NORIKIYO 「馬鹿と鋏と」

馬鹿と鋏と

馬鹿と鋏と

相模原出身のラッパーによる、約1年半ぶり8作目。


アルバムタイトルからはやや攻撃的な印象を受けたのですが、それをスッパリ裏切るかのような表題曲「馬鹿と鋏と」のジャズトラック。方向性としては最近の時流に則したトラップから音圧強めのブレイクビーツ、中には憂いたっぷりの R&B ポップ「花火」、軽やかなレゲトン調の「Last Dance」といった楽曲など多岐に渡っており、また歌詞の方も自己を奮い立たせるものから周囲に向けた辛辣なメッセージ、彼の内面にあるブルーな感情をリリカルに綴ったものなど、NORIKIYO という多面的なパーソナリティを改めてひとつひとつ丁寧に提示したような内容。ただそれらはどんなビートであろうと確実に自分のものとして昇華した NORIKIYO の巧みなラップスキル、そして柔らかく陰りを帯びたムードが全体に通底しているのもあり、多様な枝葉の中心に一本の確かな幹を貫いています。特にトラップ曲ではフロウまで海外勢と同じものに引っ張られてしまいそうなところを、スパスパ押韻を決めながらきっちり NORIKIYO の味を打ち出している、その技量の高さに唸らされる。安定の器用な手つき、そして泥臭い人間味も感じられる流石の一枚。

Rating: 8.0/10



【MV】NORIKIYO/ 墓石屋の倅 (Son of a tombstone store) feat. DJ SOMA

DIR EN GREY 「The Insulated World」

The Insulated World(通常盤)

The Insulated World(通常盤)

3年9ヶ月ぶりとなる10作目。


ここに来てまた贅肉を削いだと言うか、ストレートに回帰したような印象を受けます。「UROBOROS」以降の彼らは特に、激しい曲でもメロディアスな曲でも複雑に入り組んだ曲構成を特徴としており、そのプログレッシブ指向は今作でも変わってはいません。しかしややこしい言い方ですが、奇妙に捻れながらも全体を見れば一本の真っ直ぐな線を成している縄のように、いずれの楽曲も第一には極めて直接的、明快なインパクトを持って迫ってきます。それに呼応してか歌詞の面においても、「価値が欲しい 生きる価値が欲しい」「誰が正しいとかどうでもいい」など、京の信念思想を反映した言葉がより一層飾り気のない形で、真っ向から聴き手へとブチ撒けられている。これら痛みや怒りの表現を見ていると、京というアイデンティティは昔から変わらないどころか、むしろ頑なに変えようともせず、負の感情と向き合う姿勢を今なお強固なものにしているように見えます。攻撃性に特化した序盤の勢いから「Ranunculus」の壮大な憂いまで、ヘヴィネスを保ちながらしなやかな色味のグラデーションを見せる13曲。結成20周年を経ても、彼らは良い意味で落ち着かない。

Rating: 8.1/10



DIR EN GREY - 「Ranunculus」(Promotion Edit Ver.) (CLIP)