にも膨らませた、とてもひどい歌です。
12. マキシマム ザ ホルモン「maximum the hormone」
これまでの数々の悪行によりマキシマムザ亮君が心底めんどくさい人間であることはもはや周知の事実と化していますが、そのめんどくささの集積をこの一曲にありったけ詰め込んだセルフタイトル決定打。過去の総括と変わらないアティテュードの提示。亮君に言わせれば過剰こそがロックであり無駄こそがロックであるということだと思うのだけど、それを本人に告げるとクソみたいな滑舌で細かい説教食らいそうなのでやっぱり近寄りたくない。
マキシマム ザ ホルモン 『小さな君の手』~『maximum the hormone 』 Music Video (再UP) - YouTube
彼女が言うところの「人間活動」中にポツリと発表された楽曲。思えば楽曲によって軽妙だったりヘヴィだったりの差はあれど、彼女は常に「人間」にフォーカスを当てていたと思います。ヒトの感情がこんな風に深く美しく表現できるという、当たり前かもしれないことを立ち昇る歌声、サウンドの波が改めて教えてくれる。まるでひとつの波が過ぎ去っていくように、聴き終えた後には頭の中が真っ白になってしまう。
宇多田ヒカル - 桜流し(Short Ver.) - YouTube
10. DIR EN GREY「輪郭」
モダンヘヴィネスからプログレッシブ・デスメタルへ、さらに楽曲の密度を高めて孤高の領域へと向かう彼ら。位置付けとしては「DUM SPIRO SPERO」と「ARCHE」の橋渡しとなるこの楽曲は、彼らの持つ激しさと憂い、痛みとドラマチシズムが上限値を更新されて混ざり合い、美しくもグロテスクな彼ら独自の魅力を最も明快に表しています。情感迸る歌の拭い切れない湿り気には、彼らのルーツのひとつにやはり歌謡曲があるということを実感する。おそらく日本でしか生まれ得ないオルタナティブ・メタル。
9. 水曜日のカンパネラ「桃太郎」
アンチを生みがちなのは理解できます。自分も最初はサブカル界隈からまた奇を衒ったしょうもないのが出てきたなと思ってました。しかし何ということでしょう、昨今のベースミュージックの潮流に対応したトラックの作り込みによってフィジカルからグッと惹き込まれ、そこからコムアイの特異なキャラクターへと興味が向かい、今や過去の MV を片っ端から漁っていくほど夢中になっているではありませんか、という劇的ビフォーアフター。何だって楽しんだもの勝ち。
8. きのこ帝国「クロノスタシス」
過去のイメージに囚われることなく、作品毎に鮮やかな脱皮を続けているきのこ帝国。2nd アルバムがリリースされた当時は彼女らからこんな楽曲が生まれるとは思ってもいなかった。シリアスな自己探求の重圧から脱け出し、R&B ポップ要素を加味した軽やかさがふわりと薫る。夜更けの街頭に照らされる幸福な瞬間を切り取った、なんてセンチメンタルで愛おしい歌。まるで雪のように柔らかく、しかし内側は暖かい佐藤千亜妃の表現力に完全降伏した瞬間でもありました。
7. andymori「CITY LIGHTS」
自分が andymori のライブを唯一見たのは解散発表後の最後の年でした。その時には「自分に出来るのはこれ以外にない」とばかりに多くの曲を矢継ぎ早に披露していましたが、この曲は最後まで聴けずじまいでした。その心残りのせいで andymori は今でも自分の中で切り離すことの出来ないバンドと化しています。極めて戦略的な優等生の多い最近のロックシーンの中で、今時珍しいくらい行き当たりばったりのドラマを体現していた彼らは、きっとロックバンドの理想だったに違いありません。
andymori "CITY LIGHTS" - YouTube
6. OGRE YOU ASSHOLE「フラッグ」
聴けば聴くほど味が出てきて、未だに味わい深いって何気に凄いことだと思いますね。一聴した時は地味に感じるけど、各パートのフレーズが有機的に混ざり合い、粘っこいグルーヴの呼吸が合わさってジワリジワリと熱が膨れ上がっていく、あの感覚は一旦掴めればずっと病み付きになる。後のリアレンジ版も素晴らしいし、最近のライブでやってる新旧ミックスヴァージョンは初めてライブで体感した時は本当に興奮させられました。単にヒネてるだけでは生まれ得ない、不思議なオリジナリティだ。
OGRE YOU ASSHOLE - フラッグ - YouTube
5. 堀江由衣「The♡World's♡End」
自身のアルバム「MUSIC」を機に、音楽性をまるっきり明後日の方向へと変化させた清竜人。以前の提供曲「インモラリスト」でもその奇才っぷりの片鱗は感じられましたが、この楽曲ではそれが完全開花。豪華絢爛なオーケストラサウンドに乗せて歌われる二人だけの愛の世界、それがファンタジックな煌めきとは裏腹に、どうしようもなく偏執的、破滅的で不穏な感覚を裏側に感じるのは自分だけでしょうか。光がある場所には常に闇があり、行き過ぎた愛情は別物に形を変える。なんとも強烈なインパクトでした。
4. cali≠gari「-踏-」
以前のカリガリは石井秀仁と桜井青という2人のコンポーザーがいかに互いの個性を擦り合わせ、バンドとしてのバランスを保つかを試行錯誤していく、その道半ばで潰えてしまったという印象がありました。それから各々の活動を経て再開したカリガリは、異能ニューウェーブ・ポップ集団として見違えるほどの纏まりを見せ、新しいスタイルを力強く提示してくれたことに痛く感動したものです。ブームに乗って再結成を果たしたバンドは数多くあれど、過去の楽曲に囚われることなく、きっちりと進化を見せているのは彼らぐらいなのでは。
3. ZAZEN BOYS「Asobi」
聴くたびにまるで井戸の暗い底を覗き見るような、大阪で言うなら夏の夕暮れに飛田本通商店街を一人とぼとぼと歩くような、なんとも遣る瀬無く物悲しい気持ちにさせられます。エレクトロファンクへの傾倒がいよいよ本格化し、バンドサウンドの緊張感からファットで心地良いグルーヴによるチルアウトへと移り変わり、向井秀徳言うところの冷凍都市が今までとはまた違った情緒を見せる。「自分は強くなれると信じている」という歌詞の一節、その響きのあまりの空疎さにはもう唸るしかなかった。現代を生きる人間たちのバラード。
2. 神聖かまってちゃん「ロックンロールは鳴り止まないっ」
彼らのデビューから月日が経って、インターネットを含めたメディア戦略を緻密に練り上げてくるバンドは数多く現れていますが、彼らの通った道に続くバンドは未だ出てきていません。の子は戦略という名の下に衝動、場合によっては狂気を行き当たりばったりで曝け出し、その計算と本能の際どすぎるバランス感覚で引く人を大いに引かせ、逆にアンテナに引っかかった人を強く惹き付けてきました。彼の人間性がエモーショナルな説得力を持ったメロディに更なるカルマを付与し、エキセントリックな装飾によって楽曲は逆説的に生々しさを増しています。このバンドのドラマは最後まで見届けたい。
1. Kalafina「oblivious」
素直に申し上げますと、この曲を初めて聴いた時には脳天に雷が落ちるような衝撃を受けたし、改めて聴いても一切の非が見当たらない完璧なポップソングだと信じて疑いません。幻想的なコーラスワークを活かし切った、梶浦由紀の数ある仕事の中でも会心の一発。振り返ると以前の自分はアニソンと言えば菅野よう子先生のみを特別視していた節があり、見識の狭い自分を一歩外に踏み出させてくれたのがこの曲だったかもしれません。アニメの世界観を引き立たせているのはもちろん、アニメ本編の予備知識一切なしの人間をも強く惹きつけるというのは、それが純粋にポップスとして「本物」たる所以ではないかと。これがクールジャパンとして海外でも売り出されている現状を見るに、現実にも夢が在り得るのだなあという感慨すら生まれます。