NORIKIYO「Bouquet」

Bouquet

Bouquet

相模原出身のラッパーによる、2年3ヶ月ぶり7作目。


今作の背景のひとつとして、NORIKIYO は昨年に離婚して子供とも離れ離れになったとのこと。その遣る瀬無いブルーな心象は「朝へ運べ」や「枯れない花束」などに顕著に表れています。過去の楽曲においてもメロウな側面は見られましたが、ここでの彼のリリックは非常に内省的、私小説的な印象があり、まるで己の弱さを曝け出し、奮い立たせるためにラップをしているように見える。しかしそれだけには終始せず、以前のように挑発的だったり軽妙なユーモアを交える場面も多々あり、硬軟使い分けた様々な表情が全体にバランス良く配分されています。そして中盤に集中した、彼にとって(おそらく)初めての本格トラップ曲の連打。昨今の流行のフロウも取り入れつつ、流暢に言葉を刺してくる NORIKIYO らしさが表れた「やるなら今」、流れるようなメロディが印象的な「Learn 2 Learn」など、従来の個性と上手く折衷を図った佳曲が揃っています。移り変わるラップシーンのトレンドと、移り変わる自分の状況。その流れの中で NORIKIYO は持ち得るスキルを駆使し、内なるエモーションを音楽に昇華することに成功しています。これが彼なりの美しさ。

Rating: 8.1/10



【MV】NORIKIYO / やるなら今

Pharmakon「Contact」

Contact

Contact

NY 出身、Margaret Chardiet によるソロユニットの2年半ぶり3作目。


MV やアートワークを見ていて思ったのですけど、彼女の中で「人体」というのがひとつのキーワードなのかなと。骨肉や器官、体液といった人体を構成する様々の現象、働き、営み。それは改めて直視するとひどくシュールでグロテスクなものだけれど、突き詰めて一線を超えるとある種の美しさを纏いだす、その臨界点を彼女は目指しているのだろうかとぼんやり思ったり。音の方は前作からほぼ変わりがなく、相変わらずのどうしようもなさです。質の悪いインダストリアル・ノイズとご本人のヒステリックな絶叫が交錯し、聴き手に強烈な不安、嫌悪感を抱かせる実験的サウンド。敢えて言えばテクノ的なテクスチャーも見られ、音全体に広がりが増したでしょうか。まあでも微々たる差ではあるし手法自体に目新しい点はないのだけれど、それでも一度再生すればその場の空気を一気に凍り付かせるような、えげつない狂気はまるで損なわれていません。極めつけはクローザー「No Natural Order」。絶叫やノイズのせいで掴みにくいですが、どうやら改革など政治的メッセージを込めた楽曲らしく、その様は確かに痛みを伴って変容する瞬間のパワーを秘めている、ような。

Rating: 7.1/10



Pharmakon - Somatic (Official Music Video)