2018年間ベストアルバム20選
いつものやつ2つ目や。これで今年は堪忍して。
20. Screaming Females 「All at Once」
パンク、ハードロック、ブルース、グランジあたりの境目をグルグルと行き来しながら、持ち得る引き出しを最大限に開陳した集大成的傑作。何より中心人物 Marissa Paternoster の不敵なミッドロウヴォイス、そして豪胆なギターヒロインっぷりを存分に見せつけるプレイの巧みさ、それら彼女の強烈な個性がさらに豊かな表現力を伴って引き出されており、痛快なことこの上ない。
Screaming Females - Glass House (Official Video) - YouTube
19. Klan Aileen 「Milk」
彼らの音をザックリ表すならポストパンクということになるかと思います。今の時代においてポストパンクという表現形態がどれだけ有効なのかは分かりませんが、おそらく彼らは時代どうこうと言うよりも、自らのルーツと向き合いながらオリジナリティというものに誠実に拘った結果、このような音になったということでしょう。殺気と妖気が充満した劇物作。
Klan Aileen - "流氷 / Ryuhyou" (Official Music Video) - YouTube
18. Deafheaven 「Ordinary Corrupt Human Love」
ヘヴィメタル、それもブラックメタルとなれば守るべき様式が他のジャンルよりも強固に存在しそうなものですが、彼らはその様式に敬意を払いつつ、自らの世界観を追求するためにその枠組みを大胆に解体しています。元来の激しさを包み込むようにしてポストロック、ポストハードコア、そしてエモ由来の美しさが広がる、あまりにも美麗なサウンドスケープ。
Deafheaven - "Honeycomb" - YouTube
17. Jorja Smith 「Lost & Found」
今年のサマソニでも新人とは思えない風格をすでに発揮していた彼女。何の衒いもなく「歌姫」という単語がピッタリ似合う、ただただ純粋に高品質な歌のオンパレード。絶妙に90年代トリップホップ感のある前半~中盤の味わい深さもさることながら、終盤のアコースティックパートで見せる感傷の切実さ、これはちょっと尋常ではない。
Jorja Smith - Blue Lights (Official Video) - YouTube
16. People In The Box 「Kodomo Rengou」
飄々とした素振りをしていながら、おそらく今回のリストの中で最もキテレツな作品。テクスチャーひとつひとつの歪な質感、またそれらを重ねた時に生まれる奇妙な磁場、その中毒性は本当に噛めば噛むほど味が出るという感じで、もうもはやどの場所にも属さない、すっかり孤高の境地に達しています。ガラパゴス化を目指すならこれくらいやらないと、という挑戦状のような。
People In The Box「かみさま」Music Video - YouTube
15. AL 「NOW PLAYING」
andymori はその音楽性や小山田壮平のキャラクターのせいか、音楽に尾びれ背びれのようなドラマがいつの間にか纏わりつくようになっていた気がします。ここにはそのようなドラマはありません。ただ歌いたいメロディ、鳴らしたいフレーズばかりがある、ただそれだけ。その「ただそれだけ」があまりにも眩い煌めきを放っている、これこそが余計な付加価値以上のドラマなのでは。
14. 中村佳穂 「AINOU」
地盤に R&B やヒップホップを感じるという意味では最近の時流に寄り添ってるとも言えますが、時流に寄り添っていながらここまで自由な発想が出来るのかと、曲が切り替わるたびしきりに驚かされる。ルールを破るためにはルールを知らなければならない、アカデミックな知識や技量の蓄えが豊富だからこそ成せる業なのだと思います。何とも刺激的な感性。
Kaho Nakamura SING US - Wasureppoi Tenshi / Sono Inochi [live ver] - YouTube
13. Car Seat Headrest 「Twin Fantasy」
そもそもは2011年に bandcamp 上で発表していたアルバムを丸ごとリテイクしていたものということで、7年も前の自分を思い返す時に苦々しい気持ちで一杯になる人は多いでしょう。このアルバムにはその苦々しさがこれでもかというほどに詰め込まれた、まるで胸の内のコップから溢れ出てしまった水のような作品。だからところどころで整理がついてない。
Car Seat Headrest - "Beach Life-In-Death" (Official Audio) - YouTube
12. 宇多田ヒカル 「初恋」
彼女はインタビューの中で「歌詞の内容が実体験と関係あるかどうかを訊くなんてナンセンス」という旨を語っていました。ただ作家の内面と楽曲を結び付けてしまいがちな自分にしてみたら、ここに収められた曲が実体験から生まれ出る感情と何の関係もないとしたら逆に恐ろしいと言うか、それはそれで彼女の女優としての表現力に脱帽するしかない。
宇多田ヒカル 『あなた』(Short Version) - YouTube
11. Kamasi Washington 「Heaven and Earth」
正直なところ、あまりにも質量が多いためなかなか通して聴き返すことができなかったという実情があります。ただ唯一無二の世界であることだけは間違いない。冒頭「Fists of Fury」のカヴァーが最も象徴的ですが、この世ならざる幻想的な美しさを描くばかりではなく、非情な現実を生き抜くためのパワー、ある種ポリティカルなメッセージも表れた、重厚極まりないコンセプト作。
Kamasi Washington - Street Fighter Mas - YouTube
10. Sleep 「The Sciences」
最初聴いた時は笑いしか生まれなかった。もちろん Sleep というバンドが何物であるかは理解してはいましたが、それにしても2018年の現代においても、彼らの鳴らす音が取り扱い注意の劇物として今なお有効であるということに、ベテランの凄味というものを感じずにはいられません。世界規模で大麻が合法化へと向かっている昨今、時代が Sleep に追い風を吹かせていると言っても過言ではないでしょう。多分。
ここまで生命力に満ち溢れた作品にはそうそうお目にかかれることはない。演歌あるいは浪曲へと接近したメロディやギターリフ、変拍子を多く含んだリズムパターンに至るまで、まるで身体の鼓動にピッタリと寄り添い、血肉を少しずつ解放へと導いてくれるような、ともかく何ともスピリチュアルな慈愛と躍動感に満ちた、大仰なアルバムタイトルに恥じない渾身の一発。聴くだけでご利益いただけそう。
国府達矢 "薔薇" (Official Music Video) - YouTube
8. LEO今井 「VLP」
どうやら彼の音楽的ルーツは HR/HM 、しかもグランジからデスメタルまで幅広い守備範囲だったらしく、それならもっと早く言ってよ~という感じ。確かにそうじゃないとこの音は出ないですよね。ただ土臭いヘヴィネスが基盤にありながら、そこからヒップホップや R&B などを通過したが故のブラッシュアップも施され、結果なんともユニークな、言葉本来の意味でのミクスチャーと化した痛快作です。
LEO IMAI – Bite (Studio Live Version) - YouTube
7. Ty Segall 「Freedom's Goblin」
今年は課外活動まで含めると5作のアルバムを上梓という、精力的にも程がある活動ペースだったガレージロック番長。その中で一番メインの、記念すべきソロ10作目となった今作は正しく勝利の音という感じ。最大限にアンプリファイアされたディストーションがあり、熱狂の渦に拍車をかけるアンサンブルの阿吽の呼吸があり、牧歌的な叙情性があり、ローファイならではのねちっこいエグ味もバッチリ。幕の内か松花堂かという様相。
6. Low 「Double Negative」
元より殺伐、荒涼としたインディロックが持ち味の彼らですが、ここまで徹底して辛辣な作品は無かったかもしれません。冒頭「Quorum」の息が詰まるほどの緊迫感に満ちたノイズから、「Rome (Always in the Dark)」での地獄の窯が開いたような破裂、そして「Disarray」の美しいハーモニーに乗せられた警告。元のアンサンブルの面影が無くなる程のエレクトロニクスによる破壊/再構築を経て、収録曲全てが組曲のようにひとつの線で結ばれた、その美しさよ。
Low - Quorum [OFFICIAL VIDEO] - YouTube
5. Behemoth 「I Loved You at Your Darkest」
暴虐極まるブルータルデスメタルから、前作「The Satanist」においてはシアトリカルな要素の強いブラックメタルへの回帰、そして今作ではその路線を推し進め、荘厳なダークネスと鉄壁の攻撃性、さらにキャッチーな窓口の広さまで兼ね備えた、バンドにとっての新たな代表作となったと思います。結成から四半世紀を超えてなお自らの音楽性を豊かに拡張させ、なおかつ悪魔崇拝の怨念を膨らませられるというのが圧巻と言う他ない。
Behemoth - Bartzabel (Official Video) - YouTube
今年遂に50歳を迎えた清春が今後演るべき音楽は何か、これまでの様にロックスターとして振る舞うのが本当に正しいのか、その自問自答の果てにアコースティックサウンドの新境地を開拓した今作が完成し、サッズは活動を停止しました。まだ彼は前へ進むことを決めた。彼にとって大きなターニングポイントとなった2018年、自分が彼の音楽を聴きだしてから約20年、その歌声が放つ妖艶なオーラに再度深く魅了させられたことを、ひどく嬉しく思います。
清春「夜、カルメンの詩集」 MUSIC VIDEO - YouTube
3. ROTH BART BARON 「HEX」
魂を彫刻刀か何かで削り取っている時のような音がする。インディフォークの暖かく牧歌的な演奏、その内側には牧歌的などという形容を遥かに超えた、生への欲動がマグマのごとく激しく噴き出し、張り裂けてしまう一歩手前のところで踏み止まっている感じ。切実な歌の力というものはこれまでの作品からもひしひしと感じられましたが、それがより直接的にエモーショナルな表現を伴い、一層明け透けに、ともすればメロドラマチックとも言えるほどの感情の昂ぶりを曝け出した内容で、ある種の覚悟を強く感じました。
ROTH BART BARON - JUMP - [ Official Audio ] - YouTube
2. 小袋成彬 「分離派の夏」
彼は自分のためにこのデビューアルバムを作ったと語っていました。これまでの彼の人生の中で最も印象的な、未だ自分の中で十分に消化できていない出来事を、歌としてアウトプットすることでようやく整理がつけられる。それはおそらく我々にとっての日記のようなもので、何となくその感覚は分かる気がします。徹底して自己の内面を掘り返し、あくまでも丁寧かつ上品なタッチで描いた楽曲群は、極めてパーソナルな内容だからこそ、他者の心の隙間にも忍び込む鋭さがあるのかなと思います。独自のポリシーや価値観などを含め、彼の音楽、彼という存在は今年の間ずっと不思議な存在感を発していました。
小袋成彬 「Lonely One feat. 宇多田ヒカル」スタジオリハーサル映像 - YouTube
1. Mitski 「Be the Cowboy」
内に抱えたままではいられないエモーションをいかにして発散するか。上に挙げてきた数々の作品においても、音楽性はまちまちながら激しさを増した感情の発露という点では共通する部分が多くあります。ただこの作品のように、内なる激しさをそのままとしながら、様々な意匠を凝らしてミュージカルのような華やかさを纏い、エンターテインメントとして昇華して見せた作品は他には無かった。オルタナティブロックからバロックポップ、フォーク/カントリーにピアノバラードと、様々な要素が詰め込まれた豊かなアレンジ、しかしながら1曲中の展開は極力最小限に留められ、無駄が削がれた結果各曲のアルバム内での役割、個性が粒立つという構成の妙にも唸らされる。すでに様々な批評メディアからの絶賛を受けていますが、そりゃここまでの飛躍を見せつけられれば頷くしかない、という感じで文句なしの内容でした。
Mitski - Geyser (Official Video) - YouTube
以上が今年のベスト記事となります。総じてみると今年はロックが熱い年でしたね。お付き合い頂きありがとうございました。