LITE 「Multiple」

Multiple

Multiple

2003年結成の4人組による、約2年半ぶり6作目。


Cubic から Multiple へ、つまりバンドの持つポテンシャルをより多面的、多角的に表現するという意気込みの表れなのだろうと思いますが、確かに今作にはこれまでの道程を踏まえた、LITE らしいと言える音楽要素が余すことなく綺麗にパッケージされています。奇数拍子連発のテクニカルなフレーズが徐々にドラマチックな色味を帯び、極めてスマートに熱量を高めていくマスロックサウンド。今作ではそこに新機軸として、エレクトロニックな音作りでトラップをやりつつギターだけスカをやるという怪現象の「Brizzard」、同じくトラップを基盤とした演奏にゲストラッパー参加で本当にヒップホップと化した「Ring」のような目玉もあり、曲調は幅広い。ただその幅広さをそのまま派手に打ち出すことなく、余計な音が削ぎ落されたタイトなアレンジや、高度なテクニックを涼やかに聴かせる肩の力の抜けたプレイで、全体としてはむしろコンパクトに纏まっているという印象があります。結成15周年を経てもなお自然体、ソツ無く平常心で自分達の表現に徹するという姿勢、この燻し銀の味わいこそいかにも LITE らしいという感じですね。

Rating: 7.3/10



LITE - "Blizzard"

NOT WONK 「Down the Valley」

Down the Valley(CD+DVD)(初回生産限定盤)

Down the Valley(CD+DVD)(初回生産限定盤)

苫小牧出身の3人組による、約3年ぶり3作目。


1曲の僅かな間でも聴いているうちに感情、情景の色味が次々とスライドしていく、その情報量の多さに圧倒されます。ジャズ/ボサノヴァ風コード進行で涼やかな風を吹かせたかと思えば、堰を切ったようにディストーションサウンドが空間一杯に轟く。また多彩なリズムパターンや BPM であったり、穏やかな調子の中でも忙しなく転調を繰り返すなど、曲の持つ表情が時には微細に、時にはダイナミックに変化し、まるで一定ではいられない。それは彼らの抱える感情が常に揺れ続けており、決して単純な一言では言い切れやしない、極めて多層的なものであるということを鮮烈なまでに反映しています。ただ複雑な曲構成ではあるのだけど、始まりから終わりまでの流れは至って澱みなくスムーズで、音色や速度のスイッチングが全て必然であるように感じられる、極めてナチュラルな鮮やかさ。この作品は音楽的には純粋なパンクというわけではないですが、自己を曲げずエモーショナルに徹し、パーソナルでありながらオープンである、というのはバンマス加藤修平のパンクに対する哲学そのものだろうし、その意味で言えばこの作品は清々しいまでにパンクでしょう。

Rating: 8.4/10



NOT WONK / Down the Valley MUSIC VIDEO