筋肉少女帯 「レティクル座妄想」 「ステーシーの美術」 「キラキラと輝くもの」 「最後の聖戦」


筋少祭りのラスト、トイズを離れて MCA ビクター時代とマーキュリー時代の4枚です。



レティクル座妄想

レティクル座妄想

移籍第一弾、心機一転の9作目。


今作でセルフプロデュースに戻り、アンサンブルに以前の肉体性が戻ってきました。 「エリーゼ」 「UFO」 で見せたポップセンスと随所に仕掛けられたプログラミング音がメタル演奏と融合し、バンドが本来持っていた毒要素がブーストされてます。今までの経験を確実にモノにしてる感じ。そして歌詞の毒も最高レベル。思春期のルサンチマンを痛烈に書いた 「蜘蛛の糸」 を筆頭に、やたら生と死に関するキーワードが頻発して閉塞感が充満してる。それが厚みのある演奏と相まって有無を言わさぬ重厚な世界観を作り上げてます。特にラス前 「レティクル座の花園」 で不意に明るい雰囲気作っといて次の 「飼い犬が手を噛むので」 で結局 「ダメな奴はダメなんだ」 と八方塞がりのオチを突きつけるラストが強烈すぎる。下手すりゃ今までで一番根暗な作風なんですが、そんな中異彩を放ってるのが牧歌的な本城ポップス 「香菜、頭を良くしてあげよう」 。メロディも歌詞もほのぼの感と切なさが混じり合っててじんわり泣ける。これ本当良い曲。 でもあくまで全体はコンセプチュアルで圧倒的な暗黒大作ですけどね。筋少中最も密度の濃い作品かも。


Rating: 8.8/10



ステーシーの美術

ステーシーの美術

メンバー各自のソロ活動を経て、2年ぶりとなる10作目。


タイトルが 「グレイシー柔術」 のもじりだとか、頭とケツが 「怒りの鉄拳」 のカヴァーだとか、オーケンが特攻服着たりだとかで男臭さをアピールするのが今回のテーマ、らしいです (笑) 。でも確かに今までよりクリアな音で勢いが増してるし、ポジティブな力強さが感じられる部分もある。特に 「銀輪部隊」 が一番分かりやすいですね。シリアスなストリングスをバックに従えた長い語りで 「泣きながら行け!」 と高らかに熱いメッセージを叫ぶ異色曲。切実さや説得力があってグッときます。でも前作の暗黒路線は完全には抜けてなくて、陽気にゾンビゾンビと合唱する 「トゥルー・ロマンス」 や短編小説並にストーリーの立った歌詞が泣ける 「再殺部隊」 「リテイク」 でも生死に関するターム連発。前向きになりたいんだけどやっぱり深い業は抜けないみたいな、分裂気味な所はやっぱり筋少だからでしょうか。オーケンが自分自身に向けたリハビリみたいな作品だなと思いました。前述の曲はどれも好きですけど。


Rating: 7.4/10



キラキラと輝くもの

キラキラと輝くもの

マーキュリーに移籍しての11作目。


物理的な音の密度が濃くて暑苦しい、というのが一番の印象。 「小さな恋のメロディ」 「機械」 「僕の歌を総て君にやる」 と剛直でドラマチックなハードロック3連発をカマし、さらに9分に及ぶオーケンの独白曲 「サーチライト」 でダメ押しする攻め一辺倒の曲順のせいだと思うんですが。前半はほとんど力業で圧倒しまくりの勢い。特に 「サーチライト」 は力強い合唱コーラスがこれでもかと言わんばかりに繰り返され、 「俺みたいにはなるなよ」 と皮肉混じりに心情を吐露するオーケンの詞が妙に心に引っかかる怪曲。これだけでも腹一杯な気分になる。でも後半は一転してポップな曲が並び、終わりに向かうにつれて優しい曲調になっていくという変わった構成。 「何もできないけど歌だけはずっと歌っていく」 というオーケンの思いが垣間見える部分が多く、少しハートウォーミングな雰囲気もあったり。リハビリで快方に向かってるという感じですかね。演奏は暑苦しいけど詞は毒控えめで何だかポジティブという、不思議な聴き心地のアルバム。


Rating: 7.0/10



最後の聖戦

最後の聖戦

12作目。この作品を最後に活動停止、そんで10年後に復活、という流れ。


ここにきてある種の成熟味が出てきてるというか、全体的にバランス良くまとまってる感があります。ヘヴィな演奏&シャウトから劇的な展開を見せる秀曲 「カーネーション・リインカネーション」 でグッと引き込まれ、高速メタルチューン 「境目のない世界」 、ほのぼのポップス 「お散歩ネコちゃん若き二人の恋結ぶ」 、空手バカボンっぽい小曲 「哀愁のこたつみかん」 、感傷的なシンセとピアノが広がる 「友と学校」 といった具合に、今までの筋少を総括するように様々な曲調が上手く配置されていてグイグイ聴き進められる。あと 「青ヒゲの兄弟の店」 では水戸華之介とデュエットしたり 「221B戦記」 ではオタク層ウケを狙ったのか水木一郎神谷明宮村優子が参加してたりとゲスト陣が目立つのも今回の特徴ですかね。面白いアクセントとして機能してる。さすがに昔のような毒は薄れたけど、筋少というバンドを分かりやすく俯瞰できる作品だと思います。


Rating: 7.8/10


以上12枚。活動歴が長い上にアルバム各々がえらくキャラ立ちしてるからか、実に波乱万丈な流れがある気がしますなー。オリジナルで初めて聴くなら 「月光蟲」 「レティクル」 「聖戦」 辺りがオススメですかね。復活後の 「新人」 でも良いと思うけど。というか 「新人」 の次の一手でどう出るかが非常に楽しみ。これからもチェックしとこうと思います。


あと最後に 「大公式2」 ですが、 「福耳の子供」 の再録は真っ当なグレードアップが施されてて良い感じですけど、未発表曲の 「タイトロープ」 はこれCM用か何かか?1分にも満たない小品中の小品で軽く詐欺チックなので 「昔の曲を良い音で聴きたい!」 っていうコアファン以外は手出し無用かと。