UNDERGROUND SEARCHLIE 「スケキヨ」「アオヌマシズマ」

スケキヨ

スケキヨ

大槻ケンヂによるソロユニットの、1998年4月発表のデビュー作再発盤。


筋肉少女帯と特撮の狭間あたりに活動していたこのユニット、本人曰く「売れないものを作る」のがコンセプトとのこと。よって名は体を表すと言わんばかりのアンダーグラウンドを邁進しており、収録された6曲はどれもこれも凄まじい濃さです。ホッピー神山のフリーキー極まりないエレクトロニクス捌きに加え、KIRIHITO 、人間椅子面影ラッキーホールあぶらだこといったクセの塊みたいなバンドばかりが楽曲提供し、そこから結果的にオーケンのある種のアイドル的な魅力が浮かび上がってくるという仕組み。しかしながらそれら個性豊かな作家陣をさらに凌駕する勢いなのが、唯一の自作曲である「Guru」。これまでに手を変え品を変えで様々な世界観や人間模様を描いてきたオーケンにとって、表現とは、伝えるとはどういうことか。その究極的な結論を身体の奥底から絞り出した、あまりにも壮絶な情景とエモーションの爆発。過去にもこうした演説調の語り曲というのはありましたが、これほど直接的に痛切なものは無かった。後にソロ名義や筋少本隊でもセルフカヴァーされており、それだけ彼の根幹を成し、ひとつの極致を見せた名曲だということです。

Rating: 8.2/10


アオヌマシズマ

アオヌマシズマ

1998年5月発表の2作目。


アルバム1枚分のボリュームを何故ミニアルバム2枚に分割したか。オーケンは契約消化のためだと白状していましたが(笑)、結果的に前編と後編で微妙にカラーが分けられた感もあって、構成としては納得できなくもない。「スケキヨ」がアングラなりのキャッチーさ、言ってみればポップな感触も内包していたのに比べ、こちらは本当にアングラまっしぐらの実験的な内容で、ひどく混沌とした印象が残ります。その一番の要因は恐らく、オーケンの演説芸が炸裂していたのが「スケキヨ」内ではドラマチックな美しさの「Guru」だったのに対し、今作ではその枠がアーティストとしての苦悩やジレンマを皮肉たっぷりに垂れ流した「埼玉ゴズニーランド」、そして強烈な批判とも果てしない懺悔とも取れる「UNDERGROUND SEARCHLIE」といった、毒気全開のアヴァンギャルド曲に移行しているからだと思います。この頃のオーケンはセールスが落ち込み気味で、その状況から来るフラストレーションのガス抜き的な意味合いでこれらの楽曲を作ったのだと。ここまで棘のある作風は彼の全キャリアを通じてもトップ級で、やはり創作意欲を産むのは反骨精神ということか。

Rating: 7.9/10

大槻ケンヂ 「ONLY YOU」「I STAND HERE FOR YOU」「わたくしだから」

ONLY YOU+2

ONLY YOU+2

筋肉少女帯/特撮のヴォーカリストによる、1995年2月発表の初ソロ作再発盤。


ブックレットにはこのアルバムを作るに至った経緯が詳細に書いてあるのですが、要するに色々あって自律神経失調症に罹ってしまったオーケンが、制約を受けることなく好きな曲だけを歌うことで自己セラピーを行う、というのが今作の狙い。なので内容は全曲カヴァー、それも多感な時期の彼がどっぷり身を浸けた80年代日本のアングラ界隈がメインになっているわけです。基本的には原曲に忠実、かつ熟達したプレイヤー達により綺麗に清書されたテイクで、エグみこそ薄れたものの楽曲本来の魅力をよりスムーズに伝えるという意味では効果的。特に表題曲「オンリー・ユー」や「タンゴ」なんかはその恩恵を最も良い形で受けているように思います。ただその中で強烈に異彩を放っているのが、COALTAR OF THE DEEPERS 全面参加によりシューゲイズ・ハードコアの切れ味が冴え渡った「未青年」、そして人間椅子の手にかかり Melvins みたいなスラッジメタルと化した「メシ喰うな!」。あくまでも自分自身のための作品とのことですが、ここから過去の名盤への足掛かりにも成り得る、という意味ではファンにとっても大きな意義のある作品かと。

Rating: 7.5/10


I STAND HERE FOR YOU+3

I STAND HERE FOR YOU+3

1995年6月発表のソロ2作目再発盤。


前作からわずか4ヶ月、もちろん自律神経失調症は治療真っ最中。そこでいよいよオリジナル曲に着手したオーケンは、やはり自身が快方に向かうために前向きな歌詞を書こうと試みるわけですが、様々な精神療法にのめり込み過ぎたせいかオーケンの持つ宗教的/哲学的な死生観が全編に表れ、彼のキャリアの中でも1、2を争うほど危うい印象の残る作品になってしまっています。その最たる象徴が輪廻転生をテーマとした「モンブランケーキ」。切なくドラマチックな曲調の中にブラックホールのごとく吸引力を持つ闇が潜んでいるようで、ある種の恐怖感を強く覚える。今作のメッセージは詰まる所、誰もが決してひとりぼっちではない、辛い時にはただ傍に寄り添ってあげよう、という至って素朴で暖かなものではあるのですが、4編に分かれた「青春の蹉跌のテーマ」での朗読なんかも、当時いかにオーケンが参っていたかが痛々しいほどに伝わってきて、こちらも思わず胸が詰まる心地に。アーティストは精神的に落ちている時の方が一際魅力を輝かせる、という不謹慎な説はあまり支持したくはありませんが、それもうっかり信じそうになるほど奇妙な力の宿った作品です。

Rating: 7.8/10


わたくしだから+2

わたくしだから+2

1996年8月発表のソロ3作目再発盤。


この頃になると自律神経失調症も多少は落ち着いてきたのか自己セラピー的な側面は見られなくなり、純粋にソロワークとして自身がやりたいことを模索するようになってきました。これまでバラエティに富みまくっていた曲調の幅をグッと引き締め、一貫してブルース/フォークロック路線に統一。そこに多少はハードロックの感触も入り混じってはいるものの、本隊の筋肉少女帯みたくカッチリとメタルに向かうことはせず、それよりもさらにレトロスペクティブ志向の、良い意味でいなたく泥臭い演奏がメイン。その舵の切り方からは基本的に余計なことをせず、何よりも歌を一番に聴かせるという意識が見て取れます。「生きてあげようかな」はシンセなどの装飾が取れてオーソドックスなアレンジと化していたり、唯一のオリジナル曲「天使」は豊かな広がりを見せるサイケフォーク的な曲調の中に、ほんわか暖かなストーリーを描いた秀曲。ここでの経験が後のアンプラグドや大槻ケンヂミステリ文庫にまで繋がっている気がするし、一見地味なようでいて意外に重要な立ち位置にある作品なのかもしれません。

Rating: 7.1/10