Weezer 「Pacific Daydream」

PACIFIC DAYDREAM [CD]

PACIFIC DAYDREAM [CD]

1年半ぶりとなる11作目。


今年に入ってから BeckQOTSA などオルタナ勢がダンスポップに意欲的な新作を立て続けに発表しており、ポップ隆盛の潮流もいよいよ極まりつつある昨今ですが、そこでこの Weezer の新譜。ここ最近の数作で初期のパワーポップ路線への回帰を見せていたのが、ここでまた舵を切り直して今回はちゃめちゃにポップです。もちろんラウドなギターを主としたバンドサウンドという体は一応保たれてはいるものの、ヒップホップや R&B からの着想が大きいと思われるリズムセクション、やたらと煌びやかさが強調されたプロダクションはこれまでに類を見なかったくらいのセルアウト感。冒頭3曲が季節外れの夏真っ盛りなムードを演出してるのも華やかな印象に一役買っているかもしれません。初期偏重のファンや批評筋からは当然のように酷評されそうなものですが、むしろここまで振り切って大衆を意識し、ヒットチャートにガッツリ食い込もうとする姿勢はいっそ清々しいとも言える。それが許されてしまうのも、元からラウドさと同時にのほほんとした親しみやすいメロディを第一義としてきた彼らだからこそなのですね。個人的には納得の一枚。

Rating: 7.2/10



Weezer - Mexican Fender

SUGIZO 「TRUTH?」 「REPLICANTS」

TRUTH?

TRUTH?

1997年に発表された初ソロ作のリマスター再発盤。


リマスタリングの恩恵は音の解像度が気持ちぶん上がったかなという程度ですが、それは原盤の音のバランスがすでに完成の域にまで仕上がっていたことの裏付けでもあるかと。LUNA SEA のアート分野を司っていた彼は、バンド休止期間の中で特にソロ活動に意欲的だった印象があります。ドラムンベーストリップホップといった当時の先鋭に位置していたクラブサウンドを貪欲に取り込み、そこに幻惑的なアルペジオからディストーション・スクリームまで、彼の代名詞と言えるギタープレイを惜しみなく投入。さらに女性ヴォーカル陣や坂本龍一、Mick Karn などの強力なゲストも多数参加した楽曲群は、架空映画の劇伴集のような多彩さを持ちながら、それらは強固な一本の線で結ばれてひとつの壮大な組曲を形成しています。リリースから20年も経てばさすがに経年劣化を感じそうなものなのに、今聴いてもなお楽曲の説得力は薄れず、むしろ他に類を見ないそのオリジナリティはより輝きを増しているようにも見える。それはエレクトロ要素が安易な流行への目配せではなく、彼の内面にある小宇宙を表現するための必須要素として機能しているからでしょう。

Rating: 9.7/10


REPLICANTS

REPLICANTS

1997年発表のリミックス EP 収録曲に未発表曲を加えた編集盤。


こちらは「TRUTH?」の基盤を成していたドラムンベースやヒップホップ界隈のリミキサーが多数集結しており、特にドラムンベースの存在感が強い。稲妻のように走る高速ビートと上モノのスペーシーな広がり、フィジカルな即効性と執拗なリズムパターンの反復から生まれる恍惚。それらは曲の中で渾然一体となり、聴き手の神経を様々な角度から刺激してくる。モノによってはどの辺に原曲の面影があるのか分からないくらい完膚なきまでに改変されているのですが、ダークで実験的、なおかつ耽美的でスタイリッシュな印象はいずれの楽曲においても共通しているため、オール外注のリミックスアルバムとは思えないほど全体の空気感が統一されています。特にその中でも「LIKE A GOLD Le Fou」の雄大な自然を思わせる美しさは思わず息を呑む仕上がり。また今回初出となった「ABSTRACT BEAUTY」はアルバム中1、2を争う不穏なムードに背筋が冷え、「THE SENSUAL KANON」は原曲を程良く保ちながら開放的な爽やかさが付与されているようにも感じ、また新鮮な印象を受ける。「TRUTH?」の世界観を十分に味わうなら今作もマスト。

Rating: 8.9/10