2017年間ベストトラック20選
今年も一年間お疲れ様でした。恒例企画でございます。
20. ねごと 「DANCER IN THE HANABIRA」
中野雅之 (BOOM BOOM SATELLITES) をプロデューサーに迎えてエレクトロ要素をさらに増大させ、昨今のポップ隆盛の潮流に対応すると同時に、元々ダンスロック志向だった「ループ」や「メルシールー」などの正統進化系とも言える秀逸なポップナンバー。なのですけど、どうも過小評価されているような気がしてならないのは何故だろう?特に初期のファンから。
ねごと - DANCER IN THE HANABIRA [Official Music Video] - YouTube
19. 喜多村英梨 「Revolution 【re:i】」
今年一番笑った曲。HAKUEI (PENICILLIN) とタッグを組んでこちらの期待以上を行くゴス・シンフォニック・メタルポップを叩き込んでくれました。イントロのツーバス疾走で一斉に横ヘドバンするバンギャが容易に夢想できるし、サビの「Trust 【re;i】!!」コールで全力で飛び跳ねるオタクの姿も透けて見える。キタエリ完全復活を知らしめるに相応しい一発でしょう。
喜多村英梨「Revolution【re:i】」MUSIC VIDEO FullVer. - YouTube
18. Paramore 「Hard Times」
元々溌剌としたポップネスを売りにしていた彼女らが、パンクロックを飛び越えてより広大な地平を目指すのは必然的なことだったのでしょう。タフなバンドサウンドを保ちつつもシンセサウンドを大々的に取り入れてダンスポップへと向かい、曲の終盤では Daft Punk 風のディスコ感まで。現在の彼女らの姿に Blondie を重ねる人はおそらく多いはず。
Paramore: Hard Times [OFFICIAL VIDEO] - YouTube
17. Tempalay 「新世代」
最近の70~80年代シティポップ・リバイバル感を匂わせる国内インディバンドの中で、自分が一番買ってるのが彼ら。そこはかとなく漂うドリーミーなサイケ感に柔らかなメロディ、しかし歌詞では完全に人を食ったような、良い意味で若手らしいふてぶてしさが表れていて、他のバンドとはまた違った捻くれ方が面白い。MV の Vaporwave 感もミソ。
Tempalay「新世代」(Official Music Video) - YouTube
16. skillkills 「The Shape of Dope to Come feat. 向井秀徳, K-BOMB」
この曲も笑わざるを得ないって感じでしたね。skillkills 本隊の歪につんのめった人力ブレイクビーツだけでも十分濃密なのに、そこにオリジナリティの塊のような K-BOMB の重量級ラップ、そして向井秀徳のサックス(屁)が交差する。異形の存在ばかりが三位一体となって放つその破壊力たるや。あまりにもオルタナティブ。
skillkills /The Shape of Dope to Come feat.向井秀徳、K-BOMB - YouTube
15. Syd 「Body」
アーバンに洗練された楽曲ばかりが並んだアルバムの中でも、一際スウィートな輝きを放っていたのがこのセカンドシングル曲。静けさを湛えつつもひどく情熱的であり、刹那的であり、セクシーな中に少しばかり退廃的な印象も受ける。一夜の夢のような情景を、彼女のヴォーカルは実に丁寧に、複雑な機微を含んで表現しています。
14. tofubeats 「SHOPPINGMOLE」
河合佑亮のエモーションがコップから溢れ出てしまったような曲。地方都市のショッピングモールは何かが有るようで何も無い。それに似た音楽シーンの状況を踏まえつつ「最近好きなアルバムあるかい?」とリスナーに問う彼の心の内は、人によっては挑戦的に見えるだろうし、自戒を込めた内省的なものにも思える。自分的には後者の色合いが強い気がします。
tofubeats - SHOPPINGMALL - YouTube
13. The Horrors 「Something to Remember Me By」
ノイズやインダストリアルと向き合って新たな魅力を構築した新作「V」の中で、このクローザーは少しばかり異色な曲調ですが、その美しさにはすっかりやられてしまいました。ドリームポップ的な柔らかく浮遊感のあるシンセサウンド、その中に浮かび上がる Faris の歌声は物憂げな雰囲気で、別離の悲しみをサラサラと軽やかに描く、その情景の何とも鮮やかなこと。
The Horrors - Something To Remember Me By (Official Video) - YouTube
12. ENDON 「YOUR GHOST IS DEAD」
ほとんど不定形のノイズセッションからデス/ブラックメタルの体裁を取り、より肉体的なキャッチーさを得た新譜の中でも、その方向性の転換が如実に表れたリードトラック。暴虐極まるのだけど何処か理知的、かつナイーブな側面も垣間見えるという、ノイズテクスチャーならではのディープな音像。正しく必殺のキラーチューンです。
ENDON "YOUR GHOST IS DEAD" (OFFICIAL VIDEO) - YouTube
11. Björk 「Blissing Me」
美しいハープの音色に導かれながら、新たなるパートナーとの出逢いを心から喜び、聴き手を柔らかなヴェールで包み込むように優しく歌い上げるエレクトロ・バラード。曲の中では「MP3 を送信し合い、曲の中で恋に落ちた」とも綴られており、現代的でありつつ極めて私的な内容なのかと思いますが、歌詞は私的であればあるほど聴き手に響くものだったりしますよね。
10. syrup16g 「赤いカラス」
犬が吠える時代のレパートリーであり「生還」ライブでも披露されていた、五十嵐隆が抱える多くの未発表曲の中でも特に人気の高かった楽曲。完全に五十嵐節。それ以上でもそれ以下でもない。ただその中で特別に眩い光を放って見える、素朴で切ない歌モノロック。正直出だしのギターの時点でもうこらあかんわ、あんたらの優勝やわという感じ。Radiohead に「Lift」があったように、シロップにはこの曲があった。
9. Kendrick Lamar 「HUMBLE.」
この曲で遂にシングルチャートでも全米1位を獲得し、完全に天下を獲ったゲームの覇者といった感じのケンドリック。「To Pimp a Butterfly」のジャズ路線から舵を取り直してのダークなエレクトロトラック、その緊張感あるムードに乗せて「謙虚にしとけよ」と繰り返し、MV では最後の晩餐の中心に居座って自らを神に見立てている。その余裕綽々っぷりといったら思わず笑いが零れてしまうほど。これこそが風格。
Kendrick Lamar - HUMBLE. - YouTube
8. Base Ball Bear 「すべては君のせいで」
昨年にはギタリスト湯浅将平の脱退という事件があり、結束の固いバンドだと思っていただけに衝撃も強いものでしたが、逆に彼らの中で何処か吹っ切れるような気持ちがあったのかもしれません。歯切れの良いギターカッティングなどファンキーなシティポップ要素を含みつつ、ベボベの王道とも言える思春期ラプストーリーの詞世界。サビのハーモニーの一気に視界が開けるような鮮烈さといい、またひとつ鉄板のキラーチューンが生まれました。
Base Ball Bear - すべては君のせいで - YouTube
7. The xx 「On Hold」
すでに想いの薄れてしまった心と、その周囲を巡る衛星のように離れられずにいる心。すれ違いから終わってしまった関係の侘しさを、この曲は何とも見事に表現しています。Hall & Oates のサンプリングは哀愁を引き立てるように絶妙に活かされており、ノスタルジックでありながら清々しい雰囲気すらある。主に内省的でディープな陰影を纏っていた彼らにとって、この曲が新たな側面とも言えるでしょう。
The xx - On Hold (Official Video) - YouTube
6. Arca 「Desafio」
広大なネットに有志というのはやはりいるもので、スペイン語で書かれたこの曲の歌詞の英訳文を見つけたのですが、やはりここで描かれているのは畏怖を覚えるほどに情熱的な愛情の希求でした。彼が強烈にフェティッシュな衣装を身に纏い、ライブで脱肛の映像を大々的に見せつけてくるのは、体の内部まで余すことなく愛してほしいという果てしない欲望の表れなのかもしれません。ただの嫌がらせかもしれませんが。
5. Lorde 「Green Light」
今年のフジロック出演時、この曲が最後に披露された時はグリーンステージ全体が一気に沸点を迎えていたのをよく覚えています。まるでゴスペルのような力強い歌声がハウストラックの流麗なグルーヴに乗り、刹那的な情熱、怒り、そして過去に囚われず前へ進みたいという衝動が混然となってこの曲の中に収められています。車の屋根に乗って気持ちを抑えられず発散させるように歌う Lorde は、その名の通りなんて神々しい。
4. KICK THE CAN CREW 「千%」
完全に凱歌。自分は当時の KICK THE CAN CREW をテレビで流れるヒット曲程度しか知らなかったのですが、それでもこの楽曲に込められた意志というものはひしひしと伝わってきます。過去曲のリリックからの引用をあちこちに混ぜながら、10年以上のソロキャリアですっかり成熟したスキルによる軽やかなマイクリレー。その様は正しく王者の帰還といった感じで、グッとこずにはいられない。あまりにも劇的な復活。
KICK THE CAN CREW「千%」MUSIC VIDEO - YouTube
3. ZORN 「かんおけ」
実体験をリアルに綴るラッパーは数多く存在しますが、ZORN ほどに説得力を持ってリアルを表現に昇華しているラッパーはどれくらいいるでしょうか。半径数メートル内の日常をテーマとする ZORN にとっても「死」にはもちろん直面する。近しい人が老いて病に罹り、死するまでの情景を巧みなライミングで綴り、そこにくっきりと生を浮かび上がらせ、自らの思想を強く刻み付けています。ほぼ全編がパンチラインと言っても良いリリックの中、ラストの一節には特に感嘆の声を上げてしまいました。
【Official Music Video】ZORN / かんおけ [Pro. by O.N.O(THA BLUE HERB)] ℗2017 昭和レコード - YouTube
2. St. Vincent 「New York」
ストリングスや多重コーラスが厳かに、かつ繊細に愛情を伝えるバロックポップ・バラード。躁的でアクの強い楽曲が多く並んでいたアルバムの中では、そのストレートな叙情が一際浮かび上がって見えます。自分はニューヨークには行ったことはありませんが、きっとスタイリッシュに洗練された佇まいとは裏腹に、人々の様々な思惑が混沌と渦巻く街なのだと思います。喧騒に満ちた生活の中で彼女は大切な友人や David Bowie 、 Prince などの「Hero」と出逢い、そして別れた。僅か3分足らずの尺の中に彼女の極めてパーソナルなエモーションが詰め込まれた名曲です。
St. Vincent - New York (Official Video) - YouTube
1. Cornelius 「あなたがいるなら」
近年の攻殻機動隊の仕事で坂本慎太郎とタッグを組み、歌モノの新たなスタイルを確立しつつあったコーネリアスが、ついにオリジナル作でもその手法を発揮した新たな代表曲。シンセ、ギター、ベース、ビートがそれぞれ異なる位相で重ねられ、打ち寄せては返す波のように静かに広がっていく。こちらもまたストレートな叙情性が際立った楽曲ですが、これだけ甘い歌詞なのにベタベタにならずクールな感触を維持できているというのは、おそらく坂本氏との分業制だからこそ生まれ得たものなのかなと。「Point」や「Sensuous」で見せていた音の質感・配列に対するストイックなまでの拘りを踏まえつつ、また大きな一歩を踏み出すことに見事成功しています。少し悔しいけれど、もう感服するしかないという感じでした。