外 3周年記念公演 Moe and ghosts × 空間現代 @ 京都外

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ライブ告知が本番のわずか2週間前、しかも Twitter だけでひっそりと。せっかくのアニバーサリーなんだからもうちょっと大きく出ません?危うく見逃すところだったわ。




空間現代が自ら運営するライブハウス「外」の3周年を記念する特別イベントということで、2016年にリリースされた Moe and ghosts とのコラボレーションアルバム「RAP PHENOMENON」の再演2デイズ。自分は2日目の方だけ参加しました。Moe and ghosts にとってはライブを行うこと自体が実に3年ぶり。しかも萌の MC によると Moe and ghosts 側は1週間前まで何の段取りも決まってなかったらしいです。しかしながらこの2日目、前日の一本を踏まえているとしても、それだけのブランクと急ピッチで何でここまで仕上げられるのか、という点も含めて驚愕だらけの内容なのでした。


最初の30分はユージーン・カイムによる DJ タイム。 MPC 2台使いによるアブストラクト・ヒップホップでウォームアップを促しつつ、ジャズやら異国の民謡やら混じりのフリーキーなエディットで不可思議な世界観を演出し、密やかな実験室のようなハコが徐々に奇妙な色に染まっていくのを実感する。そして萌の入場。正直どんな人か全く情報が無かったもので、てっきり相対性理論みたくコンセプチュアルな流れをきっちり構築しての進行になるのかと思ってたけど、全く違いましたね。真っ当な形でフロントを務めるその堂々たる立ち振る舞いに驚かされました。腰よりも下まで伸びた長い髪を優雅に揺らし、全身を使って緩急自在な独特のラップを展開する、そのテンションの高さは個人的にこれまで彼女らから受けていたクールで飄々とした印象と真逆に位置するもので、その意外さもあって即座に彼女の挙動に魅了されてしまった。


2人で軽く慣らした後、空間現代の3人が登場していよいよ本編開始。彼らの演奏は実際に体感すると、その鋭さが数割増しの凄まじい強度で迫ってくる。そもそも空間現代というバンドのコンセプトが、コラージュやループ、あるいはターンテーブルのスクラッチのようなある種の汚し、そういったエレクトロニクスの手法を全て人力で再現することによって新たな表現を試みる、というもの。それ故にミニマルな反復や変拍子が盛り沢山のプログレッシブな方向性になってくるわけですが、その演奏といったら一体どのようにして呼吸を合わせているのか常人には理解し難いレベルのきめ細やかさ。音源ではさすがに編集ではないか?と思っていた箇所もガッツリ生演奏しており、その1ミリの狂いも見せない整合性にはもう笑うしかなかった。


そして彼らもまたテンションの高さが異様。音源の単なる再現に留まらず、スリーピースのトライアングルの中でひたすら黙々と、リズムの正確さをまるで崩さないまま、しかし確実に内なる熱を昂らせて、音から発せられる気迫がどんどん強くなっていく。その音の中を悠々と泳いでいくようにして萌がラップを合わせ、熱量はさらに倍増。曲が進むにつれて、果たしてこの音楽は新種のハードコアと言うべきか、それともヒップホップかポストロックか…いやそんなジャンル云々以前に、実は究極にプリミティブと化したダンスミュージックではないかという思いが浮かんでくるほど、フィジカルへの即効性が半端ではなかった。全方位から身体に突き刺さってくるこの演奏の快楽こそ彼らの本質のひとつであり、それが露わになった今回の公演で「RAP PHENOMENON」はようやく完成に至ったのでは…という感慨すらも湧いてきました。これだけの事が出来るのに何で滅多にライブやらないのか不思議でしょうがない。


セットリストはあまりにも記憶があやふやなので書けません…申し訳ない。とりあえず「RAP PHENOMENON」の共作曲全てと、今年映画に提供していた新曲「GO AHEAD, MAKE MY DAY」も演ってたか。そんな1時間ほどのコラボライブは大成功で終了。最後には萌から空間現代への感謝とリスペクトを込めたメッセージ、そして空間現代から観客への振る舞い酒も出て和やかに終幕したのでした。普段の匿名的なイメージがまるで嘘のように、彼らの信念や人間味もひしひしと感じられた、とても貴重なひと時でした。