BES「THE KISS OF LIFE」

The Kiss Of Life

The Kiss Of Life

東京出身のラッパーによる、約1年ぶり3作目。


前作「UNTITLED」をリリースする頃、彼の居場所は塀の向こう側。ちょうど逮捕直前のアンダーグラウンドなキナ臭さ、ドラッグに手足を奪われた人間の緊張感と空虚さが入り混じった、実にダークな仕上がりとなっていました。それに対して今作は表題に「起死回生」と銘打ち、すなわち保釈後のリスタート、もがきながらも未来を勝ち取ろうとするポジティブさを打ち出した内容になっています。まあでも実際、彼がドラッグからきちんと足を洗えているかは分かりません。相変わらずドラッグネタの歌詞もちらほらあるし、中盤では前作に通じるダーティな空気感も表れる。それでもオープナー「I Wanna Shining」を筆頭に、彼の目線の変化はそこかしこから感じ取れます。独特の後ろノリなラップスタイルは変わっていませんが、内に内に籠っていくのではなく、クズな自分を認めながら泥塗れでも前へと進む、そのどっしりした力強さが鮮烈。また「Ruff & Tough」での土臭いレゲエ、「できればEscape To Paradise」の上モノの軽やかさなど、曲調に幅が出てきたあたりは現在の彼に余裕が生まれてきてることを示してる。これもまたストリートラッパーの因果か。

Rating: 7.7/10



BES from Swanky Swipe / Check Me Out Yo!! Listen!! feat.仙人掌,SHAKU

DOOM「illegal soul」

illegal soul (イリーガル・ソウル)

illegal soul (イリーガル・ソウル)

藤田タカシを中心とする3人組の、92年発表のフルレンス5作目。


そもそも DOOM は基盤をスラッシュメタルに置きながらプログレやゴシック/ニューウェーブの要素も貪欲に取り込み、ごってり濃厚なヘヴィネスを体現しているバンドでしたが、これの前作に当たる「HUMAN NOISE」ではさらに、当時隆盛を見せていたインダストリアル、またフリージャズへのアプローチまでも試み、その世界観の深みはすでに極致を見せていました。今作ではそこから一気にプログレへの回帰が進み、予測のつかない変速/変拍子がこれでもかとばかりに盛り込まれ、彼らのテクニックの高さを存分に堪能できる仕上がりとなっています。もちろんメタル由来の攻撃性も保たれてはいますが、ますます不定形でアヴァンギャルドとなった曲構成の中で、最も印象的なのは縦横無尽に這い回るベースの妖しさ。ねっとりと鼓膜に纏わりつき、聴き手を翻弄するような技巧的ベースプレイがアンサンブル全体の核になっているように感じます。「水葬」や「Those Who Race Toward Death」で見られるインド音楽風の呪術的な装飾も重要なポイント。活動停止前のラスト作なだけに、この作品が現在の DOOM と最もダイレクトに直結しているのかなと。

Rating: 8.7/10