ROTH BART BARON 「けものたちの名前」

けものたちの名前

けものたちの名前

東京出身の2人組による、1年ぶり4作目。


前作「HEX」では何かに急き立てられているかのように外の世界へ駆け出そうとしていたのが、今作では対照的に自らの内面を省み、深く深く掘り下げているように見えます。オープナー「けもののなまえ」の歌詞にある「毛皮を脱ぎ捨てても 僕らはまだけもののまま」の一節。ここでの「けもの」とは胸の奥底に潜んでいる本当の自分、あるいはもっと大きな意味で、ヒトという動物が元来持ち併せている本能を差しているのだと思います。どれだけ進化してきたように見えても「けもの」の部分、本質は結局変わっていない。その本質の野蛮さや純粋さと社会的な理性との折り合いをつけながら、この世界、他者とどのように向き合うべきかについて、直向きに思索を続ける最中に生まれ落ちてきたのが、今作で綴られている言葉なのかなと。その言葉の中には「自分の子供が育てられないなら/他人の子供を育ててみてはいかが?」と自由な生き方への模索があり、「僕らの愛したヒーローたちは突然どこかへ姿を消した/僕らの順番がやってきた」と新しい時代を担う決意表明もある。比較的シンプルなインディフォークへ回帰し、言葉の存在感がより際立った10曲。

Rating: 8.1/10



ROTH BART BARON - けもののなまえ - (Official Music Video)

長谷川白紙 「エアにに」

エアにに

エアにに

現役音大生のシンガーソングライターによる初フルレンス。


Aphex TwinSquarepusher 直系のドリルンベース、DÉ DÉ MOUSE に通じる遊び心満載のブレイクコア、そして昨今のジューク/フットワーク。ここ20年ほどの様々な実験的エレクトロミュージックを一通り通過した上で、ひとつの強い確信を持ってこのスリリングなビートを構築してるのだと思います。それと同時にスウィング感たっぷりの流れるような技巧派ピアノプレイ、洒脱なメロディセンスといったジャズの素養も遺憾なく発揮し、さらには特徴的な丸みを帯びたヴォーカルを前に立てることで新種のポップスとして成立させてみせる、すでに熟達した離れ業が全編において炸裂しています。最初にジャズソングとしての明確な狙いがあり、その狙った世界観を最もキャッチーに仕立てるための加速装置がエレクトロ要素、という構図。なのでサウンドデザインの手付きはひどく奔放だけれど、全ての音に確かな意味や役割があり、過剰にならない冷静なバランス感覚も保たれてる。リード曲「あなただけ」を筆頭とする前半部の怒涛の勢いはもちろん、「悪魔」や「いつくしい日々」で見せるたおやかで幽玄なムードも非常に刺激的。20年代の波がもう来とるな。

Rating: 8.3/10



長谷川白紙 - あなただけ (Official Music Video)