Vladislav Delay 「Rakka」

Rakka

Rakka

  • 発売日: 2020/02/27
  • メディア: MP3 ダウンロード
フィンランド出身、Sasu Ripatti によるソロユニットの5年3ヶ月ぶり13作目。


情報によると、彼は前作「Visa」のリリース後に所有していた機材をほとんど売り払い、北極圏のツンドラ地帯へと放浪の旅に出発。そこで体感した自然の厳しさからインスピレーションを受け、今作を完成させたとのこと。なるほど実際に今作を聴くと、その経緯が極めてダイレクトに反映されていることがよく分かります。遠くの空に吹き荒ぶ風はドローンと化し、それが容赦なく身体に打ち付ける吹雪となればハーシュノイズ、あるいはインダストリアルビートと化す。現地の環境音をエレクトロニクスでそのまま模写したかのような、徹底して殺伐、荒涼とした音世界。ノイズ/インダストリアルの実験性を探求しつつ、「Rampa」に至っては性急な速度で襲い掛かるビートがもはやブラックメタルの様相を帯び、そう言えば極寒の地とブラックメタルには密接な関連性があったな、などと思い出したり。ただアタック感や低音域がそこまで強調されてはおらず、むしろ全体的にはアンビエント由来の心地良い浮遊感すら感じられて、その冷たくも柔らかい絶妙な質感こそが今作を特異な印象のものに仕立てているように思います。険しくも美しいノイズアートの粋。

Rating: 8.4/10


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Kassa Overall 「I Think I'm Good」

I THINK IM GOOD

I THINK IM GOOD

  • アーティスト:KASSA OVERALL
  • 発売日: 2020/02/28
  • メディア: CD
米国シアトル出身のドラマー/プロデューサーによる、約2年ぶり2作目。


彼もまた Moses Boyd や Jeremy Cunningham などと志を同じくして、他ジャンルとのクロスオーバーによってジャズの可能性を押し広げようと試みる、気鋭のジャズドラマーのひとりというわけです。ただ彼の場合は特に急進的な姿勢が目立ち、エレクトロニックな意匠やトラップ以降のヒップホップ/ R&B の要素を、本筋のジャズと同等か、もしくはそれ以上の比率で盛り込み、そのうえ自らヴォーカルやラップもこなすといった多才ぶりも披露。熟達したジャズの渋味が大胆かつ洗練された手付きでエディットされていく様はいっそ壮観ですらあります。しかしそういったサウンド面の饒舌さと相反するように、歌詞の面ではむしろ繊細で内省的なラインが多く、場面によっては何処か神経症的な不安定さも見られたりもする。それでもなお一筋の光を掴もうと暗中模索し続ける様子が、ほとんどフラグメント化したバンド演奏の歪な感触と絶妙に呼応しているよう。ミュージシャンとしての卓越した技能とひとりの人間として抱える苦悩が、反発することなくひとつの楽曲の中に収まった、噛み応えのある内容だと思います。

Rating: 7.6/10



Kassa Overall - Show Me a Prison (Feat. J Hoard & Angela Davis)