フィッシュマンズ 「Night Cruising 2018」

Night Cruising 2018

Night Cruising 2018

茂木欣一選曲によるリマスタリング編集盤。


ちょうど今作にも収録されている「MAGIC LOVE」の PV がテレビで流れているのを小学生の頃に見た記憶はうっすらとありますが、きちんと物心ついてから自分がフィッシュマンズを聴こうと思ったのはバンドが活動を停止してからずっと後のことでした。それもあって彼らに対しては90年代的だというようなノスタルジーの類を一切感じることがなく、今回のアルバムで過去の楽曲を改めて聴いてみても、やはりその非現実的な音が持つ心地良さや深みは非常に先鋭的なものとして響いてきます。今回の目玉は盟友エンジニア zAk による「ナイトクルージング」リミックス。音の隙間を強調してさらに実験的な構成となり、酩酊よりもむしろ覚醒を促すようなスリリングなムードすら感じる。それは「I DUB FISH」や「WALKING IN THE RHYTHM (prototype mix) 」にも共通する、後期の彼らが持つ魅力の一側面にフォーカスした仕上がりと言えるかと思います。このダブ/レゲエを通り越した苛烈な実験精神は D.A.N.cero のような急進的な若手バンドと根っこの部分で繋がっているというのも強烈に実感するし、未だにコンテンポラリーで在り続けている異形の音の再確認。

Rating: 8.0/10

chelmico 「POWER」

POWER

POWER

2014年結成の女性デュオによる、約2年ぶり2作目。


フィメールラッパーと一口に言っても当然のように様々なスタイルがあるものでして、例えば MARIA やちゃんみなのように女豹のごとくゴリゴリの女性性を打ち出した攻撃系だったり、逆に DAOKO のようにサブカルチャーあるいはメインストリームの J-POP との親和性を見せる文化系だったり、各々が各々の主義思想を持った上でヒップホップに臨んでいることかと思います。そこでこのチェルミコ。正直最初はまた新手のアイドルユニットか…くらいに思っていたのですが、実際に楽曲を聴いて即座に考えを正した次第です。確かなスキルに裏打ちされたクールさがありつつ、ヒップホップ原体験が RIP SLYME とのことでユーモラスなポップさも顕著。冒頭「Player」なんかはモロな感じだし、他にも肩の力を抜いて朗々と歌う「OK, Cheers!」や「Highlights」など、良い意味でライトな耳馴染みの良い楽曲が印象的。その一方でフロアを瞬間的にバウンスさせる様子が目に浮かぶ「Get It」や、いかにも夏にピッタリな心地良いチルアウト感の「サマータイム」など、ヒップホップの流儀に沿いつつそこだけに留まらない自由奔放な発想が随所に。これもまた一種のガールズパワーか。

Rating: 7.1/10



chelmico「Highlight」