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宇多田ヒカル「Fantôme」

Fantôme

Fantôme

8年半ぶりとなる6作目。


8年の空白がまるで嘘だったように簡素な手触りのアルバム。今までも彼女自身の歌が楽曲の中心にあったのは言うまでもないですが、一層シンプルな音数で纏まったアレンジは彼女の歌、言葉を特にくっきりと際立たせています。瑞々しいポジティブな光を感じさせる「道」から苦々しさに満ちたジャズナンバー「俺の彼女」へ、心の葛藤が軽やかに描かれる「ともだち」から母親の影を色濃く感じさせる「真夏の通り雨」へ、幻惑的なムードの中で紡ぐシリアスな言葉に息が詰まりそうになる「忘却」からは、その名も「人生最高の日」へ。移り変わる心の揺れは楽曲ごとに微細に表現され、光から影への色合いは大胆かつ自然に繋がれています。ジャケットやアルバム表題からの印象もあるかもしれませんが、今までよりも大人びた落ち着きを感じさせる、淡く滲んだ楽曲の色味、その明暗が入り混じって全体的には灰色のイメージが残る。その微妙な色調にはある意味彼女の等身大が過不足なく表れたと言えるだろうし、もしかするとこれまでの中で今作が最も人間臭いアルバムかもしれません。人が持つ「気配」というのは、本来こんな風にシンプルで複雑なものなのだと。

Rating: 8.7/10



「二時間だけのバカンス featuring 椎名林檎」(アルバム「Fantôme」TV-SPOT)