Vegyn 「Only Diamonds Cut Diamonds」

Only Diamonds Cut Diamonds [Explicit]

Only Diamonds Cut Diamonds [Explicit]

ロンドンを拠点とするプロデューサーのデビュー作。


Frank Ocean が2016年に発表した「Blonde」「Endless」への参加で名を上げているところの彼。正直自分はその「Blonde」に関しては何回聴いてもその魅力を掬い取れずにいるのですが、そこでの作風を想像して今作を聴くと結構裏切られる感があります。アンビエント的な心地良い浮遊感という側面は共通しつつ、それ以上に自由奔放なビートの構成、柔らかくファニーな印象すらあるシンセ類の音作り、そして時にはロマンチックな優美さも見せるメロディセンスなども加わって、意外なほど取っつきやすい。聴いていてすぐに思いつくのは Aphex TwinAutechre といった90年代 IDM 勢。「Debold」なんかはかなりモロにその辺からの影響を感じるし、他の曲でもトラップを下敷きとして現代的なフォルムを持ちながら、シュールかつ冷徹なムードや挑戦的なファンクネスなど IDM と直結する要素も多く見られ、知性とユーモアで脳ミソをあちこちから擽られるような快楽性がある。まあ彼が実際にどれだけ IDM を意識しているかは謎だし、ヴェイパーウェーブのローファイ感をヒップホップと繋げて発展させてたら偶然近くなった、というだけかも。それはそれで凄いな。

Rating: 7.4/10



Vegyn - Nauseous / Devilish [Feat. JPEGMAFIA]

ROTH BART BARON 「けものたちの名前」

けものたちの名前

けものたちの名前

東京出身の2人組による、1年ぶり4作目。


前作「HEX」では何かに急き立てられているかのように外の世界へ駆け出そうとしていたのが、今作では対照的に自らの内面を省み、深く深く掘り下げているように見えます。オープナー「けもののなまえ」の歌詞にある「毛皮を脱ぎ捨てても 僕らはまだけもののまま」の一節。ここでの「けもの」とは胸の奥底に潜んでいる本当の自分、あるいはもっと大きな意味で、ヒトという動物が元来持ち併せている本能を差しているのだと思います。どれだけ進化してきたように見えても「けもの」の部分、本質は結局変わっていない。その本質の野蛮さや純粋さと社会的な理性との折り合いをつけながら、この世界、他者とどのように向き合うべきかについて、直向きに思索を続ける最中に生まれ落ちてきたのが、今作で綴られている言葉なのかなと。その言葉の中には「自分の子供が育てられないなら/他人の子供を育ててみてはいかが?」と自由な生き方への模索があり、「僕らの愛したヒーローたちは突然どこかへ姿を消した/僕らの順番がやってきた」と新しい時代を担う決意表明もある。比較的シンプルなインディフォークへ回帰し、言葉の存在感がより際立った10曲。

Rating: 8.1/10



ROTH BART BARON - けもののなまえ - (Official Music Video)