Steve Lacy 「Apollo XXI」
- アーティスト: Steve Lacy
- 出版社/メーカー: 3qtr
- 発売日: 2019/05/24
- メディア: MP3 ダウンロード
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同じ The Internet からのソロでも、現行の R&B ポップとして隙なく高品質に仕上げてきた Syd とは対照的で、やたらとラフ、かつフリーダムな印象を受けます。彼の持ち味である細く硬く歯切れの良いファンクギターを随所に散りばめつつ、ビートはザックリとシンプルに、ソウル由来のスウィートなメロウ感で包み込む。ただ最小限しかベースが入ってこなかったり、音作り的にはやや大味な感もあったりで、100%の完成まで詰める一歩手前みたいなところがどの曲にもあり、それが彼の持つ奔放さ、ユーモラスな魅力を強調しているように思います。また歌詞の面では、9分超の大胆な三部構成でバイセクシャルとしての思いを投影した「Like Me」を筆頭に、肉体的にも精神的にも繋がりたいという欲求を吐露した「In Lust We Trust」や「N Side」など、ナイーブな側面もかなり強く表れてる。サウンド的には至って自由で軽やかだけど、それが完全に外に開かれたものではなく、むしろ内省的な方向に向かっているという奇妙なバランス感覚。今やプロデューサー/コンポーザーとして方々から引っ張りだこの彼にとって、敢えて飾らない素の姿を曝すことが必要だったのかも。
Rating: 7.4/10
HYDE 「anti」
- アーティスト:HYDE
- 出版社/メーカー: Universal Music =music=
- 発売日: 2019/06/19
- メディア: CD
少し前に ONE OK ROCK の新譜が「洋楽っぽくなってしまった」と賛否を分けていたのが話題になっていたかと思いますが、それは単なる邦楽リスナーのゼノフォビアというわけではなく、海外進出を志向するあまり本来持っていた個性がひどく薄れ、手段と目的があべこべになってしまっているのではという懐疑なのだと思います。そして自分はこの HYDE の新作にも近い感覚を覚えました。最近だと Bring Me the Horizon を筆頭とする、言わばニューメタル以降の洗練されたメタルポップ路線で、VAMPS の方向性がより焦点を絞って純化されたとも言えます。インタビューでも海外ツアー/フェスへの高い意欲を語っていたし、流暢な英詞も相まって欧米圏へ進出する準備は万端という感じ。ただ従来の耽美なポップネスはうっすら残された程度で、悪い意味でも海外アクトと並べて遜色がないと言うか、区別がつかない。今現在の彼にとってこの音が最もリアルだというのなら仕方ないですが、今更になって彼がこの音を演る意味が果たしてあるのか?という思いはどうも拭えない。むしろ世界の何処にもない個を突き詰めたアクトこそが海外で評価されるのではと。
Rating: 5.7/10